新入店員ヴィヴさん
「で、エマはこの街でおじい様の道具屋を続けていくことが一番の望みである、ということで間違いないのね。」
私の意志に納得が言ったらすぐに帰るかと思っていた二人は結局なんだかんだとここに居残ってそろそろ半月たとうとしている。
ちなみに今日はジョルジュはエリックに連れられて狩人ギルドに鍛錬に出かけている。
ジョルジュがヌヴェールで戦士としての訓練を受けている話をしたらエリックが手合わせを申し込んで最近よく行っているのだ。いい若者がヒマにしてるのもなんだということで快く送り出しておいた。
ジョルジュは今は「眠り猫」屋でお運びさんをしていると聞いているし、二人で一緒にいることも多いのでどうやら仲良くなったらしい。
よいことだ。よいことだ。
言うべきか迷ったけど一応この家の話はしておいた。うっかりどこかに飛んでいかれたら大変だし。
もっともヴィヴは行ってもどうにかなりそうだしそもそも説明すればそんなドジは踏みそうにないからこの注意は主にジョルジュに向けてだ。
この子はうっかり踏みそう。というか踏む。確信がある。知らないでどこか遠くに行ってしまって
「お嬢様~、ここはどこですかぁ?」とか泣いている姿がリアルに目に浮かぶ。
ドアノブに触れる対策に魔力封印の腕輪を付けさせたら傷ついた顔をしたけど実際に国境のはるか向こうに吹っ飛ばされるよりはましなので我慢してほしいところだ。
私のほうは最近はもっぱらヴィヴと二人で暁星堂を営業している。
ヌヴェールでは一応お嬢様のヴィヴを店番にするのはちょっと気が引けるけど本人も楽しそうに働いているし、計算なども速いので助かっている。気のせいか若い男子のお客さんも増えたような気がする。
今のところ商品の中で人気なのはシャンタルとルクーの謹製である美肌液とハーブティー、台所で使われる火の魔石と魔法陣のキッチンセットだ。
ヴィヴが接客するようになってから美容液の売り上げが順調に伸びている。
とくに魔石は近いうちに入荷して細工しないといけないなぁと思いながら帳簿を付けているとヴィヴが覗き込んできた。
「それは今のところ売れているの?あとは灯の魔石、なのね。探索用?」
「狩人の人の野営にも使うし、家での照明にも使うからね。」
そうかぁ、と言いながらヴィヴがすっと作業机を離れ、なんだかあからさまにテーブルを拭いたり商品を並べなおしたり始めた。
ヴィヴは杖を使って発動することは得意だけど魔法陣を緻密に書くような作業はあまり好きではない。
忙しいなら手伝え、と私が言い出す前に「働いてますよ。」と自己アピールを始めたのが丸わかりで思わず噴き出した。
「魔法陣書くのが苦手なのはわかってるからヴィヴは私の頼んだこと考えておいてくれたらいいよ。」
と私が笑ったらちょっと困った顔をして机に広げた書き損じを集めた紙を手に取ってとんとんと整えた。
「別に私が描くのが苦手とかなわけじゃないもん。ヌヴェールの術式で発動しないと悪いじゃない。」
つんと顔を上げるが、残念ながら魔法陣に使う言語は大陸共通だからその理屈は通らない。
「でもさぁ。オッサ・・・男の人のデザイン作った鞄とかってどうして実用こそ正義!なのかしらねぇ。」
ヴィヴが廉価版の魔法鞄を手に持ってため息をつく。この鞄はオーク革をなめしたもので耐久性は確かに高い。
魔法攻撃も多少なら跳ね返すオーク素材だから低級の拡張魔法陣に耐えるので見た目の2倍は入り魔法鞄としてはお手頃価格になっている。
・・・・が、なんというか色合いが悪い。素材であるオークの肌色であるモスグリーンしかももっさめ。なるべくなら・・・避けたい。
空間拡張魔法で中身の重量は感じないけど「鞄自体の重さ」は感じるとかも改良できるものならしたいし。
「だからと言って倉庫の素材の大盤振る舞いはやめてよね。あんなの誰も買えないでしょう。」
新しい商品のデザインをお願いした初日にルクーと倉庫を見に行ったヴィヴは祖父秘蔵の素材にテンションが上がった。上がりまくった。
さっそく考えてきたものは
天寿全うしたドラゴンの逆鱗を使った魔法攻撃防御の腕輪。同じく牙で作ったナイフ。鎧、盾、諸々。
一角獣の角(生え変わりで入手)を使用し百年真珠をはめた杖。
万年雪山に住む白てんの毛皮を使用した絶対防寒外套。
月虹花の魔力結晶を完全液状化してコーティングした特性ローブ。などなど。
採算度外視どころか魔王でも倒すんですか?な伝説級アイテム、作るだけで高位魔導士が枯渇するレベルの魔力を要するもの。
誰が作れるんだ、そんなもん?計画しても一つでも作ったらいくら私でも魔力枯渇で死ぬ、確実に死ぬ。
っていうかおじいちゃんもどうやって入手してたんですか?ルクーさんも見せていいものと悪いものがあるでしょう?
いやいや在庫チェックを自分で終わらせていなかった私のミスですかね?
と本当に頭の中がグルグルしちゃってシャンタルが言うにはたっぷり20分は固まっていたらしい。
はっと気がついた時にはまだうっとりとヴィヴが作ろうリストを語っていた。
「・・・・ヴィヴさんや。ここはどこかね?」
「ブルグの街の道具屋さんでしょ。でも素晴らしい品揃えよね。ここでなら!!」
アクアマリンの瞳を少しばかり興奮で輝かせながらヴィヴがさらに恐ろしい提案をする前に止めないと、というかキレた。
「町の道具屋に伝説の武器クラスのもの買いに来る客がいるかぁ!!お嬢様の常識世界すら突破しとるわぁぁぁ!!」
とりあえず一部素材は『商品』としての使用は禁止することと庶民価格の勉強にしばらくはエリックとお買い物担当してもらうことで落ち着いた。
アツイ説教大会してしまったことは今ではちょこっと反省している。まぁ反省してるが後悔はしてないけど。
ルクーもあまりに素材倉庫の置き方を工夫してあまり高価なものは見せないようにしてくれたし、
ヴィヴも魔法重視の道具からとりあえず誰もが使える道具のデザインに重点を移してくれたからまぁ結果オーライでいいか。
「こんにちはぁ。お茶買いに来ました。」
そんな半月前のことをなんとなく思い出していると学堂や見習い奉公も終わった昼下がりから夕方には子供たちが暁星堂にやってくるとシャンタルの出番だ。
カウンターから姿を現してシッポを振って見せる。
「わんわんわん。」
「きゃぁ、シャンタルちゃん可愛い~!!」
若干棒読み気味に犬の吠え声をまねるシャンタルは可愛らしい女の子たちに囲まれて得意げに見上げる。視線の先には棚に留まったフランがいる。
ハヤブサな見た目のフランが「こわーい」と言われて以来シャンタルはご機嫌なのだ。
もっともフランはフランで男の子たちに人気だけど「おぉぉ。」な感じで遠巻きに見守るって感じなので物足りないらしい。
お茶や美容液を入れる袋や容器にシャンタルの顔を描くようにしてるからフランでも何かできないかなぁ。
ちょっと遊んでたら間が空きました。
月末に引っ越しなので少しストックが書けたらいいなぁ。




