ショウミー・ショウユー31
「それでは竜の比類なき栄光と永遠へ続く繁栄を祝しましてー」
「乾杯〜」
お決まりの言葉で食事会が始まり、ノイアスさんたちがそれぞれお肉を美味しそうに頬張っている。
私もトロッとしたほぼ透明の液体をかけたお肉をフォークに刺し、お皿から持ち上げた。
「………………やっぱ一旦待って」
口に入れようとした瞬間、故・キル郎との思い出(数時間前/およそ3分間)が脳裏に蘇り、ちょっと躊躇いの気持ちが出てきてしまった。
落ち着こう。こういうのは深く考えると気持ちで食べられなくなってしまう。私はこれまでもかわいい生き物は食べてきたはず。竜のお肉だって食べたことあるし、しくしくと鳴くナゲキバトだって美味しくて好きだ。キル郎も……いや名前で呼んだらなんかダメだ。これはスライム……ミズタマリモドキ……ただの食材……
よし。
「いただきます!!」
気を取り直して、一口大のお肉をそのまま口の中に放り込む。牛系のお肉は噛み締めると柔らかく肉汁を溢れさせ、程よい脂身と下味の塩胡椒が旨味を口の中に放出している。
そしてそれを包み込むキル……スライムの風味。
「!!」
今まで食べてきた中で最も可能性を感じる。
「これ!! 似てる!! なんか混ぜたら醤油!!」
生きているときはほぼ無臭だったはずなのに、お肉にかけたときの香りがほぼ醤油になっていた。しっかりしたしょっぱさに、独特の味。
醤油じゃない。醤油じゃないけど、なんか似てる。
「これと何か足したら絶対醤油になるやつ!!」
確信めいた感覚に声を上げると、フィカルが持ち歩いている調味料をすかさず広げた。
「なんだろう……こういう系じゃなくて……魔草系も多分違うし……でもかけてみないとわかんないかも」
「おお! スミレ氏が全力で追い求めている究極の味とやらに似ているのですかな?!」
「未知の味を楽しめるかもしれないとは! 我々も全力で協力しますぞ!」
「カワイイ! アル氏カワイイ!」
「小皿をもっと持ってきましょう、似た風味のものはまとめてまず味の方向性を……」
竜愛会のメンバーは日頃研究とかしているだけあって、とてもスムーズに「スライム調味料に混ぜるための何か」の比較をする準備が整った。
ベーシックなシオキノコやコショウ、ちょっとお高い醸造酢、はては竜の脂まで、色んな味付けが並ぶ。
私はそれを小さめに切ったお肉に付けては食べ、付けては食べと比べていった。
「なんか……なんか違う……!!」
「どこが違うのですかスミレ氏!」
「魔獣系の試料ももっと欲しいところですな」
「アル氏おやつ食べるのカワイイですなあ!」
「何か他にもっと召せるようなものは……!」
全員でこれはどうこっちは意外と美味しいなどと食べながら探求を続けていると、不意にフィカルが私の肩を叩いた。
「これは試した?」
手に持っているのは柑橘系フルーツのペシカ。
私が首を横に振ると、フィカルはナイフでペシカを半分に切り、空いている小皿の上でそれを握り潰した。新鮮な果汁が溜まっていく。
「果物とは!」
「確かに宮廷料理などでそういったものを使うことがありますな」
「スミレ氏、お味はいかに」
スライム調味料を垂らしてペシカの果汁と混ぜ、そこにお肉をつける。
そして口に入れた瞬間、私の口の中は故郷に帰った。
「ゆ…………優勝ー!!!」
「優勝ですぞー!!」
「我々は辿り着いた!」
「おめでとうございますスミレ氏!! アル氏も喜びの舞いを披露してますぞ!」
晴天の下、お肉とたくさんの小皿とをみんなで囲いながら、私たちはそのまま祝宴モードに突入したのだった。




