降り積もる死の美しき71
「戻ってトフカの様子を見てもらいたい」
おでこと鼻に傷がついている方のトルリルタさんが来たことによって、私たちの会話は中断された。こっちのトルリルタさんにも半透明なトルリルタさんは見えているようで、どぎつい色の傷薬を塗っている顔を指差して笑う姿に憮然としていた。
立ち上がろうとするとポケットに頭を突っ込んでいたニシホシチャカシドリが起き上がった。寝ていたのか、くわっとあくびをした後に私を背中にのっけたままで立ち上がる。
「うわ、」
慌てて首にしがみつくと、ニシホシさんは私を乗せたままでトルリルタさんたちの後ろをついて歩き始めた。
温かくて柔らかいし、意外と安定感があってがいいけども。
いつ前を歩くふたりに飛びかかるか不安でちょっと心配な乗り心地だった。フィカルがすぐ隣についてくれているので尻餅をつく心配はないだろうけれど、それはそれでニシホシさんのビューティー闘争心がフィカルを見て点火しないか不安になった。
僕はそろそろ壊れる、とトルリルタさんは言った。
半透明で少年のトルリルタさんは、星石になっているのですでに肉体は死んでいるらしい。つまり、壊れるというのは星石のことを指しているのだろう。
どんな硬いもので破壊しようとしても壊れない星石が壊された例を、私はひとつだけ知っている。
ルタルカの魔術によって壊れたけれど、あの魔術も普通では使えないようなものだ。ルタルカの高い技術と、そして異世界人の悪夢を使うことで魔術は完成した。
けれど、魔術を使わなくても星石を壊すことができる。
住民がいなくなれば、その街の星石は壊れるのだ。
この街に住むのがトフカの飼い主であるトルリルタさんひとりならば、ここはすでに街としてはほとんど成立していないも同然だということになる。
ひとりだけが住んでいる場所を街とは呼ばないはずだ。
今までの歴史の中で、厳しい環境や竜の襲撃から逃れるために街を捨てて南下した人たちがいたらしい。そうして捨てられた街は星石が砕け、戻っても住めない場所に変わってしまったと記録が残っている。
星石がある街として、ここも例外じゃないはずだ。星石となったトルリルタさんが滅び、そして、この街で暮らしているトルリルタさんも故郷を失ってしまうことになる。
生まれ育った場所に帰れないだけでもつらいのに、なくなってしまうだなんて。
「……私達になにか、できることはないのかな」
フィカルを見ると、フィカルはそっと私の手を握った。すぐ近くを歩くスーもじっと私を見ている。
「クワワ……」
私を背中に乗せて歩いているニシホシさんが、振り向いて優しく鳴いた。ツクツクしてきたので長い首を抱きしめると、ニシホシさんはまだ探っていなかった私のポケットにクチバシを突っ込み、 フィカルにベシッと叩かれた。




