東の森へ
ルクーに言われてエリックたちが戻る前に2階の部屋入口の転移陣を覚書から解析してここからは先日の密林、エッシェンバッハ、今日訪ねる場所の3箇所に転移することは判っている。
扉を開くと部屋に入ったことを感知して発動し解除は戻ってきた時に部屋から出ずに行う。
ちなみに出ていく時には発動しないという条件まである。
行ったり来たりのたびにどこかに飛ばされない安心はあるけどほんと地味に手間ひまをかけるようになっている。
店や家の戸締りを確認するとまた装備を整えて部屋の前にたつ。
今回の探索要員は私、エリック、アメリ叔母さん、シャンタルでルクーも説明のためについていく。
強化の魔法陣が施されているとはいえ磁器の体のルクーは基本留守番の予定だが今回は祖父の死を知らせたい人間の情報を彼(彼女?)だけが知っているため今回は同行する。
オートマタがどこまで歩けるのか少し心配だったけどよく考えたら家でも2階や地下を自由に動いているので特に問題はなさそうだ。
「じゃ。行くよ。準備は大丈夫だね?」
先頭にたったアメリ叔母さんの声に私たちが頷くと叔母さんがノブを回し扉を押し開いた。
目の前に広がるのは冬枯れた草原だった。全員が中に入り扉を閉ざすとすっと扉が消えて私たちはただの広がる平原に立っている。
あたりを見回すと遠くに小高い丘や山が、目を転じると集落が見えた。
「集落には近づかないでください。ここは東の国、ブルグとは住む人々が違います。みなさんはいるだけで目立ちます。」
ルクーに促されて私は全員に簡単な認識疎外の魔法をかける。これでよほど接近するか注視しないかぎり私たちは誰にも見られずに進むことが出来るものだ。
山を目指して歩く。頬に冷たい風が当たると身がすくむが歩き続けていると体が温まってきた。
「ルクー、どれくらい歩くんだい?」
「半日ほどは歩きますよ。安全のためです。」
アメリ叔母さんの問いかけにルクーが空模様を見ながら答える。
集落から遠ざかる道はどんどんと山の方へと分け入りやがた小さな川のせせらぎの音が聞こえてきた。
「川の音から離れないように道を進みます。大クスという楠という植物が生えているのでまずはそこまで進んで休憩にしましょう。」
ルクーの指示で黙々と山道を歩いていく。時折鳥の鳴き声が聞こえるが獣の気配も特に感じない。
「あんまり気配は感じないけどエマ、念のために確認してみて。」
言われるままに索敵魔眼ゴーグルを起動して確認するけど拍子抜けするくらいに反応がなかった。
「この地はフランドールのように魔物などはあまり存在しないのですよ。特にこのあたりはこれから尋ねる方の結界で悪しきものは近寄りません。」
ルクーが説明するとアメリ叔母さんがほほぉ、と感嘆した。
「うちの国では森になんか入ったら気を抜けないもんだけどね。国が違えばこうも違うのかね。ってかどんだけ遠いのさ?」
「聞きますか?」
「・・・・やめとくよ。想像もつかない。」
「魔物はいませんが魔力の少ない獣は出ます。用心は忘れぬようにしてくださいね。」
魔物がいない、というルクーの言葉に緩みかけた気を引き締めるようにシャンタルが注意する。
「大きいの、そのオートマタの言う通り。獣にやられるようでは狩人の名がすたるぞ。」
私の前を歩いていたシャンタルが木の幹を駆けあがりエリックの肩に上るとシッポで顔を叩いた。
今歩いているところは森の中なので地の気も濃いらしくシャンタルはとても生き生きとしている。
「やかましいわ。毛玉!ってぇ!!」
言い返したエリックの首筋を爪の先でひっかいたのかエリックが情けない声を上げたがシャンタルはもう涼しい顔で私の腕にすっぽりと収まるのだった。
「なぁエマ。その魔眼ゴーグルって俺にも使えるもん?」
傾斜のある道を通り過ぎてなだらかな道になったところでエリックが声をかけてきた。
「ん?起動して短時間なら使えるよ。エリックや叔母さんは魔石の魔力がなくなれば使えなくなるけどね。」
そう答えてから首に下げたゴーグルを外してエリックに渡すとベルトの調整方法を簡単に教えた。
「へぇ。特に視界が小さくなるとかもないんだなぁ。不思議なもんだ。」
エリックが感心したようにきょろきょろとあちらこちらを見回した。
「どう?なんか赤い点とか見えない?赤は危ない魔物とかなんだよね。」
「あ?おぉ。なんかところどころに黄色な点は見えるけど特に見えないな。あ、薄い水色がチラホラ動いてる。」
「赤がなければまぁいいかな。水色は生き物が動いてるってこと。魔力は少なめ。黄色はどうやら薬効とかのある植物が生えてるみたいね。」
感心したように言いながらゴーグルを返すエリックは少し迷ったように口を開く。
「なぁエマ。便利なのはわかったからそれ、探索の時以外は付けるなよ。」
「ん?なんで?」
深刻なアドバイス化と身構えるとエリックは思い切りニヤ付きながらこう答えた。
「お前が就けるとメガネクマみたいな見た目になるから。」
「・・・・シャンタル、齧ってよし。」
「ちょっと待て!忠告したのになんでだよ!待て、毛玉!勘弁しろよぉ!」
コースから必要以上に離れないようにエリックを追い回すシャンタル。
先頭でだまって歩いていたアメリ叔母さんが振り返ると声を立てて笑った。
乙女心のわからない男にはちょうどいいお灸だと思う。
初めての転移陣移動はおじいちゃんの昔馴染み探訪




