ストレンダム学寮 マロイ舎(2)
「それじゃ改めまして。アタシがここの寮母さん。マロイって呼んでも良いよ」
間もなく夕食の時間とあって、部屋の案内もそこそこに二人は食堂へ案内された。マロイ舎に滞在しているのは合わせて八人。その全員が女性であるようだった。何故だろう、とシルフェは首を傾げるが、聞かない限り分からないことだと一旦考えるのをやめる。
昼間であれば服に付いたバッジで学年まで分かっただろうが、この時は既に全員が室内向きの楽な服装に着替えていた。寮母の女性を含めた九人が縦長の卓に集う。八人の席は卓の縦辺に向かい合わせて四つずつ配置され、マロイと名乗った彼女は最奥、全員が見渡せる横辺に首長よろしく構えている。が、高さを周囲に合わせた椅子のために足が浮いていた。
「宜しくお願いします」
声を合わせ、挨拶を済ませた。個々に言葉を交わすことはない。風土がそうなのか、この寮母が体裁や規則に拘らないのか、あるいは料理が冷めるのを嫌ったか。ここはこういう感じなのかと、シルフェは早くもこの寮の風を理解できてくる。
挨拶をされた側のことだが、六人の寮生は二人の新参を、歓迎の声で迎え入れていた。一人だけ手前で食事に気を取られている者がいたため、マロイが下がった額を指で弾いてたしなめていた。
「そちらの綺麗な金髪のお嬢さん、名前は」
「ルエッタです」
「そして?」
「シルフェです」
「という訳だから、各々仲良くするように」
二人のためのなにがしか、というような物事が用意されることはない。とかく簡潔に場を進めるのが、この寮の流儀とも言えるものだった。
寮母マロイは小人である。女性であればその身体はどんなに大きくても成人前の人間――シルフェ達より少し低いところまでしか成長しない。その代わりに寿命が人のそれよりも長く、老いるのもまた相応に遅い。これまでで分かった、豪放磊落という言葉が似合う彼女の性格も、小人寄りの傾向である。
マロイの顔立ちは未だ若いが、子供のものというにはいささか成熟しており、体格や所作を見ればその年齢は小人の成人年齢である二十をとうに越えていることが分かる。肩ほどで切られた茶髪は後ろで一つにまとめられ、質素な色合いの衣服が年長者の余裕とおおらかさのようなものを演出していた。
「それでは夕食を始めましょう」
簡素な紹介が済んでから放たれたその言葉を皮切りに、それぞれが食事を始める。食前の祈りを捧げる者も捧げない者もいる。総勢で九人という小さな輪の中であっても、やはり諸地域から知を求める者が集う学術都市、行動の端々から各人に根付いた文化の片鱗が垣間見える。
「ご馳走になります」
「頂きます」
二人は調理を行ったマロイに対しての感謝を述べ、食事に入る。
卓の中心では大鍋に満ちる肉と野菜の煮込まれたスープが湯気を立て、その脇には二山のパンが積み上げられている。それを取り囲むように、追加の調味料や、その他の副菜が並んでいるのだった。
器に取り分けたスープを一掬い、息で冷ましながら口に入れる。
美味しい。
料理を口にしてシルフェは確かにそう感じた、のだが。
「初めまして、宜しく頼む」
「は、はい。宜しくお願いします」
憧れた異邦の地で口にする最初の食事、最初の一口から寮母マロイの腕を確かと認められる味であることは分かるが、先ほどから左隣が気になって集中が散ってしまう。
……ここには諸地域から様々な人が集う。当然変わった者――例えば、人並外れて発達した肉体を持った者がやって来ることもある。
「いや、嬉しいじゃないか。こんなに人柄の良さそうな子が二人も来てくれるとは」
「ありかとう、ございます」
相手は自分との出会いに感謝し、嬉しそうな声を向けてくれるが、何分このような姿の「ヒト」は初めて見るのだ。どうしても受け答えがぎこちなくなってしまう。
斜め上から降ってくる視線。逞しい肢体に野性的な顔、そして、黒い耳と尾。シルフェは少なからず、隣に座したこの獣人の巨体に怯んでしまっていた。