降り積もる死の美しき80
フィカルは肉を切るのがものすごく上手だ。
仕事や食卓用のお肉調達などでお肉を捌く機会が多いからかもしれない。特に薄切り肉はプロ並みだ。この世界で薄切り肉というと厚さ1センチくらいのものが主流なので、それより薄い生姜焼きやすき焼き用のお肉は私がフィカルにお願いしていたのでさらに腕が上がったらしい。均一に薄く切られたお肉は脂身が多くてもあっさり食べられて美味しい。
「できましたー」
「クワクワー」
私が声を掛けると、座って読書していたトルリルタさんが本を閉じて立ち上がった。
今日のメニューは豪華だ。温野菜のサラダにミニミニ水餃子。三角形に折った葉っぱに入っているのは、ちまき風べべの炊き込みご飯だ。乾燥ジャマキノコと煮干しで出汁をとったお鍋は、彩り野菜とイノシシ肉のしゃぶしゃぶのためだ。タレはさっぱりポン酢っぽいものと、ちょっと辛いこっくり肉味噌。シメは肉団子スープにするつもりである。
フガフガと鼻を鳴らすアルを撫でながら、半透明のトルリルタさんはにこにこしていた。
「すごいね。あっという間にできちゃった」
「量もちょっとずつだし、どれも作り慣れてるものなので……トルリルタさん、食べたいものありますか?」
「僕?」
トルリルタさんは首を傾げた。星石になり、すでに肉体がないトルリルタさんがものを食べないことはすでに聞いていたので不思議に思ったのだろう。
私はお皿を持ちながら言葉を選んだ。
「あの、星石にお供えものをする街って多いですよね。私たちが住んでるトルテアも、採ってきた果物とか作った料理を星石のために分けておくんです。街を護る星石が喜ぶようにって教わったので……えーと、トルリルタさんが喜んでくれたらいいなーって思うんですけど」
トルテアのギルド事務所には、大昔の勇者が携えていたとされる星石の欠片が祀られている。棚の上に置かれていてお供えがあるのでちょっとした神棚っぽい雰囲気だけれど、トルテアの人たちは神棚よりもフランクな感じで日々の収穫をお供えしていた。
あれはもしかしたら、元は星石に変わった『善きもの』への感謝の印だったのかもしれない。楽しいことのお裾分けとして置かれたものかもしれない。無事に森から帰ったり、収穫が終わったときのお供えは、きっと星石も楽しんでくれてるんじゃないだろうか。
ご馳走を食べるのは楽しいので、その楽しさをトルリルタさんにも……と思ったけど、よく考えたら食べられないのにご飯を出されるのもどうなんだろうか。もし私が星石だったら、食べたくて泣くかもしれない。
無理強いするのもよくないし、と言葉を濁していると、トルリルタさんはにっこり笑った。
「じゃあ全部! ひとつずつほしい!」
「わかりました。しゃぶしゃぶは野菜を巻いて作りますね」
「うん」
お皿に少しずつ取り分けて、トルリルタさんの前に置く。トルリルタさんはわーいと声を上げてお皿を眺めていた。そのお皿をじーっと眺めていたアルはよだれを垂らしながらも我慢したけれど、ニシホシさんがサッと水餃子を横取りしてしまい、もう一皿用意することになった。ニシホシさんはフィカルにクチバシを握られていた。




