冬にはあったかい鍋が11
柔らかくぷりぷりした食感の鶏肉。その骨から出た旨味と野菜の美味しさが染み込んだお出汁。煮込まれて甘味の出た野菜たち。
「お……美味しーい!!」
「ピギャオーッ!!」
私の喜びの声と、アルの悲しげな鳴き声が温泉にこだまする。フィカルは無言で鍋からよそったものをアルではなくスーの口に放り込み、またアルは声を上げた。フィカルが意地悪しているのではなく、ヒリュウで熱さに強いスーとはちがってアルは冷まして食べる必要があるからである。私はアルの口にジャマキノコを入れて宥めてから、またひと口食べた。
「美味しい〜。この鳥、去年も食べたけどすごく美味しいね。アズマオオリュウが食べるだけあるなあ」
「燻製にして持って帰る」
「うん、お土産にしようね」
シンプルな味付けのお鍋は、素材の味が活かされていてとてもいい。塩だけで味付けしていたときはポトフっぽい雰囲気になっていた食材たちも、醤油を入れるだけで和の味に変身するのだから最高だ。
野菜をたっぷり摂れるし、鶏肉も美味しい。お米に似た食材も持ってきているので、シメの雑炊を想像するだけで無限に食欲が湧いてきそうな気がする。
「おかわりしちゃおう。フィカルもおかわりする?」
「する」
鍋に入っているだけでいつもの倍は食べている気がする。私は大好きな肉団子をふたつ貰って、その美味しさを噛み締めた。
「あーしあわせ……」
冷めてきた鳥肉を、アルがハグハグ食べる。私も一緒に鳥肉を食べながら、ぐつぐつ輝く鍋とたくさんの竜たち、隣にいるフィカル、そして温泉というこの最高の景色を味わった。
……うん。
最高の景色だ。
最高なんだけれども。
「………………」
「スミレ、具合が悪い?」
私の食べるペースが遅くなってきた理由が満腹だからじゃないと気が付いたフィカルが、さっと表情を変えて心配そうに顔を覗き込んできた。私の額に浮かんだ汗を手で拭い、より深刻な顔になる。
「ううん……大丈夫」
「大丈夫ではない。横になるべき」
「ちょっと待って……横になるのはちょっと」
さっとお箸と器を私から取り上げたフィカルが横になるための場所を作ってくれるけれど、私はそれを固辞した。
具合が悪くなったのではない。そして、横になるのは逆効果だ。牛にもなっちゃうし。
「食材に悪いものが混ざっていたかもしれない」
「そんなことないよフィカル! お鍋は美味しいの。最高だったの」
そう、何も悪いところなどなかった。鍋は味も食材の状態も完璧だったし、温泉だって最高だ。赤ちゃん竜たちももれなく最高にかわいいし、なんだったら成竜のみなさんもかわいい。
「あのね……」
ただ、そう。言うなれば、組み合わせが悪かったのである。
「あったかいとこでの鍋って……ものすごく暑くなるんだね」
額の汗は具合が悪いからじゃなく、ただ単に、体温が上昇しているから浮かんでいるだけである。
しかし私の言葉を聞いた瞬間、フィカルは炭火を一瞬で砂に埋め鍋に蓋をした。