月夜の庭(後)
転移陣の解除2個目達成です。
壁の片側に白い魔力から発する光を見つけると近づいて確かめる。
うっすらと浮かび上がる転移の魔法陣に手をかざすとじっくりと情報を読み解いていく。
「書かれしものに込められしその意図を 写し取れ 書きあらわせ 」
左手を壁の魔法陣、右手を広げた羊皮紙にかざすと魔力をじっくりと左手に集めそれから右手へと移動するようにイメージを続ける。
ブルグの暁星堂のある座標から月夜の庭へ。転移陣の発動条件。転移陣を構築する術式の情報が循環する魔力を通じて脳内に流れ込み駆け巡る。
左手から吸い込まれる魔力を感じなくなったところで壁を見ると黒いインクで落書きされたような模様が残っている。
そこに注意深く手を触れて確認するが、もう魔力の残滓も感じない。この模様はただの文字の羅列となって移動の力を失ったことが感じ取れる。
壁の魔法陣から魔力を吸い上げたことを確認すると羊皮紙に間違いなく転写されているか一文字一文字確認した。
「大丈夫か?エマ。」
シャンタルが気づかわし気に声をかけるのに笑顔で頷く。
戻ってきた時にはまだ明るかった窓はもうすっかりと夜が更けている。
私は魔力量自体は多いので平気だが、袁社が終わるまで集中力を持続するのが難しいのが難点なのだ。
「文字もバランスも完成されてなんと美しい。エマの爺殿とはもっとゆっくり語り合いたかったな。」
「本当にね。」
なんだか少し空気がしんみりした。
「しかしあのダンジョンはまことによい『場』であったな。また行くのか?」
「そうだね。ここは素材もよかったしまた行く。魔法陣大事に取っておかないとね。」
「次は新月の宵に行きたいの。」
シャンタルが舌なめずりしながらそう言うのでちょこっと頭を撫でてやる。
「オオコウモリどころじゃないのが出そうなんだけど。」
魔法陣の解除が終わった後でエリックに連れられて浴場に行き、さっぱりした後に帰宅した。
ルクーが作ってくれた晩御飯を食べた後に改めて今日の収穫を確認することにした。
月光花と月虹花の花弁は魔石化すれば宝飾としても高くさばけるし、魔法媒介としても使い勝手がいい。万能素材だ。
月のダンジョンの泉の水は特殊な魔力を帯びた水で武器を鍛える時や魔石を洗浄する時に使うと効果が高い。
今回はあまり量を採取できなかったので鍛冶場のおじさんに回したら終わりかな、くらいの量だ。
月兎13羽分の素材も魔物肉は種類によっては食材としても使われるが兎類はその中でも特にポピュラーな部類になる。
毛皮は魔法素材としてよりも普通に原材料として服飾関係者に好まれる。
ふわっとした兎の毛皮は魔物でなくとも人気で月兎はこのへんにもいることはいるけれどやはり万年夜の環境にいるだけあって艶々としたいい毛並みをしている。
月兎の魔石の方は魔石であるというくらいの価値で職人が加工して日常生活に使う魔石に用いられることが多い。
大コウモリは肉とかに用途はないので丈夫な飛膜と同じように丈夫で細工などの骨格に使われる骨に分ける。
コウモリの姿はすごく嫌悪されてるけど骨になると需要が増えるのが不思議だ。私も魔眼レンズの素材になる骨は自分もちにしようと思う。
「毛皮はギルドに卸して魔石は工房とうちと半々かな。」
チェックしながらルクーに聞いてみる。
「私はヴィンスがお客を迎えるところしか知りませんのであれですが、今回は職人さんに加工してもらうのが一番ではないでしょうか。」
ルクーが首を傾げながら答える。妙に人間臭い行動に私もふむ、と納得する。
たしかに魔法で調合するのは得意だけど道具を手作業で作るのはそんなに経験があるわけでもない。手芸くらいのものならできるけど。
信頼のできる職人さんに素材を渡して加工してもらい販売するのがいいかもしれない。
結局月兎の肉は2羽分をうちで引き取って残りは『眠り猫」屋に引き取ってもらった。
魔物肉は家畜肉と違って使い倒されてない肉だからとても美味だ。揚げ物にシチューにと提供されて「眠り猫」屋はとても盛況だったらしい。
また機会があれば譲ってほしいと頼まれた。私も焼くくらいしか知らなかった月兎の肉の美味さに驚いた。
月兎の毛皮は今回エリックから兄のハンスに下取りしてもらった。毛織物が本業だけど毛皮加工も知り合いがいるそうだ。
エリックも兄に成果を渡せて狩人の面目躍如だろうか。
ハンス兄ちゃんはちょっとお腹が出ちゃっていたが変わらず優しくしてくれた。
「エマ、この毛皮の捌き方とてもいいよ。職人さん紹介してくれる?」
って言われた時はちょこっと遠い目になったけど。エリックが笑っていたのは気が付かなかったことにしておこう。
転移陣2個目も無事に解除し素材も手に入れて結構ウハウハなエマです。
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