薬草師は人見知り(前)
薬草の名前は思い付きです(汗)
子犬の形を崩し本来の姿に戻りふわふわ漂いながら魔力を薬草に注ぐ。
多すぎても少なすぎても薬効に影響する繊細な作業を無事にこなすことはシャンタルに大いなる満足感をもたらす。
エマはポーション作りは基礎しかできないし、暁星堂では簡単なハーブティーしか扱っていないからこの薬草は摘み取っては時を止める魔法倉庫に貯まるしかない。
ポーションに使わなくても十分な薬効があるから魔力の少ない薬師でも良い薬が作れるのに、とシャンタルは残念でならない。
「我がいとし子たちよ。善きものの手へと渡り善き実りをもたらさんことを。」
明日にはまた一部刈り取りをしなければならないだろう。クランやリンカなどを見ながらシャンタルは満足感に満たされていた。
「こんなに豊作になったのは嬉しいんだけど、薬作りなんてよくわからないんだけどぉ!」
朝起きて庭を見ながら私は思わずため息をついた。
シャンタルの加護の力で我が暁星堂の狭い中庭は早春にも関わらず膝丈ほどに伸びた様々の薬草が生い茂っている。
「最近様々の魔力ポイントに行くであろ。我が身に力が満ちたのが溢れるのだ。」
溢れる魔力を注いで見事に生育しツヤツヤした葉を愛しげに見るシャンタルの眼差しは満足げでそれを見ると私には何の反論もできない。
確かに薬草が繁茂するのは悪いことではない。
ただ庭の薬草を収穫してギルドに卸しても正直利益が乏しいのだ。
正業である狩人用護符や商業用契約魔術用品を作って卸す仕事が忙しくて管理する手間が惜しいなんていうぜいたくな悩みなのはわかっている。
本業に支障は出したくないし、スキルも足りないけどこの薬草を生かせないのはいかにも惜しい。満足そうに庭を見つめるシャンタルの労にも報いたい。
薬師を探そう。それもシャンタルの成果を最大に活かせる最良の薬師を。
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(久しぶりのブルグはなんだかよそよそしくて早く村に帰りたいなぁ。)
眩しい朝のひかりの中を歩きながらラザールの心はまったく空模様とは逆のどんより具合だ。
(朝日とともに起き出して畑に足を運ぶのは苦にならない。このところ雨が降らないから帰ったらクランの株に水やりをしないといけないな。)
そんなことを考えながらラザールはトネリコ薬房に足を運ぶ。
ラザールの仕事は薬師だ。ブルグの老舗でもある薬屋トネリコ薬房で見習いからこつこつと働いて今は優秀な薬師となっている。
薬草農家に生まれたラザールは大人しく人見知りな子供だった。薬師にして村の役にたてたいと遠縁にあたるトネリコ薬房に修行に出されたのだが勉強熱心な彼は主人に気に入られた。
そしてブルグ老舗のひとつであるトネリコ薬房の娘のカトリーヌと婚約することになった。
修業がすんだら村に帰って薬師として村人の役に立つ生活を送りたい。
そんな希望は婚約する前からカトリーヌには話していたし応援してくれていた。
「町で培った知識で街に居なくても人の役に立てるなんて素敵ね。」とカトリーヌはいつも励ましてくれていた。
だから正式に婚約が調ってからもラザールは彼女の異変に全く気が付かなかったのだと思う。
ラザールの婚約者だったカトリーヌは突然ブルグを出ていった。
『あなたのことは好きだけど兄のような好きだったの。ごめんなさい。私は私の心を偽れません。許してください。私はパスカルが好きなんです。』
故郷のミサカ村に行ったラザールに用事があるし新居が見たいと言って家を出たカトリーヌの行方が知れないと騒ぎになったのが3日後でラザールが実家の村から戻るとトネリコ薬房は大騒ぎになっており、
カトリーヌの父であり師匠である主は土下座せんばかりに謝ってラザールはことの次第を知った。
パスカルは同じ頃に入った弟子だけど人見知りで口下手なラザールに比べて明るくて人好きする男だ。若い娘なら誰でもラザールよりはパスカルを選ぶ。
パスカルもカトリーヌを憎からず思っているようだったけど、親としては娘に穏やかな暮らしを望んだのだろう。娘の連れ合いに選ばれたのはラザールだった。
「おめでとう。お幸せにな。俺はしばらくヘントに修行に行くよ。」
パスカルはそう言ってブルグを去った。
二人に意志の疏通があったのかは誰も知らないけれど彼女を追い返すことはなく、やがてカトリーヌの無事な到着と丁寧な謝罪の手紙が返ってきた。
「カトリーヌとは勘当する。お前は変わらず働いてくれ」と言われたがそこまで面の皮は厚くない。
周りの視線も痛い。それにパスカルも優秀な薬師だ。
ラザールさえいなければおそらく店主はパスカルとカトリーヌの仲に反対はしなかっただろう。
そんなことを考えながらぼんやりとそれでもいつもの仕事をこなす彼をみんなが腫れものでも触るように扱った。
酒に逃げれたら楽なんだろうけど体質的にすぐにゲロゲロになってしまうから無理だったし、博打でもとそんな街を彷徨いたけど店の入口にいるお兄さんが怖すぎて近づくことすらできなかった。
女の傷は別の女で、と言われたけれどそれも無理。昨夜だって戻ってきたラザールを兄弟子たちは花街に連れて行ってくれたけど豊満なお姉さんなんて竦んでしまって役に立ちもしなかった。
結局薬草を育てたり、薬を作る作業をしている時が一番ラザールが安らげる時間になる。
下見していた契約を解消してくることを口実に村に帰ったラザールは村で薬草の世話をしながら過ごしていた。
だが家族もそろそろ彼を持て余しているのは分かっていたし、代替わりして兄夫婦が差配する家にいつまでもいるわけにもいかない。
(薬草園をひとつ買ってこのまま村に帰り薬師をしようかな。)
そんな計画を兄に話してみたら好きにしていいと言われた。元々村で薬師をするために修行にでたのだ。
店主は残っていいと言うけれどラザールがいればパスカルとカトリーヌは戻れない。
今は店主もそんな気になれないだろうがいずれ娘には会いたくなるに違いない。ましてパスカルは王都に修業にいけるほどの優れた薬師だ。
きっと許してくれるだろう、問題はそれを上手く言えるかだ。
そんなことを考えながら歩いているとラザールの頬を風が優しく撫でた。
(こちらへおいで。)
そう囁かれ呼ばれた気がする。
ラザールは呼ばれるままにいつもはあまり向かわない方向へ足を向けた。
(この扉の向こうにある。)
突き動かされるように歩いてきたラザールは民家の中庭に通じるらしい扉の前で焦れていた。
当たり前だが鍵が掛かっていて入れないからだ。
(入りたい、入りたい!気になり過ぎる。)
普段のラザールなら鍵のかかった扉なら普通に諦める。だが今はそんなことは考えられない。
(まともに入れないなら侵入するしかないじゃない?)
ひょろひょろとした見た目にそぐわず薬草の世話などで腕力のあるラザールは塀に飛びついた。
なんだか不幸属性みたいなラザールくんは無事に帰宅することが出来るのか?
引っ越しが終わり落ち着いたのでようやく投稿出来ましたw




