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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
2巻発売記念でまだまだ続くこんな番外編じゃ編
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夏の冬支度25

 ……カフッ、という小さい音で目が覚めた。

 周囲は真っ暗。ぼんやりしながら状況を整理する。ネイガルにお邪魔していて、ネイガルは地下で、灯りがないと昼も真っ暗で。

 今の音はたぶん、スーが夜明け前に狩りをしに出かける……気配を感じて目を開けたアルがあくびした音だ。大きく口を開けてファーと息を吸い、吐いてから最後にカフッと音を出す様子は暗闇でも目に浮かぶほどよく見ている。あくびを終えて顎を床にのせ、フンーと吐いた鼻息も聞こえていたので確実だ。この後アルは私たちのどちらもが寝てると自分も二度寝に励み、私たちが起きてると遊んで欲しそうにギュルギュル鳴き始める。


 ということは、そろそろ起きてもいい時間。

 そう思った私に気が付いたかのように、後ろからくっついていた湯たんぽフィカルがぎゅーっと腕に力をこめてきた。


「フィカル、おはよう」

「……」

「ピギャッ」

「アルもおはよう」


 フガフガと鼻息荒く起きたアルは、私たちが起きるのを待ちかねているようにもじもじ音を立てている。


「フィーカールー。起きようよー」

「……」

「フィカルは寝ててもいいけどランプつけていい? アルにカーテンになってもらうから」

「ピギュ」


 しばらく無言の抵抗をしていたフィカルは、やがてのそのそと起きてランプの火を点けてくれた。ありがとう、とお礼を言うと、ぎゅーっと抱きしめられる。アルはそれを嬉しそうに眺め、目をキラキラさせて両手を広げていた。


「本読みたい……けどあったかい布団から出るのはちょっと勇気いるねぇ」


 ネイガル御用達なだけあって、ここのベッドはとてもあたたかい。それほど分厚い素材でもないのに暖かいのはふわっふわの毛皮のおかげか、それともこのスルスルした素材の掛け布団のおかげだろうか。うちで愛用しているアズマオオリュウ特製マシュマロクッションの布団は暑くもなく寒くもない心地よさだけれど、ここの布団はほわーんとあったかくて眠りやすい。その分、外に足を出すとひんやり感じて、意志の強さを要求される感じだ。


「ベッドの上で読んじゃおうか」


 まだスーも帰ってきていない時間だから、もうちょっとぬくぬくしてもバチは当たらないと思う。フィカルもこくりと頷いて賛成していた。アルは手を広げたままニジニジと近寄ってきていた。


「ん?」


 スーが出かけた時に少し開けたままになったドアの向こうから、何かが聞こえる。

 グルグルと喉を鳴らすアルを宥めつつ耳を澄ますと、それは少しずつ近寄ってきているように聞こえた。


 ニェッ、ニェッ。ニェッ、ニェニェッ。


「こ……この声は……!!」


 私がベッドサイドのランプの火を壁の蝋燭に移すと、明るくなった部屋を覗き込むようにニェッと小さい声が入ってきた。

 ドアの隙間の下の方から、そっと覗き込む何かがいる。


「ふわっふわだ……!!」


 真っ白くて細かい毛がふわふわの、アンゴラウサギのおしりみたいなのがいた。ニェッニェッと小さな音を発しつつ、匂いを嗅ぐようにひくひく動いている。

 ホウキといえば、ガルガンシアホウキの灰色モップみたいなのを想像していたけれど。

 ここのホウキは真っ白のふわっふわだった。雪国最高。


「おいでー、お掃除してー」


 ホウキは、人間の住居で共存し、ゴミやホコリを食べてくれる謎のいきものである。私がベッドの端を払ったり、並んでいる靴を軽くはたいてみると、ニェッと反応したホウキはそそそそと軽い音を立てて部屋の中へと踏み出した。ふわっふわの体がドアの内側に入り……入り……入ってくる。


「……いや長っ!!!」

「ニェッ?」


 ネイガルホウキ、めっちゃ長いんですけど。

 体長50センチくらいを想像して待っていた私は、なかなか終わりが見えない胴体に思わず突っ込んでしまった。

 ふわふわの真っ白が、2メートルは続いている。そそそそと入ってきた最後の部分は、ちょっとだけ持ち上がってふりふり左右に動いていた。


「どういうことなの……」


 私が知ってるホウキと違う。

 いや、ニェッという鳴き声は同じだし、軽快な動きも同じだし、部屋の隅からホコリチェックしてるのも同じなんだけども。

 なんか長い。

 思わぬ体長にホウキの動きをじっと眺めてしまい、目がしっかり冴えた。細長いネイガルホウキは意外に身軽なようで、軽々と部屋の壁やら床やらを移動している。


「……もう起きよう。ホウキがこっち掃除したそうだし」


 長い白ふわが気になって意識しないとずっと眺めてしまう。

 私がベッドから足を出してブーツを履くと、そそそそっとネイガルホウキが近寄ってきた。


「あれ、靴も掃除してくれるのかな?」


 アルの鼻息でふわ毛を乱されてニェーッと鳴いているネイガルホウキは、そそそそと軽い感触で私のブーツの甲に乗り上げた。そしてそのまま踵の方へ、それからくるぶしへ。

 回転するように動くので、長い体が私の足に巻きつくような感じになる。


「……えっ?! こ、これは……」


 されるがままにじっとしていて気が付いた。


「フィカル! ネイガルホウキ、めちゃくちゃあったかいよ!!」


 ポカポカレッグウォーマーと化したネイガルホウキのニェッという鳴き声は、心なしか得意げに聞こえた。






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― 新着の感想 ―
[良い点] いやーもーたまらないですわ!! なんなんですか! 両手広げのおめめキラキラアルちゃんは変わらず可愛いですし、 うちにもウナギアンゴラホウキ欲しいです!!
[一言] ネイガルホウキ、我が家にも来てくれないかなぁ。
[一言] 所変わればホウキもずいぶん違うんですね! おもしろいwww 両手を広げて待つアルも、好奇心いっぱいのスミレもかわいいです。
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