降り積もる死の美しき67
「僕はもともと楽しいことが好きなんだ。流浪の民だしね。みんなで旅をしながらいろんな生き物や魔草や星空を見たり、たまには竜と戦ったり、荒野で焚き火をしながら踊ったりする時間がなにより一番だと思う」
トルリルタさんの懐かしむような目は、本当に楽しかったんだろうなあと思うくらいに素敵な微笑みだった。
この世界に来てから、私も旅が大好きになった。飛行機や車で出かける家族旅行も楽しかったけれど、ここではもっと身近に自然があって、旅をしているとその自然の中に自分も入っているのがよくわかる。オリオン座や夏の大三角形がなくても、降り注ぐような星空は見とれるほど美しいし、竜たちと一緒に焚き火をするのも楽しい。
「わかります」
「だよね。でも、戦ってるとそういうことができないんだよ。由々しき事態でしょう?」
「そう……ですね」
戦うこと自体が由々しき事態な気もするけれど、トルリルタさんの言うことも間違ってない。たぶん。
「だから僕は戦いをやめることにしたんだ」
「やめるっていうのは、どういった形で」
「こういった形だよ」
こういった、と言うトルリルタさんは、ふんわりと飛びながら両手をいっぱいに広げ、そしてアルのお腹に座った。
「戦いは疲れるし、無意味に死んでいくのはつまらない。だから僕は一族を集めて告げた。戦いをやめて暮らそうと思う。死にたくない人たちは一緒に来てって」
「トルリルタさんは、一族の長だったんですね」
「そりゃあトルリルタの名を継いでいるからね」
逼迫した状況で、あっけらかんと告げるトルリルタさんの姿は容易に想像できた。たぶん、その場にいた人は唖然としただろうけれど、戦いの流れを断ち切ろうとする提案をできるこの人はとても勇気がある人なんだろうと思う。
「で、集まった人たちを連れて、ここを作ったんだよ。誰にも邪魔されず、誰をも邪魔せず、僕たちだけで暮らせる場所を」
「……この空間、トルリルタさんが作ったんですか!!」
「そうだよ〜。褒めて褒めて〜」
「すごいです。すごく」
わーいと喜んでいるトルリルタさんは、どう見ても私より年下の少年だ。死後に見た目を変える技を習得してなければ、まだ10代で戦いに巻き込まれ、そして決断をし、一族が丸々暮らせるような空間を作り出したことになる。
もしかしたらこの人、キルリスさんをも超えるものすごい魔術師なのかもしれない。
「トルリルタさん、本当にすごいことをしたんですね」
「まあ僕がすごいのはそうだけど、そもそも一族のほとんどが平和を願っていたからね。僕らはただ楽しく生きていたいだけなんだ。僕はその願いを受け取ったし、叶える力があっただけ」
「願いを受け取って叶える……」
キルリスさんだって前代未聞の魔術師といわれているのに、それよりもすごいことを成し遂げている。
何よりトルリルタさんはこの広い建物群を魔術で隠して、そして大勢を生活させていた。
人が生活するには水が不可欠で、そしてこの土地で安全な水を得るには、欠かせないものがある。その欠かせないものを作り出す存在を私は知っていた。
「トルリルタさん、トルリルタさんって……『善きもの』なんですか?」




