降り積もる死の美しき106
「どうせ貴様らは魔術師の結界の中に入り込んだのだろう。それもトルリルタの秘匿魔術だ。違うか?」
質問しておきながらも、キルリスさんは確信を得ているようだった。
「まともに教育を受けた魔術師なら、この辺りの歴史については知っている。旧名で呼ばれていたこの地域を支配していたのはどこだったのか、なぜこんな場所に魔力の偏りが発生するのか、要所でもないこの場所に魔術師の吹き溜まりができたのはなぜなのか。それを知らなくてもあの周辺の魔力を感知すれば、いくら馬鹿でも類推することくらいできるだろう」
「いえ……それはどうかと……」
トルリルタさん、だいぶバレてますよ。
私は心の中でニコニコ顔の少年に語りかけたものの、たぶん、キルリスさんにバレたのはトルリルタさんのせいとはいえないと思う。キルリスさんの頭の回転が速過ぎるのと、あと魔力が強いとか魔術師としてすごすぎたせいだ、たぶん。
「あのキルリスさん、森の中に入ったんですか?」
「この街に入る前に少しな。この辺りで行方不明になるとしたら森以外にないだろう」
キルリスさんは竜に乗って、森のあたりをぐるっと回ってみたそうだ。私たちの気配がないので引き返して竜は家に帰らせて、街に顔を出したらしい。
「お忙しい中お手数お掛けしてすみません」
「気にするな。貴様らに何かあるほどの事態ならばお忙しいどころの問題じゃなくなるからな。とはいえ、ユービアスの森はさほど厄介ではない。魔王に会いにいくほどの2人が竜やら魔獣で手こずるほどではないのだから、答えは自然に限られた」
確かに、フィカルは竜が群れで襲ってきても対処できてしまうほど強いので、私たちがピンチになるシチュエーションは限られている。
「ナーズに監禁されているなら、それはそれで土足で踏み込む口実になって好都合だったが」
「ここの皆さんはすごく親切でしたよ。ここにきてまず一番に、あのルタルカの件についてわざわざ謝ってくれましたし」
「当然だろう。あれは通常なら、魔術師数人の首を差し出せと要求しても通るくらいのことだからな」
首を差し出すのは全然通常のことじゃないと思う。
「まあ、監禁の可能性についてはさほど考慮していない。ユービアスについての評価はなかなかだったからな。ここはナーズの里からの追放者が出ているほどの街だ」
「追放されてるのに評価がなかなかなんですか?」
「腐りきった枯れ枝に気に入られているよりは随分とまともだろうが」
「た、確かに……?」
「うちの手の者にも探らせたが、ユービアス周辺は領主の評判もいい。魔術師をこれだけ抱えて問題を起こしていないのなら話が通じるだろうとは思った」
「あんなにトゲトゲしてたのに」
「話が通じるからといって魔術師と無意味に交流するのは愚行と言ってもいいのではないか?」
遠回りにちくっとやられた。
とはいえ、キルリスさんのユービアスに対する印象はそれほど悪くないようだ。森も脅威はなくて、街も安全。そういった証拠もあって、キルリスさんは私たちが珍しい状況に陥っているのだと判断したらしい。キルリスさん、探偵になれそう。
大事なことがあっさりバレてしまったけれど、トルリルタさんたちの希望やユービアスの皆さんのお願いに背くことなく、キルリスさんからも尋問されなかったのは助かった。
ふうと息を吐くと、フィカルが頭を撫でてくる。ホッとして力が抜けそうになったけれど、聞いておきたいことがあった。
「あの、キルリスさん。それでその、トルリルタさんたちについては、どうするつもりなんですか?」




