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カグヤさんとヒコナさん

少し長めになりますが区切りがいいので。

ルクーの言っていたクスノキという木はヌヴェールやブルグ近辺にはあまり見かけない木でとても大きく太い幹をしていた。

木の幹や葉からはなんとも言えない芳香がしていてルクーによるとこのあたりの人々は葉や樹皮で防虫剤を作るという。

珍しいので少しだけ木の葉を採集しておいた。


休憩のついでに昼食にしようと「眠り猫」屋の女将がそれぞれ作って持たせてくれたお弁当を食べる。

エリックをこれから探索に借りだすことをお願いしたら「当てのない狩人なんかしてるよりも道具の素材探しで狩人をする方がよっぽど好ましい」と泣かんばかりに喜ばれた。

やってることは「狩り」で基本は変わらないはずなんだけど道具屋の仕事っていうのが定職についたっぽくて親としては安心なのだそうだ。

(請負狩人っていう職業になるのかな。私、エリックの雇用主ってことになるよね。)

ちなみにエリックにこの話をしたらお前が俺の雇用主とかありえない、と言われた。失礼な。


おばちゃんが作ってくれたのはサンドウィッチでゆで卵をつぶして塩コショウで味付けした具を挟んだものと甘辛く味を付けてじっくり焼いた鶏肉をそぎきりにしたもの、味付けした小エビを挟んだものと

「眠り猫」屋の自慢のメニューを具にした食べ応えがある内容だった。

魔法鞄に入れていたから鮮度も作りたてと変わらない。充実したいい食事になった。


ちなみにルクーが作ってくれたのは木の実や干し果物を混ぜ込んで焼き固めた非常食のようなものでこちらは疲れた時に歩きながら食べられるようになっている。

おばちゃんのお弁当が食べきれないくらいだったのでルクーの分は非常食としてそれぞれ小分けにして持つことにした。

甘いオヤツ付きでそこそこ安全な探索行、ピクニック気分になりそう。


楠の大木を離れて進んで踏み固められた道に沿って進んでいくと急に開けた草地が現れた。

木の枝なのか草なのか見たこともない素材、おそらく植物で作られた家がある。魔眼ゴーグルで確かめてみると術式は分からないけど何らかの魔法的な結界も張られている。

やっとたどり着いたのかな?と思っていると木でできた扉を開いて黒髪によく日に焼けた肌の男の人が姿を現した。

見たこともない前合わせの服を着て幅広いベルトのようなもので巻き付けていてズボンを穿いているけどどれもあまり見たことのないデザインをしている。


彼はルクーを見てなんだか不思議そうな顔をした。たしかに以前のルクーを知っていれば大きさも動きも違う魔改造されてしまっているので疑問ももっともだと思う。

ルクーが私たちにはよくわからない言葉で男性に話しかけ、彼は目を細めるとまたにっこりと笑った。どうやら悪い人ではないな、と安心したけど叔母さんたちがどう思ってるかはわからない。


「やぁ。お客さんだね。木霊が教えてくれたよ。ルクー、久しぶりだね。何だか変わったね。」

少しゆっくりとしたしゃべりでたどたどしいけれど私がわかる言葉で挨拶された。きょとんとした私たちの表情に気がついたのか少し困った顔で彼が言った。

「お爺さんに教えてもらってね。僕の言葉わかるかい?」

「はい。わかります。私はエマといいます。叔母のアメリに連れのエリック。これはシャンタルと言います。」

細い目をさらに細めて彼は笑って私たちの名前を何度か復唱していると中から声が聞こえた。

彼は何か私たちにはわからない言葉で話してどうぞ、と言うように扉を開き招き入れるようなそぶりを見せた。


ルクーが頷いたので中に入るとおばあさんはすっと背を伸ばすとビンスと言った。が、後はわからない。


「ヴィンスはどうした?と聞いてます。」

男の人が困ったように尋ねる。いや、彼もだいぶわかりにくかったけど。

「父は先日亡くなりました。私は娘のアメリ。これは私の姪のエマです。」

アメリ叔母さんがおばあさんの前に片膝をついて座るとゆっくりと話しかけたがすぐに「言ってもわからないかなぁ?」と頭をかいた。


「わたし、ビンス娘。これビンス孫ね。」

得意そうに言いなおしてるけどそれじゃますます誰にもわからないし、なにより私たちの使う言葉を単純にしただけじゃ・・・。

エリックも唖然とした表情をしている。憧れのAランカーも長く接してみれば普通の人間なんだから仕方ない。今の叔母さんは普通よりむしろ残念よりだけど。

クスクスと笑った男の人がおばあちゃんに何かを語り掛けると言いたいことが無事に伝わったのかおばあさんは深い深いため息を一つついた。


そしてルクーの方を見るとわずかに、ほんとうにわずかだけど唇を綻ばせて何か語り掛けた。ルクーもなんどか頷き語り掛けに応えているように見える。


(ルクー・・・・これ私の改造だけじゃない・・・よね。あぁもうお上にルクーみせちゃいけないレベルに到達したような気がする。)


なんてことを考えているとルクーが振り返った。

「こちらはヴィンスの昔からの知り合いです。カグヤさん、こちらはカグヤさんの孫のヒコナさんです。ヴィンスの死は伝わりました。お悔やみを申し上げます、とのことです。」

ルクーの通訳でなんとか話が通じたので、私は魔法鞄からルクーに持たされていたお土産を取り出す。

持たされたのはニワトコのシロップと花を乾燥させたお茶、菩提樹の花を乾燥させたお茶でどちらも甘い香りが特徴的だ。

「なんだか甘い香りがするなって思ったら正体はそれか。」

雰囲気にずっと黙り込んでいたエリックが納得したように声を上げる。

囲炉裏の傍らでじっとその様子を見ていたおばあさんの表情が香りをかぐとより一層和らいだように見える。


何か私に話しかけるが残念ながら彼女の言葉は私には全く何を言っているのか聞き取ることが出来ないがとりあえず喜ばれたことは間違いないだろう。

「祖母がお礼を言ってます。ニワトコのシロップは冬の喉の痛みにとても効きますから。」

ヒコナさんがそんなおばあさんのかわりにお礼を言ってくれた。


渡すものを渡してどうしようかと考えていたらヒコナさんがもう遅いので食事をして一晩泊まっていけと言ってくれた。

転移陣を使えば戻ることはすぐにできるけど食事だけはお言葉に甘えることにする。


カグヤさんが淹れてくれたこちらのお茶はかんきつ類のような爽やかな香りがして疲れた頭もすっきりとする。

私たちが一息ついている間にカグヤさんとヒコナさんは立ち上がると食事の準備を始めた。

カグヤさんが鍋に水を入れると床下のツボから何か調味料に漬け込んだ肉をぽんぽんと放り込んで煮込み始めた。

やがて鍋がくつくつと音を立て始めると今度は野菜を切って煮込む。

材料は見慣れないものばかりだけど立ち上る香りは美味しそうで生唾が湧いてくる。


隣に座ってシャンタルを膝にのせている(占領されているというほうが近いかもしれない)エリックの腹の虫がぐぅと鳴りカグヤさんが笑った。

ヒコナさんは出ていったと思っていたら鍋が煮える頃に魚を何匹か取って戻ってきて塩を振ると囲炉裏で炙る。これもまたいい匂いで空腹を刺激する。


「いただきます。」

渡された木の碗によそわれた煮込みは甘みが強い味がして入れられた芋もねっとりしたような口当たりだがとても美味しかった。

熱さにフーフーと冷ましながら頬張ると体の奥からほっこりと温まり元気が出てくる。


ルクーやヒコナさんの通訳でカグヤおばあさんと祖父の出会いを少しづつ教えてもらう。

若いころ奴隷商人に捕まって売られた先で祖父母に出会ったこと、祖父母は人種も違う自分に親切にしてくれて1年近くの年月をかけて自分を故郷に送り届けてくれたことを話してくれた。

カグヤさんは片言ならなんとかわかるけど祖父はなかなか言葉を覚えられず対照的に祖母はあっというまにカグヤさんの言葉を覚えてしまったこと、

若かった祖父母の冒険、旅を終えてからも年に2度ほどは訪ねて来て孫のヒコナさんに祖父が言葉を教えてくれたことなんかをゆっくりと話してくれた。

なんだか少ししんみりしたけどここ1か月ほどの中でどうしてか祖父の存在、いや祖父母の存在を近くに感じることが出来たような気がする。

祖母が死んだ時は随分と泣いたけど祖父はきっと祖母に会えて喜んでいるだろうから今はあまり悲しくない、二人が再会できたことが嬉しいと言ったカグヤさんの表情はちょっと寂し気だった。



月が明るくなった夜になって私たちはお暇することにした。

ヒコナさんは泊まっていけと言ってくれたけどカグヤさんは特に止めなかった。うすうす私たちのここへの来方も戻り方も気が付いているのかもしれない。

いよいよお別れという時にカグヤさんは麻袋に3つ小さなツボを入れて渡してくれた。

「お爺さんの好きだったクコの実の酒だからお墓に備えておくれ、あとの二つはクコの実、アマチャっていう植物を乾かしたものだからそこの人形に聞いてごらん。」


カグヤさんはゆっくりそう言うとルクーを見てなんだか人の悪い顔をしてニヤリと笑った。




おじいちゃんのことを大事な人に伝えることが出来ました。


ひとまず一息付けるところまで更新できました。

感想などいただけると嬉しいです。

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