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商人と薬師

連合との戦争が終わってからヴィータ達の生活スタイルが変わった。生活スタイルが変わるまでは毎日ヴィータに付き添い王都の外へ出ていたティアとコン太。変わってからは時々ヴィータが一人で家から出ていくようになった。


ヴィータが一人で出かけるようになった後も、ティアとコン太はずっと一緒に過ごしていた。ルナやドラゴス、コン太の母親が一緒に住むようになってもティアのコン太に対する接し方は変わることはない。


ティアは暇を見つけてはコン太の様子を見に行き、弟を可愛がるようにギューッと抱きしめたりしていた。それはティアがコン太のことを可愛がってすることでもあり、コン太自身に頑張れと元気を与えるためでもあった。


コン太がティアよりも大きくなり、ティアがコン太を見上げるようになっても続いていた。ティアはヴィータ達の縁の下の力持ち。もちろん、ティア自身にも大商人になるという大きな夢があるが、なんだかんだ言いつつヴィータとコン太の面倒を見続けていた。


ティアがヴィータを叱るのはヴィータがあまりにも物事を知らなすぎるというのも一つの理由だが、放っておくといつまでも鍛冶を続けてしまうことに関して叱っていた。ティアが心配して止めなければ、ヴィータは体が壊れるまで、壊れた後もいつまでも鍛冶を続けていただろう。それほどまでに夢を見た後のヴィータは取り付かれたように鍛冶に取り掛かっていた。


ヴィータはいつまでも道なき道を突き進んでいたのに対し、コン太は途方もない道に絶望し立ち止まってしまっていた。それを見たティアはいつも声をかけ、抱きしめて元気を出させていた。


「あのへっぽこ店主を見てください! 放っておけばいつまでもいつまでも鍛冶を続けてしまいます! あの姿勢は私やコン太くんは見習うべきでしょう!」


「コン太くん、お母さんを助けたいのなら立ち止まっていてはダメです! コン太くんが諦めなければ絶対に大丈夫ですよ! コン太くんは一人ではありません。私やへっぽこ店主がいます!」


「へっぽこ店主は私と同じでいつも前を向いています! だから元気を出してコン太くんも一緒に前を向いて歩きましょう!」


ルナと出会うまで、コン太は上手くポーションを作れなくて泣いていることが多かった。それをティアはいつも励まし立ち上がらせていた。ヴィータを怒る時以外はいつも笑顔だった。戦争が起きて斬られた後もすぐに笑顔で前を向いて歩いていた。


ヴィータが突き進む道に、ティアが道を重ね合わせ、その後を歩くコン太を振り向いて手を取った。ヴィータが先を行き過ぎて道を外さないように、コン太が遅れて迷わないように。ティアがその役目を担っていた。


それも少しずつ変化していく。ヴィータが突き進む道を支えるようにレフィリアがその隣に立つようになった。その2人を複雑な気持ちで見守るエレノアがいる。


コン太も自らの夢を叶え、更なる夢を叶えるためにヴィータと共に歩く。コン太の母親はそれを温かく見守る。


「や、やばいです! まずいです! ヒャーーー!!!」


ガラガラガシャーン!!!


それは帝国との戦争が終わり、王国に平和が戻ってきたある日のこと。ヴィータは魔獣討伐に出ていて家にはいなかった。そんなある日にティアの大声と共に大きな物音が店の方から聞こえてきた。


「ティ、ティア姉さん!? 大丈夫ですか!?」


「うぐ……いたた……コン太くん大丈夫ですよ。ちょっとうっかり足を滑らせて椅子から落ちてしまっただけです。本当にお父様から受け継がれてしまったうっかり癖は治りませんね」


棚の上にある物を取ろうとして椅子に乗り、うっかり倒れてしまったのだった。ティアは足を捻ったのか手で抑えていた。


「診せてください」


「このくらい平気ですよコン太くん……いてて……」


「ダメです! 大怪我だったらどうするつもりですか! それに僕はこんな時のために勉強しているんです。僕に任せてください」


「ふふふ。私は嬉しいですよ! あんなに小さかったコン太くんがこんなに大きくなってくれたのですからね! 姉冥利に尽きるというものでしょう!」


断ろうとしたティアの足を強引に診るコン太を、ティアは嬉しそうに見ていた。コン太は真剣そのもので処置をして回復魔法を使う。


「こんなものでしょう。ティア姉さん、しばらくは無理してはダメですよ」


「コン太先生の言う通りにしましょう! 足はもう全然痛くありませんね! さすがコン太先生です!」


「僕はまだまだ先生なんて言われるほどの力はないですよ」


「そうですか? 私は十分すぎると思いますけどね! コン太くん、もう大丈夫です。いつも通り仕事に戻ってください」


「いえ、放っておくとまた無茶すると思うので傍にいます」


「むぅ、信用ありませんね……まぁいいでしょう! なら手伝ってもらうことにします。お客さんは来ないんですけどね!」


コン太はティアの足に負担がかからないように椅子に座らせ、その隣に座った。


やはり、この閉鎖的な空間、王都に存在するはずなのに人気のまったくないこの場所には客がやってくることはなかった。ティアとコン太は来るはずのない客をカウンター前で静かに待ち続ける。


ティアは足をプラプラと揺らし、この静かな時間を楽しんでいた。そんなティアはいつもとは違い、体を預けるようにコン太の肩に頭を乗せた。


「ティ、ティア姉さん? どうかしましたか? やっぱりまだ足が痛いんじゃないんですか?」


「んふふ~どうもしませんよ。コン太くんのおかげで足は全く痛くありませんとも! 何となくこうしたい気分なんですよ」


コン太の肩に頭を乗せたティアは微笑み、そしてほんのりと頬を赤く染めていた。


「そうですか……」


「ここは相変わらず静かですね。私が初めてやって来た時とほとんど変わりません」


「そうですね。僕もそう思います。でも、僕にとってこの家は、この場所は特別です。店主さんやティア姉さん、ルナ師匠にドラゴスさん。レフィーさんにエレノアさん。たくさんの人たちと出会うことが出来ました。ここに来てみんなと出会うことが出来たおかげで、僕はお母さんの病気を治すことが出来ました」


「私にとっても特別な場所ですよ! この家で過ごしてきた思い出は一生忘れることはないでしょう! 目を閉じればコン太くんがまだ私よりもずっと小さかった姿を思い出せます。早いもので気付いた時には私が見上げるようになっていましたね」


ティアもコン太も昔を思い出すように話に花を咲かせていた。まだ小さく、いつも泣きべそをかいていたコン太のこと。事あるごとにやらかしてきたヴィータのこと。ルナとドラゴスが様々なことを教えてくれたこと。騒がしくもあっという間に過ぎ去っていった時のことを語り合った。


「ティア姉さんはいつも笑顔でしたね。どうしていつもそんな風に笑っていられたんですか?」


「簡単ですよ! 下を向いて歩くよりもずっと楽しいからです! 夢は大きければ大きいほどやりがいがあります。それを楽しまないのはもったいないですからね! 笑って過ごしていた方がいい思い出になりますしね!」


「ティア姉さんは凄いですね」


コン太は素直にそう思う。ティアは簡単と言うが、それはとても難しいことだ。


「私が笑っていられるのは、へっぽこ店主やコン太くん達がいるからですからね! 皆がいるから今の私がいるんです。今だってコン太くんから元気をもらっているんですよ?」


「そ、そうですか?」


「そうですとも!」


ヴィータはティアとコン太の道しるべとなり、

ティアはヴィータの道を照らし、コン太の手を取る。

コン太はヴィータを追いかけるように歩き、ティアを支えた。


そして


ヴィータはティアとコン太を守る盾となり剣となり

ティアはヴィータとコン太の道を明るく照らす太陽のように

コン太はそのヴィータとティアを支える月のように


その在り方は3人が出会ってから自然と出来上がりずっと続いていたこと。そしてこれからも続いていく。その道にレフィリアやエレノア、コン太の母親が加わり、ルナやドラゴスはそれを後押ししていくだろう。


思い出話が一段落してまた静かな時間が訪れていた。その沈黙を破るようにコン太が意を決して口を開いた。


「あ、あのねティア姉さん」


「何ですか? コン太くん」


「ティアって呼んでもいいかな?」


「おや! ついに私の弟から卒業するのですね!?」


「だ、ダメかな?」


「んふふ~もちろん構いませんとも!」


「ありがとう! ティア!」


「こ、これはたまりませんな!!!」


いつかのように、ティアはコン太に力いっぱい抱きしめ頬ずりをした。


「わぁ!? ティア姉さんどうしたの!?」


「おや? もう弟に戻ってしまうのですか?」


「ま、まだ慣れてないから」


「これから慣れていけばいいのですよ! んふふふふ~」


コン太は恥ずかしそうだったが、ティアは頬を赤く染めながらも嬉しそうにしていた。


「さて! ここにいてもお客さんは来ませんからね! そろそろ行商にでも行きますか!」


「その足で行くの!?」


「もちろんですとも! この程度の怪我で大商人を諦めるような小さな夢ではありませんからね! それに生活もかかってますから」


よいしょと言いながら椅子から立ち上がるティアを見てコン太は言った。


「ティア、僕も手伝うよ」


「ふむ」


「放っておけないし、その足で行商は大変でしょ? それにポーションの使い方とか買ってくれた人達に教えるのも大事だと思うから」


「確かに私は売ることは出来ても専門家ではありませんからね。コン太くんに説明してもらった方がお客さんも来てくれるようになるでしょう! コン太くん、私は遠慮しませんからね!」


「もちろんだよティア」


ティアとコン太の関係はこれからも少しずつ変化していくだろう。コン太の母親はその様子を温かく見守っていく。


ティアの行商をコン太が手伝うようになった。薬師としても医者としても成長を続けているコン太が行商を手伝うようになったおかげでポーションの売れ行きが上がったり、コン太を頼るお客さんが現れるようになる。コン太は薬師兼医者としてまた多くの経験を積み、ティアもまた大商人としての夢を一歩前進させることになった。

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