表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

世界に涙した朝

作者: 花南



 朝日がきれいだと感じた、そんな朝。

 私はせかいのうつくしさに、涙した――


 グレーのスーツを纏っていた。

 実際に着ている服がピンクだろうと若草色だろうと、心はいつでもグレーのスーツを着ていた。

 私の心はいつでも、灰色だった。

 その日の外も雨が降っていて、部屋の中は暗かった。

 泣いても何かが変わるわけではないことを知っていたから、ずっと泣かずにいた。ただずっと、音楽を聴いていた。

 お酒を飲みながら、太陽が昇るまでずっと音楽を聴き続けた。ごはんも食べずに、ずっとお酒を飲むことしかできなかった。

 心を慰めるためにお酒を飲んで、魂を癒やすために音楽を聴いていた。


 朝日が昇る頃、好きな曲が流れたんだ。

「祈りにも似た 美しい音楽の世界を ありがとう」

 唇をすべるように、やわらかな旋律がこぼれた。

 祈るように、歌った。

 涙がこぼれるような気がした。


 やさしく心に呼びかける、あたたかな衝動。何度音楽に涙したのかわからない。辛いとき、何度音楽に心を救われたのかわからない。

 世界はね、まだグレーだった。

 世界に色がついたような気がするのは、音楽を聴いているときだけだった。


 朝日が部屋を照らした。すみずみまで照らした。私は窓を眺めた。

 小さな窓から私に訪れた奇跡に、感謝した。

 今日も朝がきたことに、感謝した。


 世界よ、ありがとう。

 音楽よ、ありがとう。


 祈るように、小さく唇から旋律がこぼれおちた。


「祈りにも似た 美しい音楽の世界を ありがとう」


 神様なんて信じちゃいないけれども、朝が訪れるたびに、音楽を聴くたびに感じる気持ち。


 私の神は、音楽の中にいた――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ