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次の予定は大蜘蛛だったり

「これで次のが無事に解除で来たらこの部屋は普通に戻るね。」

ルクーに確認するとこくりとひとつ頷いた。表情は人形だから変わらないけどたたずまい?というか雰囲気というかなんだか嬉しそうに見える。

長く転移魔法の入口と化していた我が家の2階にようやく目処がつきそうだ。


「次の部屋はなんなんだ?必要な装備とかあるだろ?」

エリックがお茶を飲みながら問いかけた。

彼は昨日まで腕試しと鍛錬としてアメリ叔母さんのところへ魔物退治に出かけていた。

叔母さんの依頼はなかなかに練度が上がるらしく最近ギルド内でも重宝されるようになったと教えてくれた。

「うぅん。なんだかねぇ。森みたいなんだけどね。おじいちゃんの覚書ちょっと見たらアラクネに会いたい、とかある。」

「アラクネ、なんつうかそれすっごいやな予感しかしないわな。」

エリックが思い切り顔をしかめる。そうとても嫌な予感がする転移先なのだ。

「アラクネって魔物の蜘蛛に決まってるじゃない。」

ヴィヴがあっさりと答えを口にする。

「ヴィヴ様、エマ様はわかっててはっきり言わなかっただけですよ。」

ジョルジュがルクーの出してきたお茶を一口飲んだ後に控えめに抗議するが、ヴィヴは全く意に介さない。

「そんなことより現実を直視しなくちゃダメでしょ。どの道開けたらいるんだから。」

「そんなことよりって・・・・。ヴィヴ様・・・」


そう、開けたらいる。しかもアラクネの好みは鬱蒼たる森。祖父がつがいを手配したかは知らないけど繁殖力は旺盛。ただし、子グモのうちから飼い慣らせば使い魔にすることもできる。

アラクネを使い魔にした魔女の話は伝説、おとぎ話に多い。ただし、悪役率高め。

曰く、うっそうたる森を住処としたアラクネが道行く旅人を頭からバリボリと貪り食ったとか、休憩中に子蜘蛛が脚に巻く糸を木に結わえていたら根っこごと吹っ飛んで命拾いとか枚挙にいとまがない。


「気がすすまないなぁ。」

私が呟くと

「あら。私は平気よ。私、昔からアルラウネの話を聞いて蜘蛛の使い魔に興味あったの。手頃な仔がいたら使い魔にしたいわ。」

ヴィヴが心なしか目をキラキラさせて言う。

「マジかよ。」

エリックがげっそりした表情になり、ジョルジュもいささか顔色悪く目をそらした。

アルラウネの話は置いておくとしてもあまりアラクネを使い魔として持ったという話は聞かないのが現状ではあるけれど。


ちなみにアルラウネの話とはアラクネを使い魔とした魔女の話で女神に捧げる神衣を作り上げたという伝説の魔女であり職人の物語だ。

女性の職人は彼女を守護聖人として祈りを捧げたり祭りを行ったりしている。

私も女性として店舗を営み護符を書いたりする職人の端くれとして工房に簡単な祭壇を作る程度にはメジャーな聖女なのだ。



(解除が上手くいったら絶対に部屋分けよう。上手くいかなくても使い魔にアラクネをゲットしやがったら私、工房行こう。それと虫よけ結界だな。)

私の固い決意の元、アラクネ部屋の攻略準備が始まった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「エマ、これ日記ですよ。アラクネの部屋について書いてある部分があります。日記なのでちょっとお覚悟を。」

ルクーが祖父の古い覚書を渡してきた。

「ありがとう。」

礼を言って受け取る。

「読むなら工房で。一人で。でも今は晩御飯。今日はエマの好きなのですよ。」

ルクーが何度か念を押してきたので美味しい食事を終えてヴィヴが部屋で湯浴みする間に作業場で日記を読んだ。


早い話が妻への愛情語りだった。まぁ予想通りではあったけれど。

ルクーが守りたかったのは機密ではなく祖父のプライバシーだったらしい。

(ルクーの覚書の時にあれだけ書いてたんだから予想つけとくべきだったよね。)


妻になる恋人に美しいアラクネ糸のベール送りたい。だがアラクネ糸高い。高くて買えないならアラクネの主になればいんじゃね?

願望→問題提起→思考からの解決策。祖父はやっぱり安定の思考回路だった。


(アラクネ糸でこれなら家が迷宮化したのも当然か。おじいちゃんは若い頃からブレないね。)

おばあちゃんの時は手に入れたアラクネがまだ若くて結局ヴェールしか作れなかったけどアメリ叔母さんや私の洗礼服やそんな時のおばあちゃんの晴れ着になったらしいことが書かれていた。

(アラクネ糸の服?記憶にないなぁ。あ、ひょっとしたらアメリ叔母さんのウェディングドレスかな?)


ヌヴェールにいた時もアラクネ糸は希少だったから大貴族令嬢のドレスくらいしか見たことない。

私にもお祖母様が成人の祝いにと一着ドレスを仕立ててくれた。

柔らかいパステルイエローのとても美しいドレスだったけどヌヴェールの家に置いてきた。

職人や優秀な魔法使いがいればアラクネの糸で補修することも可能なものだからいつか一族の誰かが再活用してくれるといいな、と思う。


(あ、思考がそれた。)

おじいちゃんの覚書をもとに分析してみるとアラクネはとりあえず50年もの。手に入れたのはメスの個体。

どうやら男性(と言っていいのかな?)の好みが厳しくて番には出会えていないこと(ただし10年前時点)、成長が著しく街中で飼育すると驚かれるし息苦しい生活を送らせるのがかわいそうなので快適な森を用意して、一人になっても寂しくないように飼育場所への転移陣を自宅に設置しことが書いてある。


ちなみに名前は『ピッパ』ちゃんというらしい。


アラクネ、アラクネ言っているとなんだか不穏な魔物のイメージだけが膨らんでいくけれどピッパちゃんと呼んでみたら印象が変わるだろうか?

「ピッパちゃん、ピッパちゃん。・・・・だめだ。浮かばない。」


アラクネは成長に伴って思考能力が発達して来るらしいからとりあえずいきなりエリックに攻撃とかさせないで置いた方がいいかもしれない。

おじいちゃんのことを恨むようなことになっていなければ穏便に話し合うことが出来るかもしれない。


(転移先の森で人に危害を与えてるとかいう事態になってなければそのまま部屋を閉じてもいいしね。)


『ピッパちゃん』との再会、まだまだ不安要素がたくさんになりそうだ。


暁星堂2階の部屋の転移陣は合計3つ。

これから攻略の蜘蛛の密林、エッシェンバッハの青の洞窟。カグヤさんの国につながる通路です。

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