降り積もる死の美しき91
「無断で魔術を遮断するんじゃないこの大馬鹿者!!!」
半透明なキルリスさんは、とても元気そうだった。
「お、お久しぶりですキルリスさん……お元気そうで」
「その平和ボケしたマルユレクサみたいな様子を見るに貴様も息災のようだな。人を走り回らせておいて何よりのことだ」
マルユレクサは春の晴れた日に「アハハハハーアハハハハー」と笑い声を上げながら花をクルクル回していることで有名な魔草である。あれよりも平和ボケしているという表現から察するに、キルリスさんはおこなようだ。
「えーと、魔術を切るというのは……」
「貴様が危機管理方面に使わんその頭にこの私がつけた魔術のことを忘れたか?」
「アッ、あれ遮断されちゃってたんですね」
「ちゃってた、なんて気軽な言葉で片付けるなら貴様には不味いと評判の魔術師用食材を送り付けるぞ」
「すみませんでした!!」
ナキナさんに聞いた話によると、大体のマズイモノを食べ慣れている魔術師の人たちですら避けたがる、魔術師用高級食材がいくつか存在しているらしい。やばそうな虹色のテカりを伴う泥入り栄養ドリンクでも平気で飲む魔術師がダメな食材なんて、もはやこの世に存在させてはいけないと思う。一生縁がない人生を送りたいので、私は素直に謝っておいた。
「知っての通り私の魔力は多くてな。地上にいるならば魔術の状態は把握できる。その魔術がいきなり途絶えたというのはどういう意味かわかるか?」
「え、えっと……私がその、危ない目に遭っていると思ったんですね」
「死んだと思ったが」
「そこまで?! 誤解させてしまってすみません!」
おそらくトルリルタさんの魔術の中に入ったせいで、私にかけてもらっていたキルリスさん製守護の魔術が遮断されてしまったらしい。魔術が破られたり、かけた相手つまり私が死んだときに切れるようになっているので、キルリスさんは慌てて方々へ連絡を取ってくれたそうだ。本当に申し訳ない。
「あの、遮断するつもりは本当になくて、たまたまというか……ご迷惑おかけしてすみません」
「ご迷惑どころの話ではないぞ。貴様が死んだのであればこっちの勇者も死ぬほど凶悪な存在が出現したか、もしくは取り残された勇者が正気を失って凶悪な存在になり下がるかの2択だろうが」
「そ、そんなことにはならないですよ……ねえフィカル?」
確かに、私がピンチに陥るのであれば、フィカルやスーが一緒にいないか、それともやられてしまったかの状況になるだろうけれども。
フィカルが負ける可能性なんてほぼゼロというかなんというか。
私がフィカルを見ると、フィカルはこくりと頷いて口を開いた。
「スミレが死んだ後も生きることはあり得ない」
「いやそういう話じゃなくてねフィカルさん」
そんなに堂々と宣言しないでほしい。
いや、魂がどうのこうのの関係で、フィカルは私が死んだら自動的に寿命を迎えることになっているから間違いじゃないけれども。
「兎も角、すぐにユービアスへ帰還しろ。怪我や病気はないのだろうな」
「大丈夫です。元気です。あのキルリスさん、ユービアスにいるんですか? 私たちは元気なので、お忙しいなら私たちがあとで王都にお伺いしますけど」
半透明のキルリスさんは腕を組み、ハッと鼻で笑った。
「安心しろ。師会の無能共を踏みつけるだけの仕事はナキナに、その他の無意味な書類は他の奴に押し付けてきた。少なくとも今晩は貴様らのはなしをじっくりと聞くための時間として確保されている」
「こ、光栄ですー……」
「帰還を遅らせればそれだけナキナの仕事が増えて喜ぶだろう。それでも良いなら、好きな時間に戻るといい」
「すぐ帰りますね」
フハハハハと高笑いしながら、キルリスさんは消えていった。
ナキナさん並びに部下の方々には、あとでお詫びとしてジャマキノコセットをたくさん送ろう。




