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ストレンダム学寮 マロイ舎(1)

丁寧に舗装された街路、整然と直線の輪郭を築く灰色の建造物群。門を抜けてすぐの街道には旅人のための宿、隣り合う王都のために展開された飛脚屋が並ぶ。


「本当に沢山建ってますね……これ、石造ですか?」

「そうだよ、この辺りのはね。初めて見るのかい?」

「はい、本物は……絵よりもずっと見た目の質感とか、迫力とかが違います」


生まれてから十五年、ずっと木造の屋敷に暮らしてきて、得た知識と言えば悉く本に書かれていたものばかりだった。こうして実物を目にすると、こみ上げる想いは格別だ。

都市へ入るための審査が無事に終わり、三人は街の中を進んでいた。馬車は拠点である『送り屋』まで二人を連れ、いよいよ全ての仕事を終える。送り屋と学寮の間は大して離れていない。夜になるまでには着けるはずだった。


「シルフェ、本当に楽しそうな顔してるわね」

「そう、かな?」


事実、楽しくて仕方が無かった。ヴィーリン川の空気が心地よかったのでもう少し留まっていたかった、という心残りが幾何学的に構築された美しい街並みによって追いやられ、その興奮もこれからに対する期待でさらに上塗りされていく。


「目がきらきらしてるもの。わたしも楽しみではあるけど、貴女ほどじゃないわ」


そう言う彼女の優しげな目線がかえって恥ずかしく、急激に自分の顔が火照っていくのを自覚する。頬を押さえて視線を逸らすシルフェを見て、ルエッタは控えめに笑ってみせた。



「それじゃ、気を付けて」

「はい、ここまで本当に有難うございました」

「ああ、こちらこそ」


シルフェが改めて礼を告げ、ルエッタは黙礼に留める。御者と別れてから、二人は学寮へと歩き始めた。都市内部へ帰路につく人々も多い。この近辺は酒場も少ないので、夜になれば静寂に閉ざされることになる。

夕日がかすかに差し込む路を歩く短い往路が半ばを過ぎた頃、ルエッタがおもむろに口を開いた。


「寮に着いたらこんな風には話せなくなるのかしら」

「どうして?」

「部屋も違うでしょうし、学院でも授業は多分、別々でしょう」

「そうかもしれないけど……そんなに心配しなくても、きっと大丈夫。むしろ食事を一緒に摂ったり学院まで一緒に行けたり、新しく出来ることの方が多いと思うの」

「……そうね、杞憂だったわ」


ルエッタはこちらを見ず、蒼い瞳を前に向けたまま、その言葉を受け止めていた。



やがて二人は何番目かの十字路を曲がって、ある建物の前へと辿り着いた。塀に囲まれた敷地の、路上に面した一方に黒色の格子扉が口を開けており、そこから玄関に向けて石畳が伸びている。扉の隣の壁にはやや年季の入った金色のプレートが埋め込まれていた。


『ストレンダム学寮 マロイ舎』


「あれ、思ったより小規模なんだね……ここに寮生みんなが入るのかと思ってた」

「貴女の屋敷より小さいかもしれないわね」


何百人とが収まる巨大な建造物を想像していたシルフェは、富裕層の邸宅ほどの大きさに留まった学寮を目にして意外そうな表情を見せる。一周するのに大した歩数はかからないだろう。

マロイ舎は二階建てと思しき高さであり、暖かみのある色合いの石材で造られていた。二階部分はわずかに幅が狭まり、正面を見る限りでは中央に四角い窓が一つだけ取り付けられている。


「それじゃ、行きましょう」

「ええ」


二人で入口の扉へ向かおうとした次の瞬間、自ずから玄関に取り付けられた両開きの木製扉が開く。反射的に強張った身体は、向こう側から一人の女性が顔を覗かせたことですぐに緩まる。


「あ、やっと来たね。いらっしゃい、もうすぐ夕飯だよ」


ただ、その身長はシルフェ達よりも頭一つ低かった。

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