夏の冬支度74
「スミレー! これ教えて!!」
「はーい」
午前中かお昼過ぎまでは保存食作りに精を出して、お昼ご飯を食べてから夜まで竜の診察や勉強。寝る前は復習をしたり、ネイガル地方の昔話が載った本を読んだり。
外は毎日吹雪だし雪だけでなく強い竜まで舞い込んでくるような環境だけれど、地下にある街だけで過ごしているとそこそこ平和だ。規則正しい生活は、私に高校生活を思い出させた。あの頃は勉強も受け身でやっていたけれど、今は自分で知りたいものを決めて探している。大学生ってこんな感じだろうか。日本で暮らしたまま大学生になってたら、どんな学科に行っただろう。
「そう、だからヒリュウでも東のタイプだとこっちの方法がよくて」
「西だと逆なんだ。なるほどー!」
「論文はこないだムイジャさんが見せてくれたから、訊いてみるといいよ」
「ありがと!」
おしゃべり女子会の後、私は同年代の竜医師や竜学者の子と知り合いになった。ネイガルは竜が多い分、竜医師の数も多い。論文は閲覧したりできるけれど、実務はそれぞれのエリアで分担して行なっているので、ネイガル内でも交流は少ないようだ。
竜医師でもかなりレベルの高い人たちの話も勉強になるけれど、修行中の身としては同じように頑張っている友達ができてぐんとモチベーションが上がった。調べてることを報告しあったり、一緒の空間で勉強すると気持ちがダレることなく集中できる。
トルテアでひとりで勉強するよりも、何倍も知識を吸収できている気がする。
竜愛会の人たちが定期的に学会や勉強会を開いている意味がわかった。距離があるので難しいけれど、これからは機会があれば学会だけでなく勉強会にも顔を出してみたい。
「そろそろ終わりにする?」
「だねー。私明日当番」
「もう今日はこれ以上、1文字だって詰め込めない〜」
「まだお湯あるけどお茶飲む?」
「あ、スミレ手伝うよ」
今日の勉強会メンバーは、フェドナとユジルという新米竜医師ふたりと、マーマゼナという今年竜騎士になったばかりの女の子。他に違う分野を勉強する子も何人かいたけれど、最後まで残っていたのは私たち4人だけだった。
場所は竜医師が使っていい部屋のひとつで、壁に掘られた窪みには魔術陣が彫られている。そこにポットを載せるとお湯が沸かせるようになっていて、部屋を暖めたりお茶を淹れたりするのに便利だった。
「アルちゃん熟睡してるー」
「夜中の当番についていって、そのまま朝に襲撃が来たから疲れたみたい」
「それ一番大変なやつ!」
「でも、フィカルはスーに乗り換えて狩りに行っちゃったんだよね。フィカル強いしロランツさんがいるから大丈夫だと思うけど、竜でも疲れるような1日なんだからちょっと心配」
「のろけー?! のろけですかー?!」
マーマゼナがバチバチとウロコのおなかを叩いているけれど、アルは仰向けになったままグーグー寝続けている。仰向けになってパカーンと足を開いたまま爆睡するアルは、ネイガルホウキに隅々まで掃除されたり巡回中のコリュウたちに遊具にされても起きなかったのだから相当疲れたのだろう。
竜としては心配な姿だけど、でも見ていて可愛いので私たちは爆睡アルを眺めながらお茶の時間を少し延ばすことにした。
「確かに今日は吹雪強かったからねー。仔竜は疲れちゃうくらいかも」
「冬だねー。ってことはそろそろスミレ帰っちゃうの?」
「うん。秋になったらトルテアの収穫も手伝わないとだから」
「南の方はこれから秋かー!!」
保存食作りのピークは過ぎ、備蓄庫もかなり埋まってきた。あまり長居すると今度は帰れなくなってしまうので、私とフィカルはそろそろ帰る予定を立てていた。




