冬にはあったかい鍋が1
「いのち……!!」
荷物から取り出した瓶が無事なことを確かめて、私はついそれを両手で掲げてしまった。アルがフガフガフガと嗅いでいる。
「ピギャッ!」
「これはアルのオヤツじゃないよ。おやつはそこにあるからね」
割られないように丁寧に瓶を抱え込むと、アルはちょっと不満そうながらもジャマキノコをバクバク食べていた。それをスーが頭突きしてジャマキノコを独占しようとしている。
「ピギャオーッ」
「うんうん、アル、ジャマキノコこっちにも生えてるし、なくなってもそのうち生えてくるから。ここ湿度高いし普段よりいっぱい生えそうだし」
周囲を見渡すと、私たちのすぐそばにもわーっと湯気が立ち上がっている。
ついさっきまで冬の冷たい風に吹かれていたせいで湯気が少し冷たく感じるけれど、体が温まると心地いい温度に感じるはずだ。
なんといっても、ここは巨大地下温泉。竜たちの楽園である。
今年も冬支度を頑張り、私とフィカルはガーティスさんたちに相談してアルの里帰りについて行くことにした。
アズマオオリュウの冬は、温泉でぬくぬくして過ごす。体と共に心も広大なアズマオオリュウさんたちにご一緒する許可をもらった私とフィカルは、今年も巨大な竜たちを眺めながらあったかく過ごすことにしたのである。
「今年は醤油もある……つまり鍋が最高……」
たぷんと揺れる瓶の中身を眺めて、思わず笑みが溢れてしまう。色んな努力の末に見つけた醤油もどきは、もはやうちの家庭にはなくてはならない存在になっていた。
長旅の荷物を減らすため、持ってきたのは300ミリリットルほどの瓶ひとつ。これを無駄に消費せず、かといって惜しみすぎてダメにしてしまわないように、いい感じに使っていく必要がある。
「野菜も多めに持ってきたし、乾麺もいっぱいあるし……」
温泉に入ってからの鍋。
もう幸せが確定されている。
「クアッ」
私がうっとりしていると、背中にぽすっと何かがくっついた。
振り返ると、小さい赤ちゃん竜が私にくっついて、つぶらなおめめでじっと見上げている。
「キュアッ」
「!!」
私は素早く安全に瓶をしまうと、そっと振り向いて赤ちゃん竜を抱っこした。
小さくて少し尖った口から覗く、ちっちゃい舌。ぽてぽてのおなか、短い手足、ぴょろっと覗く小さなしっぽ。
「か……かわ……」
「ピギャ……」
クァーウ、と鳴いた赤ちゃん竜がとっても可愛くて、私は思わず両手で掲げた。
「いのち……!!!」
私の心の叫びに気がついたアズマオオリュウの成竜たちが、喉を鳴らして同意してくれた。




