降り積もる死の美しき49
「リッタさん、診察させてください。よろしくお願いします」
そのスイリュウは、リッタという名前だとトルリルタさんは教えてくれた。
詳しい品種名は不明。トルリルタさんにとっては、ただスイリュウと言えばこの竜だったようだ。私の図鑑にも載っていないので、あまり街には近寄らない竜なのかもしれない。オオリュウはその強さから人間を襲わなくても捕食ができるため、人里離れた場所に棲む傾向がある。研究者に正式に発見されていない可能性は大いにある。
大浴場に頭を突っ込んでいるリッタさんは、トルリルタさんに鼻先を撫でられて大人しく伏せていた。私が触れるとグォーウと低い低い声で不満を言うけれど、牙を剥いたり暴れるような様子はない。
リッタさんは、オオリュウでも最大級のアズマオオリュウよりは小柄だけれど、それでもスーのような一般的な竜の何倍も大きい。竜は大きければ大きいほど診察が危険になるけれど、オオリュウでこのサイズまでいくともはや暴れなくなるのだ。たぶん、オオリュウにとって私はアリみたいなもんで、いちいち威嚇したり離れさせたりするほどのものでもないのだろう。その代わり、怒らせたら一瞬でぷちっといかれるだろうけれども。
鼻の中を観察してから、トルリルタさんにお願いして開けてもらった口を覗き込む。ランプを持ちつつ牙の間を照らして移動していくと、巨大な目が私の動きを静かに追っていた。その巨大な目に近付いて、じっくり観察する。ランプを近付けると瞳孔が動くし、瞬膜も綺麗だ。唸り声も掠れたところがなく響いている。
「ピギャギュ」
「アル、リッタさんに甘えといて。リッタさんの気持ちをなごませてあげてくれる?」
「ピギュ」
私の背中にピッタリ鼻筋をつけたアルを誘導すると、アルは伏せたリッタさんをフガフガ嗅いでから、大きな鼻筋にのしっと抱き付いた。自分の親御さんたちに甘え慣れているので、大きな体のリッタさんに対しても遠慮なくグルグルと擦り寄っている。
ウロコの色や顔付きは違うけれど、このスイリュウもアズマオオリュウと同じで、仔竜にとっても優しい種のようだ。竜はすべからく仔竜を大事にするけれど、鼻筋を甘噛みされたりゴロンゴロンとぶつかられたりしてもおっとり目を細めているあたり、リッタさんからはアズマオオリュウさんの慈愛の心に通じたものを感じる。
「グルッ」
「スー、大丈夫だよー。見てこの手、でっかいねえ。爪が深い青で綺麗だねえ」
急な攻撃から守るためにスーが私の真後ろにいて、フィカルもリッタさんを刺激しない距離で剣を構えている。そんな状況でも、リッタさんはアルにグルグルと喉を鳴らしていた。
器がでかい。でも一応、私はリッタさんの背中に登ろうとするニシホシチャカシドリは止めておいた。いつか食べられるよニシホシさん。




