世界に涙した朝
朝日がきれいだと感じた、そんな朝。
私はせかいのうつくしさに、涙した――
グレーのスーツを纏っていた。
実際に着ている服がピンクだろうと若草色だろうと、心はいつでもグレーのスーツを着ていた。
私の心はいつでも、灰色だった。
その日の外も雨が降っていて、部屋の中は暗かった。
泣いても何かが変わるわけではないことを知っていたから、ずっと泣かずにいた。ただずっと、音楽を聴いていた。
お酒を飲みながら、太陽が昇るまでずっと音楽を聴き続けた。ごはんも食べずに、ずっとお酒を飲むことしかできなかった。
心を慰めるためにお酒を飲んで、魂を癒やすために音楽を聴いていた。
朝日が昇る頃、好きな曲が流れたんだ。
「祈りにも似た 美しい音楽の世界を ありがとう」
唇をすべるように、やわらかな旋律がこぼれた。
祈るように、歌った。
涙がこぼれるような気がした。
やさしく心に呼びかける、あたたかな衝動。何度音楽に涙したのかわからない。辛いとき、何度音楽に心を救われたのかわからない。
世界はね、まだグレーだった。
世界に色がついたような気がするのは、音楽を聴いているときだけだった。
朝日が部屋を照らした。すみずみまで照らした。私は窓を眺めた。
小さな窓から私に訪れた奇跡に、感謝した。
今日も朝がきたことに、感謝した。
世界よ、ありがとう。
音楽よ、ありがとう。
祈るように、小さく唇から旋律がこぼれおちた。
「祈りにも似た 美しい音楽の世界を ありがとう」
神様なんて信じちゃいないけれども、朝が訪れるたびに、音楽を聴くたびに感じる気持ち。
私の神は、音楽の中にいた――。