キャンプ大会5
「みんな、食材は何を調達しようか考えてる?」
「イノシシ! でかいの!」
「わたしは小鹿がいいな〜」
「ミズウサギ……」
森でゲットできる食材の中でも、お肉は難易度が高い。けれど、3人は自信ありげだった。
「なるほどなるほど。うーん、マルスとリリアナの獲物はひとり野宿にはちょっと向いてないかもしれない」
「スミレ、安心しろって! オレたちイノシシくらいならひとりでも仕留められるからさ!」
「お肉も上手に捌けるの〜」
「腕前は心配してないんだけど、獲ったお肉の処理はどうするか考えた? 1日分のお肉なら、お腹いっぱい食べてもイノシシの足一本食べきれないよ」
「さばいて持って帰る!」
「今くらいの気温だと、そのまま置いとくのはちょっと危険だよね。干し肉や塩漬けにするための塩や香草は持ってきた?」
私が訊ねると、マルスが頭を抱えた。
「……持ってきてねえ!」
「私は塩持ってきたよ〜燻製にしようと思ってるの〜」
「燻製もいいよね。でも1泊で、ひとりでやろうと思ったらかなり時間かかるよ。お肉を切って塩塗って乾かして、その間に燻製用の枝を集めて、野外でやるなら火が立たないように様子を見ないといけないし、ご飯の準備と寝る準備と水汲みもあるよ」
「たいへんかも〜」
「大きい野獣のお肉は美味しいけど、ひとりで捌くとやっぱり時間がかかっちゃうからね。野宿は道具も時間も限られるから、やることの作業時間は多めに見積もってちょうどいいくらいに考えるといいかも」
いつもの狩りでは獲物をひとりで捌くとしても、例えば獲物を運んだり吊るしたりするのは協力して行うことが多い。3人でやっている作業をまるまるひとりでやろうとすると、時間も体力も3倍以上必要だ。狩りをして帰るだけならまだしも、火おこしやら水汲みやらと並行してやると時間はもっとかかる。さらに雨が降ってくると火がつきにくいし、水も濁っているともっと時間が必要になる。
「くっそー! イノシシの寝床見つけてたのにー!」
「わたしお魚にしようかな〜」
「……スミレちゃんは何を狙ってるの?」
「私? 私はね……」
周囲を見回して、手近なものを摘む。
「これ!」
「はぁ?! キノコかよ?!」
「そう。もちろん草や木の実も取るよー」
「お肉は取らないの〜?」
「お肉食べたほうが体力つくよ……」
3人の目ががっかりしたものに変わった。フィカルもみんなの意見にこくりと頷いている。その背後では、おにく、という単語に反応してアルがフガフガと落ちつきをなくしていた。
「お肉はもちろん大事だよ。でもね、ひとり野宿するときに大事なのは、まず水! 水さえあれば1日くらい食べなくてもなんとかなる! ぶっちゃけ3日くらいはギリギリ死なないから!」
「そんなん腹減るだろー!」
「食べないとダメだよ〜」
「……試験落ちちゃうよ」
「まあ試験はそうなんだけどね。実際に野宿するなら絶対オススメなのがまず水確保。次に果物とか木の実。歩きながらすぐ食べられるし、火を通さなくていいから。他にも火を通したら食べられる草や実も集めて歩けたら最高。お肉は余裕があって、安全な地域で道具を揃えられたら考える」
「えぇー! そんなのつまんねー!」
私は狩りが下手なので、ちゃんと道具が揃っていても成功率は低い。しっかりした栄養やエネルギーのために分の悪い賭けに出るよりは、ローリスクローリターンでちまちまカロリーを探したほうが確実だ。途中で魔獣に遭遇したとき、獲物だと狙うよりも逃げないといけない実力ならなおさら。
実体験を元にして導き出した結論なんだけれど、3人には納得がいかないらしい。
「狩りできるんだから狩りしたほうがいいだろー?」
「もちろん、できるならした方がいいよ。しっかり食べると元気出るし、もし遭難したときなんかはむしろ一度にたくさん食料確保して余裕を持たせたほうがいいから、大きい獲物を狙うのも大事になるしね。試験は一定の基準があるけど、そもそも野宿のやり方に正解はないから、自分が一番いいと思う方法を探せばそれでオッケーなの」
「じゃあわたしは野宿で燻製もできるようになりたいな〜」
「やってみてもいいよ。今日は練習だから、色んな方法試してみて」
3人はまたあれこれ話し合った結果、小さめの獲物を狙うことにしたらしい。こういう失敗できる状況で試行錯誤していた方が、いざというときに行動しやすいかもしれない。
みんなには言わないけれどちゃんと3人の分の食糧は持ってきているので、仮に何も取れなくても大丈夫だし。
「スミレ」
「ん?」
ぽんと私の肩を叩いたフィカルが、じっと私を見つめる。
「水樽を持ち歩くべきだ」
「……心配ありがとう。検討するね」
スーたちが背中に載せる大きい水樽を背負わされる想像をしてしまった。歩くだけで行き倒れそうだ。




