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手がかりはオートマタ(後)

夕食の買出しをするついでに「眠り猫」屋のエリックに叔母の伝言を伝えておいた。

「お・・・おう。氷狼。でもアメリさんとダンテさんの狩りに同行できる機会なんてこれ断ったらない・・・な。わかった。」

氷狼って聞いて若干顔色が悪くなったような気がするので魔法鞄の中から傷に聞くポーションと状態異常回復薬を渡しておいた。

エリックはほんの数軒先の暁星堂まで送ってくれて庭と店の戸締りを確認すると戻っていった。

心遣いがとってもありがたい。

でも無理やり侵入してきたらシャンタルに『とてもとても恐ろしい目』に合わされると思う。


エリックの精神安定のためにもこれは秘しておいた方がいいだろうか。



店の奥にある作業部屋はしばらく私が寝室替わりに使っていたけれど基本は祖父が使っていたままにしてある。

記憶の中でいつもルクーが磨いていた祖父の道具類は整理されていたけど今になってつぶさに見ているとちょっと汚れていてルクーが止まってしまった現実を突きつけているみたいだ。


ルクーは何重にも布に包まれて作業机に置かれていた。

祖父に戻ってからルクーがいないことを尋ねると魔法陣に欠けができて修理すると言っていた。その時には手伝ってほしいとも。

作業する祖父の傍らにはいつもルクーの小さな体がいた。動かないルクーを見てる祖父の寂しげな目を覚えている。

覆われた布をそっと取り除くと100セルテほどの大きさの冷たい体が出てくる。


抜けるように白い肌はなめらかでおそらく東方の磁器という素材でできている。

(磁器・・・・。ヌヴェールのお城で一度見たよ。壺だったけど。触っちゃダメって言われたんだけど。高価すぎるって。)

糸で作られた髪の毛は記憶の中では艶やかな黒髪だったのだけど魔力結晶による動力回路が回っていないせいか魔力が行き届いていないのでカサカサに乾いている。

作業机の上に寝かせると着せられていた衣装を脱がせて横たえる。ルクーは体も磁器でできているようだった。

(溢れる狂える魔術師感、みなぎる変態感。これは人には見せられないわねぇ。)


シャンタルが作業机に飛び乗るとルクーの匂いをくんくんと嗅ぐ。

その様は本物の犬のようだけど彼女はルクーの魔術の残渣を探っているから何も言わない。

「東方のいずれ名のある名工の作品のようだな。外殻の素材は石か。火の気配も感じる。」

「そう。磁器は特別な石を砕いて火で焼くって聞いたから土と火はあるよね。これは東方の輸入品。だいたいの年代もわかる?」

「外殻だけならそろそろ100年は経過しておろうか。エマの爺殿はなかなかの目利きじゃな。そろそろ魂も宿るかもしれん。」

「物に魂が宿る?精霊みたいなもの?」

「う~む、ま、そんなもんかもしれんな。ま、我に比べればまだまだ幼きものであるから安心しろ。悪しきものならかみ砕いてやる。」

「情報を聞きだすまではそんなことしないでね。でも頼りにしてる。」


祖父が外殻にかけた魔法がしっかりしていたし劣化を防ぐ魔法もかけてある内部のからくり構造自体には問題がないことがわかった。

魔法はできるけど機械作業はわからないから本当に助かった。いろいろと役に立つと思ったから私の覚書に祖父が書いた魔法陣を書き写しておく。

両手両足、胴体、頭、指先にいたるまでゆっくりと魔力を通しながら祖父の刻んだ魔法陣を確認していく作業は根気と繊細な魔量操作が必要でとても疲れた。

全身のチェックが終わった頃には指を動かすのも億劫なくらい。でも破損箇所の修復場所もこれで分かった。


祖父が後回しにするくらいだから心配だったけど後回しの理由は再起動のための動力源にする魔力結晶のようだ。

動かすだけならそこそこの魔力結晶でも大丈夫そうだけど、記憶など繊細な部分に不安が残る。

(魔力結晶、どうしようかな。)

自分の魔法鞄の中に入っている魔力結晶を頭の中でリスト化する。

場合によってはどこかに転移して採取しないとダメかもしれない、と思いながら祖父が残したまとめ書きを見せてもらうことにした。




まとめ書きを読んでルクーにまつわることを探していたら夜中になってしまった。

せっかく手入れをした部屋だったけどそちらに戻るのも面倒になって結局作業部屋のソファで寝てしまったから朝起きたら体のあちこちが痛い。

シャンタルのあきれ顔が地味に心に痛いががんばった甲斐があって祖父がルクーを入手した頃の日記を見つけることができた。


ルクーは予想通り東方の国から買い入れた人形だった。知り合いの貴族が手に入れた人形を祖父は当時結婚前だった祖母への贈り物にしたいと譲ってもらったらしい。

人形に呪いがかかってるので解除する、といったのは事実かどうかはもうだれもわからない。


日記には若い祖母への若い祖父の恋情が切々と熱く、いや「熱」苦しく語られていた。


「よりによって人形の改造案や魔法陣とともに書かずともよいと思うのだがな。」

一緒に目を通していたシャンタルは言葉で感想を述べたけど、こちらは地味に削られすぎてもうコメントしたくもない。

半世紀以上前の恋文、穏やかな老人(と思っていた)祖父の書いた恋文。


『君の甘い唇に頬を寄せたら僕の唇は恋の喜びに溶けてしまうのだろうか・・・・。』


ここを読んだ私の記憶の方を溶かしてしまいたいのですがね。


『美しいオートマタに君の奏でる愛の調べを記憶させたい・・・・。』


記憶の機能とかすごいと思ってたけど出発点ここかよ。


こんな熱い(暑苦しい)愛を語られた祖母は当時の私と同じ年、ということに気が付いてさらに沸き起こる空しさ。どうせ私は独り身・・・。


「叔母さんに見せたら喜ぶかな。」

「やめておけ。生きる者も死せる者も双方誰も幸せにならぬ。尊い犠牲はエマだけにすればよいと思う。」


シャンタルの重い一言に私はがっくりと肩を落とした。



誰でも生まれた時から老人だったわけではないと。

ま、親族のそんなものはできれば見たくないですよね。


そう考えると「台記」ってとんでもない・・・

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