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ルクー・再起動

汚れが気になったので公衆浴場に行って早目のお湯を済ませてきた。

洗浄の魔法でもいいけどリフレッシュしたらやっぱり気合の入り方が違う。


作業室に戻るとルクーの背中に嵌めていた外殻を外す。腕を外すと左腕に魔法陣の欠けがある。

ここは補修して私が新しく書き直した魔法陣を起動するようにすればルクーは動きを取り戻すはず。

さらにいくつかの機能を足して置きたいと思うけど時間もないし迷うところだ。


胸を開ければすっぽりと魔力結晶を嵌めるはずの窪みがある。ここに魔力結晶を嵌めればルクーはまた動き出すのだろう。

魔力結晶について迷っていたけど日記を読み返していると祖父が外した魔力結晶が作業机の引き出しで見つかった。

すごくわかりやすく『ルクー』って書いてあって助かった。

少し消費していたから補充は必要そうだから私の魔力を受けるために付けた首飾りの魔石を付け替えて身につけた。

私は常に自分の魔力を身に着けた魔石に流し込むようにして暮らしていて胸の首飾りと両手に糸や鎖で編まれたブレスレットに魔石を付けている。

一回の放出量の上限が人より低めな私が放出量が必要な時のために予め魔力を魔石に外出ししておくためだ。

最初に始めた時は量の調整が上手くできずに倒れて祖母に叱られたのも今となっては懐かしい思い出だ。


ルクーの再起動のための魔力結晶は2日ほどしたら充填されるだろうからそのうちに部屋とお店を片付けた。

祖母の部屋は壁紙を替えたかったけど職人さんをうっかり異郷送りにしたら大変だから先延ばしにした。

その代わりカーテンを私の瞳と同じ翡翠色に替えて雰囲気を明るくした。

足りないものを探しに倉庫を覗こうと思ったけど念のため魔眼ゴーグルを使って探査したら転移はないけど拡張はされててこれも先送りした。

我が家で遭難とか笑い話にもならない。


もちろん必要な素材を結晶化して魔法陣を書き出した羊皮紙と化合したり再起動のための準備も外せない。地味に魔力も消費した。

シャンタルからも魔力をわけて貰って土属性も加えることができた。もともと磁器でできた体だから土要素との親和はよいはずだ。

これらの材料を調合鍋で練り上げるのに先日のセラニアの実がとても役に立った。採集を決めた私、ナイス判断である。

これはまた必要になったら採取に行く必要があるだろう。さすがにそこで限界で気絶するように寝てしまった。



翌日目覚めるとやっぱりソファに寝ていた。

「無理はせぬがよいよ。」

温かいと思ったらシャンタルが尻尾を振りながら胸の上に転がっている。重さを感じさせないのはさすがだ。


「ただのオートマタを動かすというだけではない力の入れようだ。」

作業を見守るシャンタルの言葉に私は頷く。

「ルクーはオートマタでお話できるわけじゃないけど親が亡くなった寂しさとかを随分ルクーに慰めてもらったの。」

両親の死はいろいろと私の周りを激しく変えた。元々住んでいた場所から祖父の家に引っ越して友達とも会えなくなった。

ルクーは私の大事な妹みたいなものだった。

アメリ叔母さんは狩人としてあちこち飛び回っていたし、祖父も優しいけど生きていくためには働かなくてはいけないからずっとそばにいてくれるわけにもいかない。

そんな寂しさが募るときいつもルクーを傍に置いていた。

外殻を直したルクーの左耳の上にちょっとだけ傷がある。私が床に落としてできた欠けだ。

動かなくなったルクーを抱いて泣く私を慰めながら祖父が直したそこを指先でそっとなぞった。

「そうだ。ごめんね。ルクー、女の子が傷なんてやだよね。」


私は自分の腕からブレスレットを外すとそこの赤い色をした魔石をひとつ外した。

祖母が小さいころにお守りだとつけてくれた魔力自体はたいして充填することもできない石だけどルクーの瞳の色と同じ色で手放せずにずっと身に着けていたものだ。

外殻に取り付けるための術式を構築する。思いついて綺麗になるようにと浄化の魔法を付与しておいた。これでもうルクーがひどく汚れることはない。

飾りのように嵌めるとフワリとまたルクーが光る。


パン屋で買った硬くなったパンで朝食を済ませルクーの最終調整に取り掛かる。

ここまできたら今日のうちに終わらせて今夜はベッドでゆっくり眠りたい。

短杖で吸い上げて横たわったルクーに振りかけていく。大理石の白さだったルクーの肌が温かみのある象牙色に変わる。

胸の外殻を外して魔石の空間を確認した。ここからが大事なところ。

そっと魔力結晶を胸のくぼみにはめ込んだ。かちりと音がしたけどまだそれだけ。


「流れこめ。命のマナよ。機械の体に流れわたりてその歯車をくるくると動かせ。滑らかに滑らかに。」

機械を動かす魔法なんてヌヴェールの魔術書に載ってるわけもないのでもないのでまたイメージ重視の自己詠唱だけど。

はめ込んだ魔力結晶を周りの機械となじませるように短杖の先端でじっくりと魔力を流し込む。

(大量放出できない体質が今活きるとかねぇ。むしろ細く細く細く・・・・)

たっぷりと時間をかけて作業を終えるとルクーの外殻をはめこみ組み立てていく。

象牙色の肌色が温かみを増し、カサついていた髪も艶を増して目の覚めるような鮮やかな紫になる。


なんで色が変わるかな?


ん?気のせいかな?ルクーの体が大きくなっている気がする。あれ?


私の内心の焦りには関係なくゆっくりとルクーの瞼が開いていく。状態確認の時はガラス玉のようだった瞳に深みが出て魔力の証の赤い光を放つ。

やがてルクーは自分でゆっくり上体を起こし首を動かしてあたりを見てそれから手をあげてじっと見つめた。


「ルクー?」

どきどきと高鳴る胸を押さえながら恐る恐る声をかける。

「エマ。エマだね。私を動かしてくれてありがとう。そしておかえりなさい。エマ。」

随分と滑らかな話ぶりに私は面食らった。

祖父と一緒にいた頃のルクーは決まった言葉しか話さなかった、いや話せなかった。

なのに今ルクーは明らかに自分の意思で言葉を選んでいる。


何だ?何やらかした?


「私はずっとヴィンスを見てきたよ。ヴィンスとリサを見てきた。」

祖父と祖母の名前が出てきた。いよいよ疑問符が駆け巡る。


「長く年経たモノは魂を持つという。外殻から察するに頃合だったようじゃぞ。」

シャンタルが重々しくもそうのたまった。

確かに私も学院時代に習ったことがある。特に東の方にその例が多いと聞く。

私が魔改造したわけじゃないと安堵した。ちょっとだけ。


「じゃが魔力結晶に力を込めすぎたも事実じゃな。」

シャンタルに「お前の責任もきっちりある」と宣言された。

「ありがとう。エマ、私にまた会いたいと願ってくれて。エマは私には大事な子だからね。」


ん?子?ルクーが私の妹。あれ?


「私は私だよ。人間でいう性別はないよ。それに私は作られてから今年で100年たつよ。君よりずっと長く世を見てきたんだよ。」

「私だとてエマより長く世におるぞ。この中で一番稚いものはエマ、そたなじゃな。」



私、この家では一番の若輩者になりました。


人間の時間は短いのです

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