降り積もる死の美しき27
「ここ、ずっと石板? でっかいね」
「2枚ある」
フィカルが教えてくれた通り、ものすごく大きな石板が2枚、雑草の下に隠れていた。長方形の空き地を2分割するように、おそらく同じサイズの石板がある。よほど昔のものなのか、石板の上を土が覆い、さらに植物が生えているのでわかりにくいけれど、石板の上は踏み締めると他よりも硬かった。石板のふちが段差になっているのでそこから草を剥がすように一部取り払ってみると、白っぽい石板には何か文字のようなものが彫られている。
「すごい、ほんとに人工物だ! なんて書いてあるんだろう。これだけ大きいってことは、歴史書とか、法律を書いたものだったのかもしれないよね。もしかしてすごい発見なんじゃない?」
「クワッ」
「ニシホシさんありがとう! いいもの見せてくれてすごく嬉しいよー」
私が誉めると、ニシホシチャカシドリはドヤ顔度がアップした。撫でようと思った手は避けられた。土がついていたのが許せなかったようだ。
「これ、草と土全部はがせるかな? 一旦帰ってまた来たほうがいいかな。スコップとか道具あった方がいいよね。書き写すのも時間かかるだろうし……あ、アルはちょっと離れてて! これモロモロに崩したらダメだよ」
「ピギャ」
楽しそうだといそいそ戻ってきたアルを、一応遠ざけておく。チリュウは石板を砂に変えてしまう力があるので、万が一がないように距離を取ってもらうことにした。もしかしたら、昔の街の様子がわかる重要な文化財かもしれないのだ。
ピギュピギュと不満を言うアルにはジャマキノコを投げておいて、私はフィカルと手を繋いだまま石板の片方のぐるりを回ってよく観察した。ニシホシチャカシドリは石板の間に立って日光浴をしている。
「フィカル、この文字、全然見たことない文字だね。かすれてて見えないところもあるからわかりにくいけど、ノイアスさんたちに聞いたらわかるかな?」
「ギャオッ!!」
私たちがしゃがみながら石板の文字を見ていると、急にスーが声を上げた。フィカルが私を抱えるように立ち上がる。
スーはグルグルと喉を唸らせながら背を低く保ち、忙しなく回る。
「なに? 魔獣? 竜?」
「違う、様子がおかしい」
「調子悪いのかな。毒草踏んだとか?」
慌てて近寄るとスーは回るのをやめたけれど、周囲を警戒するのはやめなかった。瞳孔を細めて短く呼吸をしながら、何かを訴えるように短く鳴いている。
「スーどうしたの? 具合悪い? 痛いとこない?」
ぱっと見たところ、毒にあたったような症状は見当たらなかった。視線もブレないし、泡も吹いていない。口内にも体にも出血は見当たらなかった。けれど、スーの頭は私の診察が終わるとすぐに離れていって周囲を見渡していたし、手足を見ているときもすっと逃げて低い姿勢を保つ。押しても嫌がるわけじゃないから、手足が痛むわけでもないらしい。
「これって……警戒してる? でも、魔獣はいないのに」
スーがこれほど警戒心をあらわにすることは珍しい。自分の実力をよくわかっているスーは、相手の力量を見極めるのも上手だ。野生の竜と出会ったわけではないのにこんなに警戒することが珍しいし、それにいつもよりも落ち着きがない気がする。
何があったんだろう、と見上げていると、フィカルが口を開いた。
「スー、北を指せ」
「……グルゥオオオウッ!!」
北?
私は一瞬不思議に思った。
竜の訓練のひとつに、方向を示させるものがある。竜は飛ぶいきものだからか、磁場のようなものを感じ取れるし飛べば太陽や星の動きも見れる。だから「北を指せ」というコマンドさえ教えれば、竜はいつでも北を指すのだけれど。
命令を聞いたスーは、嫌がるように体を捩らせてから、ある方向を指した。
「歩いてきたのがこっちだから、あっちが北であってる……よね?」
「あっているが、あっていない」
「え? どういうこと?」
「スーが方角を感じ取れていない」
「ほんとに?」
私が聞き返すと、フィカルが頷いて言った。
「方角がわからない」




