ヴィヴへの説明(下)
前回の続きなので前回タイトルを(上)に変えました。
前回分の内容は変えていません。
放電にもめげずに抱き付くヴィヴを引き離すのに手間取った私はエリックに店番を頼むと作業室に二人を招き入れた。
エリックにはカウンターにいてもらうので部屋は違うけど私たちの話は一応聞こえる。
最初にかたくなに言いつのっている私が追い出されたという誤解を解かねばならないだろう。
ジョルジュの話によると私の別れの手紙を受け取ったヴィヴは案の定ロシェの家に駆けこんできたという。
ジョルジュの父親である筆頭執事が突然のことに戸惑う使用人たちをなだめながらも取りなしてくれたが結構な騒動になったことはその話をするときのジョルジュのうつろな目で察した。
ごめん、マジごめんなさい。
ヴィヴはまだ不満そうに口を尖らせたいたが、ルクーがお茶を出しに来るとジョルジュは椅子から落ちそうなくらい驚いてた。
「本当に追い出されたわけじゃないんだよ。」
もう何度目になるかわからない言葉を口にする。
「父も説明しましたし、私もここまでの道すがらずっとそう申し上げているんですけど・・・」
ジョルジュが申し訳なさそうにそういうのにヴィヴがきつい視線を送る。
「ロシェ家ではもう跡取りにフィリップを届け出てアンジェリークと婚約したわ。私、もう悔しくて。」
「フィリップ様はエマ様の親戚で婚約者でした。アンジェリーク様も遠縁です。」
扉の向こうから聞いているエリックに説明しているらしいジョルジュの声が聞きながら私は改めて説明する。
フィリップはロシェ家の後ろ盾がなくとも魔法魔術学院主席卒業でもあり自らの力で魔法師団への入団を勝ち取った実力もあるのだからロシェの家名を継ぐこと事態には何の問題もないと思っている。
実際ジョルジュに確認したらそのように届け出も済まされてすでに継承式も済んだらしい。
同期生だった第二皇子殿下の強い後押しがあったとも聞いた。まずはこれでヌヴェールの実家は安泰だな。
たぶん準備やらで結婚式は来年だろうからそれまでにひっそりと贈り物でもしようかな。
「あのね、二人とも。私は一応ロシェ家とはもう縁を切ったのね。だからここではデボックって名乗ってるんだけど。」
「デボック?フランドールのデボックって?」
ヴィヴさん、食いつくところが違う・・・。てか横道にそれる。
「あ、違うと思うよ。叔母さんも何も言ってないから。」
「叔母さんって言うとあの方ね。『銀色の疾風』様のことよね。」
「その二つ名やめてあげてね。もう本人引退したしあまり大仰だって言ってるしね。」
ヴィヴはとりあえず一緒に家に残ることにしてジョルジュはエリックの家に泊めてもらっている。
あと一部屋がまだ転移陣だし作業場や倉庫は危険だからしかたない。
お嬢様方から離れるなんて、と渋ったけれどシャンタルの姿に気がつくとなかば複雑な表情で引き下がった。
ヌヴェールでシャンタルの実力については嫌になるくらい知っているから当然の反応ではある。
「エマと同じ部屋なんて学院以来だわ。久しぶり。」
ベッドに入るとぎゅうぎゅうと抱きつくヴィヴが「やっぱり柔らかい、くぅぅ」とうなっていたのは聞こえないことにした。
背も高く優秀で美貌なヴィヴの唯一(と私は思っている)スレンダーな(すぎる)ボディを私と比べているんだろう。
もっとも別に私がボンキュボンなわけじゃなくてあくまで比較したら、レベルだと思っているんだけどね。
(シャンタル、そういえばジョルジュはよく吊るしたのにエリックにはしないな。)
部屋の隅っこでフランとシャンタルが相も変わらずやいのやいのしている。
でも気が付くと同じベッドで転がったりして寝てたりするのでたぶん照れ屋さんどうしなのだと思う。言うと怒るけど。
今夜は賑やかな夜になりそうだった。
それでも疲れていたのかヴィヴがすぐに健やかな寝息を立て始めるとそっとベッドを抜け出した。
改めてジョルジュに渡されたロシェの家から持たされた荷物を取り出して封を開ける。
手紙を開くとフィリップの母君にあたるマリー叔母様からのお手紙で体調を問う言葉とともに黙って家を出たことを叱責する言葉が書かれていた。
そしてロシェの家はたしかに自分たちが守っていくから縁を切ったとは思わないでほしいということや家に伝わる宝物については譲ることはできないが祖母個人所有の物品についてはそれを奪うほど自分たちは恥知らずではないし必要なものがあれば連絡するようにと書かれていて一連の目録が付けられていた。
それを読んで私はあぁ、私よりも彼らにロシェの家を任せて良かったなと思えた。
ジョルジュが持ってきてくれたのは祖母がいつも身に着けていたという金剛魔石の首飾りにドラゴンドロップとも呼ばれる高品質の紅玉魔石の指輪だった。
指輪の方は魔力発動を増幅する効果があり祖母が私のために取り寄せたと聞いている。
私はこれこそ家宝だろうと思っておいてきたものがいきなり姿を現して心の底から驚いた。
こんなものを簡単に送り付けてくる人が私を追い出そうとしているとはやっぱり思えないな、と考えつつ勝手をして申し訳ないと心の中でそっと謝罪する。
祖母の形見の指輪は身に着けておきたい品質だけどあれを付けてお店に出るのはこの街にはそぐわなすぎる。何か他の方法を考えないといけないな。
あの人たちが私のことを厄介者だとけして思っていないことが改めてわかってとても安心した。
きちんと受け取ったお礼と急に黙って出ていったことに対する謝罪と家督相続にまつわる手間をかけさせたことを改めて詫びう手紙を書こう。
本当はきちんと会って謝罪も挨拶もしたいけどしばらくは戻らない方が賢明だからしかたない。
結局ヴぃヴに私が本当にフィリップに未練がないことを理解してもらうのにたっぷり二日二晩かかった。
あまり頑張りすぎたせいか昨夜は彼が夢に出てきた。
びっくりしすぎてベッドから落っこちたことはヴィヴにはナイショにしようと思う。




