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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
2巻発売記念でまだまだ続くこんな番外編じゃ編
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降り積もる死の美しき19

 2日目も晴れだった。

 休憩中、私はジャマキノコに座り、大まかに描いた地図を膝で広げて通った場所に道をつけていく。


「竜、あんまり会わないね。スーが威嚇したからかな」


 2日目の午前中、さらに遠い場所を目指して飛んでいた私たちに3匹セットの竜が現れた。ヒリュウの群れらしきそのグループが近付いてきたのでフィカルがアルに飛び移ろうとした瞬間、スーが炎をゴワッと大きく吐き出しながら咆哮した。森の隅々にまで届いたのではないかというその威嚇の声に、ヒリュウたちは離れた場所でしばらく翼を動かし、そして去っていったのである。


 あまりよく見えなかったけれど、飛んでいたのは多分スーと同じベニヒリュウ。スーはもっと危険な北西地域で暮らしていたらしいので、同じ種でも強さに差があるのだろう。それを悟り、群れだからと無謀に襲ってこないあたり賢いヒリュウたちでよかった。たぶん、スーは自分が戦いに行けないからその怒りもあって吼えたんだろうけれど、とにかく無駄な戦いが避けられてよかった。ひと吼えで野生の竜を追っ払うスーにアルが目をキラキラウルウルにさせて尊敬の念を送っているし、まあとにかくよかった。


「ここ、植物も危ないものは少ないし木もまばらだから、次の宿泊地にする? 今夜も森に泊まって大丈夫かな」

「雨は降りそうにない」

「お肉も野菜もあるし、お水もあるし……街に帰るのは明日にしよう」


 想定したよりも危険な竜や魔獣と遭遇していないこともあって、フィカルも頷いてくれた。私をスーの背中に乗せると、フィカルはアルと歩いて周辺の安全確認を始める。


「スー、ジャマキノコひとつ取ってくれる? それ。うん」

「ギャウ」


 赤い首筋を叩いてお願いすると、スーはキノコを咥えてぐりっと後ろを向いた。受け取るとグルグルと喉を鳴らして、他に生えているジャマキノコをいくつか食べる。私はジャマキノコを割いて今夜のスープの準備を始めておくことにした。


 旅は今のところ順調だ。竜に襲われることもなかったし、地図でおおまかな位置も把握している。体調にも問題ない。

 けれど、竜の楽園ヨヨノヨらしき場所や、それに繋がるような手がかりは全く見つからなかった。今日は大体、ユービアスの人たちが踏み込まないエリアを飛んでいたと思うし、何度か地上に降りて探してもみたけれど、白い土もないし、ノイアスさんが言っていた遺跡らしきものも見当たらない。


 旅自体は楽しいけれど、目的のものが見つからないかもしれないのはちょっと残念。ダメもとではあったけれど、何か見つかってくれたらもっといい思い出になるのになあ。

 人があまり踏み入れない土地には、図鑑に載ってないような竜がいることもある。もしそういう竜のウロコでも拾えたらさらに嬉しいなあと思っていたけれど。今回はあまり期待しない方がいいかもしれない。


「グル」

「ん?」


 スーが見ている方向に目をやると、またガサガサが聞こえてきていた。スーが牙も見せていないあたり、それほど害がない野獣らしい。もしかしてヤツだろうか、とじっと見つめるも、やっぱりガサガサ音の主は近付いてはこなかった。

 せめてニシホシチャカシドリにでも遭遇したら、旅の思い出に……いや、別にそんな思い出はいらない。

 私は思い直して、ジャマキノコの余った部分をスーにあげた。


「フィカルー、大丈夫そう? テント建てる?」


 声を掛けると、フィカルが戻りながら頷く。スーに伏せてもらって小鍋を抱えながら鞍から降りると、フィカルが手伝ってくれた。

 今回は知らない森を楽しんで、何か拾ったら儲けもの、くらいに思っておこう。みんな怪我せずに帰ることが一番大事だし。トラブルがないに越したことはないし。


「明日帰るんだし、お肉全部使っちゃおうか。何にする?」

「肉巻きがいい」

「いいね!」


 無難に帰ろう、という私の決心が早々に砕かれるのは、それからしばらくのちのことである。






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