表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/31

ルクーとの日々と検証転移陣

ルクーに家事への主導権をすっかり奪われてしまったので最近の私は転移陣のことについてこころゆくまで考えたり検証することに没頭している。

店の奥の作業部屋でルクーが発掘してきてくれた机にだらしなく肘をついて考え込む。

2階の厨房からはルクーが何かを料理しているらしい音が聞こえていた。


祖父の住んでいた家、暁星堂はこの街ではよくある煉瓦作りの建物だ。

1階は祖父の魔道具屋暁星堂と作業場に応接室、2階は家族の居室が2つに厨房がある。ちなみに厨房が2階にあるのは暖気を家に送りやすくするためだ。

3階には部屋が3つで以前は訪れた旅商人を泊めたり短い期間だけど徒弟希望者が住んでいたこともある。

あとは地下室の倉庫。建物とその構造自体はブルグにありふれたものだ。

ただし2階の奥の一部屋と3階全体、地下室は祖父が施した魔改造で異空間への入り口と化しているので関係者以外立ち入り禁止状態。


「私が建ててほしいのは小さくて白くて素敵なお家 そこであなたの帰りを待つの~。」

ヌヴェールで聞いたことのある歌を適当な替え歌で口ずさむ。

(小さくないけど魔改造だけど 素敵な素敵なお家にしたいんだけどねぇ。)

「その歌詞には(おもむき)が足りぬよな。歌とはもっと(みやび)な言葉を選ぶものであろ。」

私の膝に載ったシャンタルが尻尾をフリフリと動かす。

「最近の流行なのよ。ストレートな思いを言葉にするのよ。」

説明しては見たけど長く存在したシャンタルには理解する気もないようだった。

そんなシャンタルに小さく舌を出すと少しだけすっきりとした気分になる。


さて、と仕事を再開する。

通常の転移陣はほとんどが踏み抜くか接触して現地に移動する片道切符だ。だけど先日きちんとブルグに戻ってきた。

眩しい光に一瞬包まれると密林が埃っぽい部屋になって扉をおっかなびっくり開けたら祖父の家の廊下だった。

アメリ叔母さんが言うには祖父に渡された帰還の転移陣を仕込んである魔石があるのでそれを帰還に使ったという。

これはあらかじめ魔力を充填しておいてなおかつ使用者が大量の魔力をそこに注ぎ込むことで瞬間的に稼働するというとんでもない魔力を要するものだった。

こちらから行くには魔力がたいして必要ないエコ仕様にしているのに戻るにはとんでもない魔力を要することで「こちら」に侵入してくる魔物や悪意あるものを退ける工夫のようだ。


何かがブルグにこんにちは、と現れたことがないのはこれが原因なのか。セキュリティ対策もばっちりである。

おじいちゃん、さすがというべきか採集には自力で行けというべきか。

腹が立つことにブルグにあるこちらの家の転移陣を解除するだけでなく再転移で戻ってきた室内にも細工がしてあるので一度は転移しないといけないようになっている。

だから解除するにしても戻りのための魔力の蓄積には一定の期間が必要になるので解除作業は根気が必要になる。


となると

① 戻りの転移陣に魔力を充填し自分にも十分な魔力を回復しておく。

②扉を開いて転移する。①で作成した転移陣を使って帰還する。

③ブルグの家の転移陣から該当するものを解除する。

この繰り返しになる。祖父よ、あなたは孫の根気を試す気ですか。下手したら死にます。

扉を開いて転移するなら何も書き込んだりしなくても呪符とかでやればよかったのになんで扉に刻むようなことしたんだろう?

(羊皮紙がもったいない、とか紙だと書き直しがいるとかそういう単純な問題のような気がする。)


ちなみに地下の倉庫については再起動したルクーのおかげで解決した。

倉庫は拡張しただけで転移陣はなくて入口にちょっとした罠があるくらいだと教えてくれた。

許可証かわりの魔石を持つか登録された者以外には火炎玉が降り注ぐ仕組みらしい。

もっとも解析したら注ぐのは火の玉どころではない火の滝だった。

(そうですね。こんだけややこしいモノを抱えてるんですものね、マトモなセキュリティじゃだめだよね。)

もう考えるのもめんどくさくなってきた。


「エマ。準備の方は順調ですか?晩御飯が出来ましたよ。今日はシコンのグラタンです。温まりますよ。」

ルクーはいつの間にか2階の厨房の(かまど)を改造していてこれでなんでも作れると言っていた。さすがに買い出しはオートマタのルクーだと街の人が驚くので私の仕事だ。


(もはやルクーは一般的なオートマタの定義越えたかもしれない。脱法ハウスに脱法オートマタってか。)


思わず乾いた笑いが出るとルクーが心配そうに見つめてくるのでグラタンをパクリと一口にする。

「お、美味しい~。すごく美味しい。なんだか懐かしい味がする。」

隣で尻尾を振るシャンタルにもよく冷ましてから口に入れてあげる。

精霊の一種でもあるシャンタルは基本食べ物は必要ないけど純粋な娯楽として食べることがある。

「おぉ。これはまことに美味。たまには人の食べ物もよいな。」

「ありがとうございます。明日はパンを焼きましょう。」

私が喜ぶと無表情なはずのルクーの唇が微笑んで見えた。


エリックはまだ戻って来ない。クルックス(念話する魔道具)でアメリ叔母さんに聞くと氷狼退治の有力な戦力になっているという。

ランクが上がるかもしれないと言っているくらいだからエリックにも良い経験値稼ぎになっていることだろう。めでたいめでたい。

ルクーに道具屋を引き継ぐ話をしたら喜んでくれたのか祖父のレシピを出してきてくれた。

仕入れ先も書いてあったからいつか王都に行く必要もあるかもしれない。


転移陣の解除はまだひとつも終わってはいないけど未来への展望が少し見えてきた気がする。


ちょっとワクワクしてきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ