それぞれのビューティー・バトル8
私たちの道を遮りどーんと立ち塞がったのは、言わずもがな、アズマチャカシドリだった。
「……クワ……」
「ん?」
いつもならその勢いを感じた瞬間に私もバトルモードに入り、魔石をグリグリ押し付けに行く構えに入るのだけれど、このアズマチャカシドリはなんだか様子が違った。
いつものグイグイ来る元気な動きではなく、ゆらりとフラつきながら立っている。目はぼんやりと、そして美しい焔色の羽根がところどころ毛羽立ちボサボサになっていた。
「ま、まさかあなた……こないだロランツさんにボロ負けしたアズマチャカシドリなの……?」
「……ク……」
昔、友達のバレエの発表会に行ったときに見た、瀕死の白鳥という演目を思い出した。白鳥の最期の輝きを表現した踊りだったけれど、まさに目の前にいるアズマチャカシドリはそういった、消えかかっているものの美しさのようなものを感じる。
昔、書道で「幽玄」って書いたなあ。
いつもの太陽みたいな押しの強いギラギラした美しさとはかけ離れているけれど、目の前にいるアズマチャカシドリには何か、このボロボロな姿を生き物として成立させている執念めいたものの美しさを感じた。
美しさを武器にしているチャカシドリは、常に自らのお手入れを欠かさない。これほどボロボロになるだなんて、もしかしてロランツさんに負けたのがそんなにショックだったんだろうか。
「あの……大丈夫? ロランツさんは帰ったよ」
普段の圧強めなアズマチャカシドリにはバトルで対応するけれど、今の様子はなんだか不憫に見えて私はつい声を掛けてしまった。
美しさとアピール力で暮らしている、いわばチャカシドリは鳥界のアイドルである。自分のアイデンティティを揺るがされたのだから、そりゃ落ち込むし、色々と見失いもするだろう。
めんどくさい鳥だけど、元気にしていてほしい。私がそう思いながら慰めると、アズマチャカシドリは伏せていた長いまつ毛を上げた。
「クワワ……」
橙がかった茶色の目がじっと私を見つめる。
「クワ……クワワワ——ッ!!!」
そして急に戦闘態勢になった。
「いやなんで?!」
ばっと翼を広げ、その場で跳ぶように脚を浮かせる。その目には闘志が宿り、そして私に挑戦的な視線を向けていた。私はさっと距離を取り、抜かりなく持ち歩いていた魔石を手に取る。
……ちょっと待って。
私の気のせいだと思いたいけど、ただの勘違いだって思いたいんだけども。
このアズマチャカシドリ、私を見て、「こいつなら勝てるよな」って思わなかった?
「なんか理不尽な気がするんだけど?!」
「クワー?!」
確かにロランツさんに敵うような美貌はまったく持ち合わせていないけど、私だってこのアズマチャカシドリには前に一度勝ったことがある。たぶん。
勝利は勝利、それなのに、このアズマチャカシドリは「こいつの勝利は覆せそう」みたいな風に考えたのだ。
私にだって、プライドはある。
戦い方のスタイルは違っても、私はこの戦い方でチャカシドリたちに勝ってきたのだ。美しさでは負けていても、勝負には勝っている。それを甘く見られたのなら私だって黙ってはいない。
「アズマチャカシドリ、また私に勝負を仕掛けるなら、今度も容赦しないから!」
「クワクワークワワーッ!!!」
戦いの火蓋が落とされるその寸前。
私は、ひらひらとした柔らかい葉っぱに止められた。




