月夜の庭(前)
「なんでダンジョンの一角に飛ばされるわけ?」
あらかじめ転移先はわかっていたけどさぁ、とエリックがぼやく。
「知らないわ。おじいちゃんが欲しかったものがきっとピンポイントでここにあるからじゃない?階層下るのも大変だし。」
今回飛ばされてきたのはフランドールの西の果てにある迷宮の20階層。何だかわからないが月がいつも出ている。
なんでいきなりダンジョン。なんですっ飛ばして20階層?空間の捻じれは感じるけどそれは私の管轄外。
このダンジョンは国内屈指の探索スポットだ。
浅い階層は初心者狩人にとってローリスクな鍛錬場として親しまれて(?)いる。しかし15階層あたりから急に危険度を増すらしい。
ちなみにこの20階層は新月でさえなければは魔物も「比較的」少ないとされている。(ダンジョンガイドブック参照)
もう少し早く来ることもできたけどエリックのアドバイスを受け入れて新月を避け、さらに素材の回収のために満月まで待っての行動になった。
「何これ?何これ?何これ~?」
大事なことだから3回言いました。
月の光を反射する白い花がどこまでも続いている。露でもはらんでいるのか白い花はところどころキラキラと反射して幻想的な光景が息をのむほど美しい。
反対側に目を向けると白にほんのりと金色の光を放っている光景も見える。きっと種類が違う花が咲いているのだろう。
「エマ~!!??ここはすぐに閉じるのか?」
立ち尽くす私の肩をエリックが軽くつつく。
「うん?まさか!!そんなもったいない!!ここ、自力で来たら1か月はかかるのよ。でもって20階層!」
「わかった、わかったよ。俺もここのダンジョンには来たことあるけどさ、まだ新米だったしけが人が出たから15階層でリタイアだったんだよな。」
魔眼ゴーグルで探索してみたがとりあえず皆無ではないが近距離には魔物はいないようだ。
月夜なのでオオコウモリは出るかもしれないことは頭にいれているけどどうしても私の視線は貴重な花に吸いつけられてしまう。
「ふわぁ。これは月光花!花びらは生と乾燥で使うとして蜜を蜜を取らなくちゃ。シャンタル。落ちた花びらを探してくれる?毟るのはできないわ恐れ多くて!」
「地に落ちた花びらはないぞ。エマ。落ちるとすぐに地に帰るようになっておる。うん、まっこと美味。」
「きゃぁぁ。そんな無慈悲に食べないでっ!」
花のいくつかをムシャムシャと食べるシャンタルに悲鳴を上げるとエリックがはっきりわかるようにため息をついた。
「毛玉、ピクニック来てんじゃねぇぞ。」
「気を抜くな。小僧、今宵は満月だから油断すれば月兎が出るぞ。今宵は凶暴さが増したはず。」
「お、おう。わかったぜ。毛玉!」
「毛玉呼ばわりするでない!」
恒例のドツキ(噛みつき)漫才を展開する二人を放置して私は魔力遮断手袋を装着して花びらをそっと集めていく。
本体を傷つけないようにそっとちぎり取っては皮袋に詰めていく。
葉っぱと根っこまで採取した場所にはシャンタルにお願いして土に癒しをかけてもらった。うっすらと緑の芽が芽吹いたところで終了にしておく。
蜜の方は特殊なスポイトで吸っては採集用の瓶に詰める。ちょこっと味見をするとこっくりとしたコクがあってとても美味しい。
(素材分、食用分、販売分にしようかなぁ。あぁ、でも売るのももったいないような。)
同じように月夜に咲いて朝には閉じてしまう月虹花も花びら、蜜、葉を集めておく。
シャンタルに頼んで成長促進の魔術をかけてもらい花から種を取る。
状態異常回復薬の品質を格段に上げる効果があるのでギルドに卸すか信頼できる薬師を見つけたら作ってもらおうと思う。
いくつか採取した後に根ごと採取してこれも劣化防止の処理をしてから魔法鞄に仕舞った。
月光花、月虹花の二種類だけでもかなりのレア素材だからこれでまた暁星堂の品ぞろえが充実する。
(ここは彫り込んだ転移陣は解除してもまた来れるように別途転移陣を作り直そう)
「エリック、少しだけ進んでも構わない?」
水の音が聞こえるので少し先に進むと流れる小川と水場があった。
水を汲みたいと思ったがちょっと不穏な気配に私は腰につけていた水筒に伸ばしていた手を停めてマントに仕込んだナイフを手に取った。
「エリック、いるよね?」
「そうだな。月兎だな。油断するなよ。」
「それは我に言うておるのか?小僧のくせに生意気な。」
シャンタルが唸り声をあげると子犬サイズから少し大きく姿を変える。
「シャーっ!!」
と、同時に月光草の茂みから鋭い叫びをあげながら月兎が飛び掛かってきた。
ちょこっと冒険の話みたいになってきた・・・と感じてもらえたらいいなぁ。




