獣人親子とやる気のない兵士3
帝国との戦争が終わったという報告を受けて、ティア達は王都に帰ってきた。ヴィータが無事生きているという話も聞いて一安心していたが、ティア達がヴィータを見て驚きを隠せなかった。
それもそうだろう。ヴィータの左腕が無くなっていたのだから。
ヴィータは気にしていないようだったが、帝国との戦争はそれだけ激しい戦いだったのだろうと実感出来るものだった。ティア達にはヴィータが腕を失ったという事にも驚いたが、それ以上にヴィータ自身の変化に驚いていた。何かを成し遂げたんだとティア達にはわかる程度には変わっていた。
一回りも二回りも立派に大きく成長したと感じるのだ。何年も一緒に暮らしていたティア達だからこそわかること。ただ、性格が変わったわけではない。いつもの生活に戻るのは早かった。
コン太はルーシュに頼まれ、帝国との戦争で負傷した兵士たちの治療に専念していた。医者たちもここまで多くの兵士が負傷したのは初めてだと言うほどに負傷兵は多かった。コン太が来ただけで大喜びされるほどに。
コン太の母親に手伝ってもらいながら、多くの兵士たちの傷を癒したコン太。ヴィータ達と初めて出会った時のような弱々しさは微塵も感じない。凛々しく成長した姿は誰が見ても立派だと思えるだろう。
ヴィータ同様、コン太の歩みも止まることはなかった。コン太はルーシュの情報収集能力を頼り、ルーシュに王都に暮らしている人々で怪我や病気に悩んでいる人を探してもらうようになった。それは、コン太自身が経験を積むためでもあり、コン太と同じような境遇の人たちを救いたいと願うからである。
「僕にその子を診せてもらえませんか?」
「し、信用出来ねぇよ」
ここはスラム街。その中の一軒にコン太達はいた。その家の中には父親と今もうなされている子供がいた。ルーシュの話では熱が上がったままいつまでも下がらないそうだ。
「おっちゃん、信用出来ねぇってのはよぉくわかる。無償で、ただの善意で助けようなんてやつはこのスラム街にはいねぇからなぁ」
「だったら帰れ! 俺はお前達に頼るつもりはねぇ!」
「僕はただ、今も苦しんでいるその子を助けたい。それだけです」
「信用出来ねぇって言ってんだ!」
「おっちゃん。このままその子供を放っておいても死ぬだけだってわかってんだろ?」
「っ! そ、それは」
その子供はやせ細り、食事を与えても吐き出してしまっていた。父親は医者に診てもらう金もなく途方に暮れていたのだ。そこへ突然コン太達がやってきたのだ。信用するのは難しい。
「無償ってぇのが信用出来ねぇんだろ? こっちにも理由がある。この獣人の医者は医者としての経験を積みてぇんだ。だから診て助けることで経験を積みたい。経験を積むためにやることだ。だから金は要らねぇ。後はおっちゃん次第だ。放っておいても死ぬそのガキを俺らに委ねるかどうかはな」
「…………」
父親は悩んで悩んで悩み抜いた。このまま放っておけば死んでしまうことはわかりきっているから。
「お医者さんよぉ。この子は助かるのか? 正直に答えてくれ」
「……診てみないことにはわかりません。でも最善を尽くすと誓います」
父親の質問に、コン太は真剣に答えた。その答えを聞いて父親は目を閉じた。もう一度考え、そして目を開けて答えを出した
「このままなら死んじまうのは確かなんだ。やるだけやってくれ」
その答えを聞いたコン太はすぐに動き出す。子供を診て、コン太の母親に必要なポーションを用意してもらい。それをゆっくり子供に飲ませた。
時間を置いて少しずつ、少しずつ飲ませていくと子供がうなされなくなり、熱が下がった。コン太はそれでよしとはしない。母親に頼み、弱った体でも受け付ける柔らかい煮込み料理を作ってもらう。火傷しないように少し冷めた料理を少量ずつ口へ運ぶ。子供はゆっくりだが静かに料理を食べていった。
父親はその様子を見て驚いていた。自分には出来なかったことをあっという間に成し遂げてしまったその獣人親子を。
「なぁ。あれだけ出来てまだ経験が足りねぇってぇのか?」
「少なくとも本人はそう思ってるみたいだぜ? まぁ、他にも理由はいろいろあるけどなぁ」
「そうか……」
「今出来ることはすべてやりました」
「あ、あぁ……助かった。だがいいのか? 俺は金なんて……」
「必要ありません。お金が欲しくて助けているわけではありませんから。それで……」
コン太は父親に子供のことを丁寧に教えた。ポーションの飲ませる時間、世話の仕方、母親の作ったような柔らかいものを食べさせた方がいいなど、子供のその後のことまでしっかりと。
「また様子を見に来ます」
「ま、また来てくれるのか!?」
「完全に治ったわけではありませんから。でも面倒を見るのはあなたの仕事です。頑張ってください」
「すまねぇ……すまねぇ……」
父親は泣いていた。子供のことを本当に想っていたからこそ泣いているのだろう。コン太達は頭を下げて家から出ていった。
「初めて会った時には、コン太がこんな風に成長するとは想像出来なかったなぁ」
「えぇ、コン太は私の最高の息子です」
「親孝行もんだなぁ」
「今の僕がいるのは、店主さんやティア姉さんやルナ師匠。それにお母さんやルーシュがいたからだよ。皆がいたから頑張れたんだ」
「立派だなぁ! デカくなったもんだ。どうよコン太。お前もそろそろ酒飲んでみるかぁ?」
「お酒?」
「おぅよ! 俺が酒の飲み方を教えてやらぁ。いいですかね?」
「ルーシュさん。もちろんですよ。コン太はもう立派な大人ですから。これからも仲良くしてあげてください。でも、あまり悪いことは教えないでくださいね?」
「もちろんですとも! 母ちゃんの許可も取ったし、早速今日の夜にでも飲みに行くかぁ!」
「うん! でもほどほどにしてね」
「おぅよ。酔い潰してやらぁ!」
「えぇ!?」
「ふふっ」
ルーシュはコン太と肩を組む。コン太の母親はその様子を暖かく見守り続けていた。
ルーシュはコン太に出来ないことをこれからも手助けしていく事だろう。コン太もいつ何が起きてもいいように自らを高め続け、これからもたくさんの人々を救い続けていくだろう。全ては自分に手を差し伸べてくれたヴィータ達のために。




