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親衛隊隊長と姫1

私の名はエレノア。

それは私を産んでくれた母が付けてくれた大事な名。


一応貴族の子として生まれたが、今の私がどういう立ち位置にいるのかよくわからない。私はたまたま王都にいた。そんな時に戦争が起こって、その戦争で両親を亡くしてしまった。


その話を突然聞き、頭が真っ白になった。訳が分からなかった。でもそれを理解出来てしまった時、涙が溢れ、止まらなかった。


そんな私を抱きしめてくれた人がいた。私が最も尊敬する女性。王の最愛の妻、アリア様だ。とても暖かく、とても優しく抱きしめてくれたおかげで、私は立ち直ることが出来た。


住む場所、帰る場所を失い、貴族なのかどうなのかまでわからなくなってしまった私をアリア様は引き取ってくれた。慈愛に満ちたアリア様は私の誇りだ。


そんなアリア様のお腹は大きく膨れていた。もうすぐアリア様の子が生まれるそうだ。幸せそうだが、心配事もある。アリア様は病弱なのだ。出産に耐えられるのかわからない。けれどアリア様は絶対に産むと言って聞かなかった。


アリア様は自分のお腹を優しく撫でる。

もうすぐ生まれてくる子を撫でるように。


「アリア様、お呼びでしょうか?」


「もう……エレノアはいつまで経っても硬いわね。私はもっと打ち解けてほしいわ」


「で、ですが……私は……その……」


「まだまだ時間がかかりそうね? エレノア。私はもうすぐ2人目の子を迎えることになるわ」


2人目。アリア様の出産はこれが初めてだ。でもアリア様は2人目と言った。そう、アリア様は私を養子として引き取ったのだ。様々な意見が飛び交う中で、断固として引かなかった。そのおかげで今の私は王城で暮らすことが出来ている。


元は貴族、今は王族? の私は何不自由ない生活を送らせてもらっている。生まれた家よりもずっといい生活をさせてもらっている。今の私はアリア様が誇れるような者になるために必死に勉学に励み、剣を学び、魔法を学び、礼儀作法を覚えている。


血が繋がっていないのに、アリア様は誰よりも私を愛してくれている。もしかしたら本当の両親よりも深く愛してくれているようにも感じるほどに。


「そうみたいですね。アリア様に似て美しい子が生まれてくると思います」


「ありがとう。絶対、可愛い子が生まれてくるわ。早く会いたい」


「ただ私は心配です。アリア様のお体のことが」


「これだけは誰が何と言おうとも譲らないわ。私はこの子を絶対に産む。それで例え私が死ぬことになったとしても」


「私は……私は嫌です。アリア様を失いたくありません」


「エレノア。その気持ちはとても嬉しいわ。あなたにまた悲しい思いをさせてしまうかもしれない。でも私はこの子が大事なの。エレノアと同じくらい」


「……アリア様……」


「もう……エレノア。私はあなたの何ですか?」


「え、えっと……」


アリア様はいつもあることだけを強く強要すると言っていいほど、頑なに私に言わせようとすることがある。私にとってはとても難しいこと。言い慣れないこと。私の最も尊敬する人だからこそ難しい。そんな私を期待を込めて見て、そしてどこか楽しんでいる節がある気がするが、そんなところもまた私はアリア様らしいと思う。恥ずかしいが言うしかないのだ。言わないといつまでも話をしてくれなくなる。


「お……お母様……」


「むぅ……お母さんでいいのよ?」


「さ、さすがに無理です!」


「ふふ、でもいつかきっと自然と言ってくれるようになってほしいわ」


「……は、はい」


恥ずかしくて仕方がない。でもそんな日々も楽しくて私は幸せだ。だから私はアリア様の、お母様のために出来ることがあるのなら一生懸命頑張りたい。


「そうそう、エレノアと話すのが楽しくて忘れていたわ。今日はエレノアにお願いしたいことがあるのよ」


「お願い……ですか?」


「そう、大事なお願い。もうすぐ生まれてくるこの子の面倒を見てあげて欲しいの」


「そ、そんな! 私はそんな話聞きたくありません!」


「エレノア。これはあなたにしかお願い出来ないことなの」


「っ!」


「私は死ぬつもりなんてないわ。この子を見てみたいのだから。けど、私の体は弱くて、思うように動かない日が多いの。毎日面倒を見ることがきっと出来ない。だから私の代わりに面倒を見てほしいの。エレノアなら、他の人たちと違って甘やかしすぎることはないだろうし、間違ったことを間違いだと教えることが出来る。わがままな子にならないように見てほしい。ダメかしら?」


「で、ですが……私もまだまだ子供で、未熟で……失敗もたくさんします。間違ったことを教えてしまうかもしれません」


「それは誰にだって言えることよ。私だってまだまだ未熟で失敗もする。そういうことを認めて、言葉に出来るエレノアだからこそ任せたい。この子の姉として」


「……アリア様……」


「お母さん」


「うぅ……お母様」


「エレノア、お願い」


「……わかりました! それがお母様の頼みなら、私が誠心誠意、面倒を見ます! その……姉として」


「えぇ! ありがとうエレノア。私の最愛の子」


お母様は私を抱き寄せて頭を優しく撫でてくれる。私はそれが恥ずかしくて、緊張して、体を強張らせてしまう。けれどお母様は優しく微笑んでくれる。


ついにその時はやってきた。痛みに苦しむお母様に傍にいてほしいと言われ、私はずっと出来うる限りの言葉で励まし続けていた。


そしてお母様の初めての出産は何事もなく無事に終えた。お母様はとても疲弊していたけど、とても嬉しそうにしていた。その子は女の子。きっとお母様に似て、美しく成長するのだろう。


我が子を優しく抱くその姿は正しく聖母。そう言えるほど、暖かく美しかった。そしてその子の名前はレフィリアと名付けられた。


私はお母様に言われるがままに、レフィリア様を抱き上げる。まだ小さく少しでも力を入れてしまえば潰れてしまうのではないかと思えるほど。けれど小さくても命を感じることが出来る。私はこの子の姉となった。その実感がある。本当にいいのだろうかと思う時もあるが。


私はお母様の願いを叶えたくて、今まで以上に勉学に励んだ。お母様の代わりにレフィリア様の面倒を見るために。


お母様はレフィリア様のことをレフィーという愛称で呼んだ。私はレフィリア様と呼ぶが、お母様はやはり気に入らない様子で、レフィーと言えと強要することがある。私は分別は弁えなければならないと思っているから、レフィーと呼ぶのはお母様の前だけ。


そんなある日のこと。私はまたお母様に呼ばれていた。


「お母様。何でしょうか?」


「お母さん」


「それだけは……その……」


「エレノアに呼んでほしいな~」


「うぅ……お母さん」


「ふふふ、私は幸せね! 今日はあなたに渡したい物があったのよ。私の体の言うことが聞いてくれれば驚かせられたのだろうけど……」


「私はそういうことが苦手です。で、出来ればやめてほしいです。それで、お母さま……お母さん、渡したい物とは何でしょうか?」


「エレノアはいつも、一生懸命勉学に励んでるって聞いたわ。それだけじゃない。剣も、魔法も、礼儀作法も全部頑張ってるって、レフィーの面倒を見ながら」


「私にとって当然のことです! お母さんにもっと、もっと認められたいですから。それにレフィリア様のためにも」


「レフィー」


「……うぅ……レフィーのためにも」


「ふふふ、そんなあなたの頑張りはお父さんにも、城にいるみんなにも伝わっているわ。そこで、こんなものを用意したのよ」


「これは……親衛隊のマント……」


「そう! このマントをあなたにプレゼントしようと思って」


「そ、そんな! 受け取れません! 私にはまだ至らぬことばかりですから」


「……せっかく用意したお母さんのプレゼント。受け取ってくれないの?」


「うっ」


「そうね。たまには王妃として振る舞うのもエレノアのためになるかもしれないわね。エレノア、あなたにこれを渡すのはそれに足る人物となったからです」


「……私が? 本当に?」


「そうです。でも、それでも自分には受け取る資格がないと言うのであれば……悲しいけど……諦めるわ」


王妃としてでなく、母親としてせっかく用意してくれたプレゼント。それを受け取ってもらえない。そのことの方がアリア様の、お母さんの心に傷をつけてしまう。そんな風に思えた。


「私は……私は誉れあり、誇りある親衛隊に入ります。アリア様の、お母さんのその拝命、お受けいたします!」


「本当に?」


「はい!」


「それでこそ我が子エレノアよ! 至らぬ所があるのは十分承知です。親衛隊の名を汚さぬようより一層精進しなさい!」


「は、はい!!」


「王妃としてはここまででいいわね! エレノアにはレフィーの専属の護衛になってもらうつもりなのよ」


「私がですか?」


「そうよ。レフィーが悩んだり、困ったりすることがあったら誰よりも先に、エレノアが助けるの。本当は、私が助けてあげたいのだけど、私に出来ることは少ないから」


「そんなことはありません! お母さんは私にもレフィーにもよくしてくれています。他の誰がなんて言おうとも、私がそれを証明してみせます!」


「エレノアがそう言ってくれることが何よりの誇りね。さぁ、プレゼントを受け取って、私にその姿を見せてちょうだい」


お母さんに言われた私は、親衛隊のマントを、プレゼントを受け取って、着て見せた。お母さんはうんうんと頷いて、よく似合っていると言ってくれた。誇らしく思う。


「おかしい所はないわね! よかったわ!」


「おかしい所ですか?」


「えぇ、遠くからでもエレノアだとわかるように、そのマントに私が裁縫してみたのよ」


私は言われて気付いた。他の親衛隊の人たちとは違う部分があることに。私のためにお母さんが裁縫をしてくれた。それだけで私は幸せになれた。


「お母さん、ありがとうございます! 一生大切にします!」


「その言葉が聞けただけでも頑張った甲斐があるわ。これからもよろしくね、エレノア」


「はい!」


私はお母さんからもらったこのマントを一生大切に使うと誓った。そして親衛隊の名に恥じぬように更に更に励んだ。レフィーが間違えたことを、根気よく何度も何度も教え、良かったことはお母さんと一緒になって褒めてあげる。


レフィーはそんな私に懐いてくれた。『エレノア大好き!』と足に抱きついてくれた時はそれはもう幸せだった。思わず頬ずりしてしまうほどに。


レフィーは小さいながらもお母さんの生き写しのように美しかった。大きくなれば必ずお母さんと同じくらい、それ以上に美しく成長することだろう。


そんなお母さんに2人目の……3人目の子が生まれた。男の子だった。とても可愛らしい男の子。レフィーを抱き上げた時のように、お母さんは誰よりも先に私に抱いてほしいと言ってくる。嬉しい、ただその一言だ。そしてレフィーも抱き上げる。小さいながらもしっかりした子に育ったレフィーは、初めてのことで緊張していたが、弟が出来たことを喜んでいた。


ただ幸せな日々は長く続いてくれなかった。3人目の子を産んだことで体力が極端に下がり、体調が戻らなかった。それでも私やレフィーがいる前では、必ず微笑んでいた。


「エレノア、レフィー……もっと近くに来て」


「お母さん。私、もっとお母さんと一緒に居たい」


「私ももっと一緒に居たいわ。でもごめんねレフィー。それは難しいみたい」


「嫌だよ。嫌だよお母さん!」


「泣かないでレフィー。エレノアも泣かないで。私はあなた達に笑っていてほしいの」


「お母さん、それはどうしてですか?」


「最後に見る顔が泣き顔なんて嫌だわ。それに私は幸せだった。こんなにも優しい子達に恵まれているんだもの。それと私はあなた達とほんの少しだけ違う所へ行くだけ。別れるつもりはこれっぽっちもないわ。あなた達がいつか私のいる所へ来た時にまた会うのだから。その時になったらまたたくさんあなた達の話を聞かせてちょうだい」


「はい……お母さん。私はもう泣きません。私は幸せです。両親を失った私を引き取ってくれた。お母さんになってくれた。愛してくれた。私はお母さんの子になれて本当に良かった。ありがとうお母さん。ほら、レフィー。あなたも言うことがあるんでしょう?」


「……うん。私、もっとお母さんと一緒に居たい。ずっとずっと一緒に居たい。でも……それは出来ないんだよね?」


「……えぇ……ごめんね。レフィー」


「ううん。謝らないでお母さん。私は悲しいよ。けど泣かないよ。だって、だってまた会えるんでしょ?」


「そうよ。必ず会えるわ」


「なら私も、ほんの少しだけお母さんと離れるだけだもん。寂しくないよ。たくさん思い出作って、いっぱいいっぱい幸せになって、お母さんに会えるようになった時に、たくさん話せるようになる! だから……だから私はさようなら何て言わない。また会おうねお母さん!」


「えぇ……えぇ……また会いましょうレフィー。そうだ。あなたにプレゼントがあるわ」


「それはなぁに?」


「私の最愛の夫、あなたのお父さんが、私のために悩んで、探してくれたこの首飾りよ。私とお父さんが結婚する時にプレゼントしてくれたものなの」


「そんな大切な物、私がもらっていいの?」


「レフィーだから渡すのよ。レフィーの中で本当に愛する人が出来た時には、この首飾りをプレゼントしてあげて。とても大事な物。なによりも大事な物を、渡してもいいと思える人に渡してあげて」


「お母さん、約束する! もしその人が見つかったらプレゼントする!」


「えぇ」


レフィーはその首飾りをつけて見せた。お母さんは凄く似合っているわと言った。とても幸せそうにしながら。


「エレノア。ごめんなさい。あなたに渡せるものが……」


「いえ、お母さん。私にはもうお母さんからもらった大切な物があります。このマントは私の宝です」


「そう言ってくれてありがとう。大きくなってまた更に似合うようになったわ。私はそれがとても誇らしい」


「お母さん、ありがとうございます。見ていてください。私は更に、更に励みます。そして、レフィーのことは私に任せてください」


「……ありがとう。エレノアに頼んで本当に良かったわ。後は……」


「アリア。息子に渡す物は私が取り繕おう」


「あなた。来てくれたのね」


「もちろんだとも、どれだけ忙しかろうと、私は必ずお前の所へ駆けつける」


「ありがとう。あなた。あなたと出会えて本当に良かった。エレノア、レフィー。もっと近くに来て」


「「はい、お母さん」」


私とレフィーはお母さんの両腕に抱かれた。お母さんは私達を思う存分抱きしめた。お母さんが出せるすべての力を振り絞って抱きしめてくれた。言葉ではなく行動で、心の底から愛していると伝えてくれた。私とレフィーは泣かない。お母さんも泣かない。王も……お父様も泣かない。みんな笑顔だった。


私は亡くなったお母さんに誓う。レフィーを必ずお母さんの代わりに立派に育てて、誰が見ても誇らしく思えるような、そんなお母さんのような美しい女性になってもらえるように。

登場人物について

いずれ忘れてしまうので、覚えているうちに後書きに書き残そうと思います。

勘違いでなければ活動報告にも要望があったので書いておきます。

読む必要はないものです。


主人公ヴィータ

物語を書き始める前はどこにでもいる平凡な鍛冶職人。王都の人気のない場所で鍛冶屋を営む。要領が悪く、必ず何かやらかしてしまう。それをティアに怒られる日々を過ごすだけだった。

そのヴィータのことを考えていくうちに


なぜヴィータは鍛冶を始めたのか? という理由付けから始まり、

なぜ兵士を辞めて鍛冶職人になったのか?

なぜ要領の悪いヴィータが王都に行こうと思ったのか?

と考えるようになり、村から出る羽目になり兵士となったということになりました。

その過程で将軍、帝国将が生まれました。

ただの鍛冶職人から英雄へ

それがヴィータの生い立ち、本編となりました。


レフィリア

当初は息抜きのために人気のない場所を探し、そこでヴィータの家を見つけ、気に入って時々遊びに来るだけのお姫様でした。


それが物語を書いていくうちにかなり路線変更していく事になりました。

最初は城で道に迷ってしまったヴィータと出会う展開だったものが、

お互いのことを手を振り合って認識し合う関係に変わり、

ヴィータが鍛冶を始め、理想の剣を求める理由、守りたい者となりました。

物語を書き終えた頃には聖女となってました。


ヴィータの生い立ちを考え、物語の展開を考えていく中で最も変化していったキャラクターだと思います。


エレノア

元々はレフィリアが最も信頼するただの付き人でした。

ヴィータ、レフィリアの関係が変化していくうちに歯止め役になってもらうことになりました。大好きなレフィリアが取られてしまうことに嫉妬する人になりました。理由は簡単、面白そうだからです。

ヴィータとレフィリアがいつまでもイチャイチャして話が終わらなかったというのも一つの理由です。


物語の終盤、のほほん80辺りを考えだした頃に後付け設定として実はお姉さんだった的な立ち位置にしようと思ったのですが、書き始め当初とは全然立ち位置が変わってくるため、本編とは別で書くことにしました。これが矛盾点、相違点等のおかしな点になると書いた理由です。


なぜ姉であることを隠して主従関係になっているのかという理由付けは、城にいる周りの者達がそれを許さなかったとか認めなかったとかそんな感じです。エレノア自身もそうしなければならないと考えているというのも一つの理由です。


こんな感じで時々後書きに書き残そうかと思います。

必要ないかもしれないので読者さんの反応を見て残すか消すか決めたいと思います。

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