降り積もる死の美しき34
月がある世界とは。
1 異世界に来てしまっている。(数年ぶり2度目の異世界ワープ)
2 地球に戻ってしまっている。(ただし地球には私の知らないファンタジーな秘密があった)
3 パラレルワールドな地球に来ている。(SFっぽい)
「うーん……」
どれもなんか大変なことになっている気がする。
あの長方形の空き地から、せいぜい数キロくらいの転移をしただけだと思っていたのに。もしかしたら、世界とか飛び越えちゃってる可能性が出てきているとは。
っていうか異世界に行くってそんな簡単に起こっちゃっていいことなの?
っていうかこんな事態になったと知ったら世界の治安守流る系キレ魔術師のキルリスさんがめちゃくちゃ怒るのでは? あの空き地に異世界行けるタイプの穴的なのができちゃってたら、流石に私やフィカルもお説教だけじゃすまないのでは……
ナキナさんたちが、キルリスさんが本気で怒るとそれはそれは恐ろしいことになると言っていた。キルリスさんに心酔しているナキナさんでさえそう言ってブルッていたくらいである。私はちょっと背筋が寒くなった。
「ていうかアル置いて異世界来た?! どうしよう!!」
知らない森に置いてけぼりにして世界を跨いでしまったなんてアルが泣いてしまうし、アルのおかあさんは激怒してしまう。キルリスさんのお怒りを無事生き残れたとしても、アズマオオリュウの怒りは受け止められそうにない。なによりアルが誰もいないところでピエピエ鳴いているところを想像しただけで胸がつらい。
「あの……すいません、私たちいきなりここに落ちてきてしまいまして、帰りたいんですけど」
落ち込んでいる白ローブの人に、私はなるべく低姿勢でお願いした。
「ユービアスの森にあった長方形の空き地……石板があったところにいたんですけど、あの、もしよろしければ私たちを元の場所に戻していただけたり……しないでしょうか?」
「ユービアス……ウルビアの石板のことか? ここへ入るために石板の魔術を作動させたのか」
「多分そうです!! あの、そこに私の家族……竜なんですけど、置いてけぼりにしてて、すぐに合流したいんです」
「戻るのは難しい」
「えっ」
白ローブの人が淡々と放った言葉に、フィカルが締め上げている腕をさらにキツくしたようだ。ローブの人は眉を顰めた。
「魔術を使って戻せ。でなければ許さない」
「ちょちょちょっとフィカル! 穏便に! あと可哀想だから放してあげて! その人攻撃するつもりないみたいだし!」
「魔術師は信用できない」
「……私もいきなりやってきた侵入者を信用していない」
「初対面だからね! とりあえず穏便にいこう! 怪我人には優しく! お願いするときは丁寧に!」
警戒モードなフィカルを説得して、とりあえず後ろ手に捻りあげるのはやめてもらった。相変わらず手を拘束してはいるけれど、掴んでいるレベル。フィカルは力が強いので、それだけでも十分な拘束力だと思う。
拘束が緩んだので、白いローブの人は立ち上がった。顔の傷は痛々しいし軟膏のド派手なネオンパープルが異様だけれど、表情は落ち着いている。
「外から来たのなら、月の光を持っていると思ったのに」
「す、すみません……あの、どういう薬か教えていただけたら、街に戻って探してみます」
「月の光を集めてくるだけでいい。集光瓶を渡すから、取ってきて戻ってきてくれるなら帰る方法を探す」
「それは……だいぶ難しいかと……!!」
かぐや姫もびっくりな難題である。
私が正直に答えると、ニシホシさんがまたツクツクしてきた。元はと言えばと恨みがましく見上げると、一歩近寄ってふかふかな羽根をあててきた。アニマルセラピーはうちの子たちでで間に合ってます。




