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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
2巻発売記念でまだまだ続くこんな番外編じゃ編
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魔術師の里特別見学会へようこそ!12

「パルリーカスの里は、ほぼ東の果てに位置しているんです。正確に言うと少し北側ですが。山もあるので、里の東側の方が野獣の出現は多いですね」

「そうなんですか」


 スーが周囲をジロジロ見る。


「あの、お店が少ないですね」

「ここに住む人間は誰でも店の位置を知っているし、競合する店もないので、看板や客引きがないんです。一応鍛冶屋や道具屋もありますが、見てわかるような店はほとんどありませんね」


 アルが軒先をフガフガする。


「そうか、旅人とかがいないからお店だとわかる作りにしなくてもいいんですね」

「はい。食料品は10日に一度ほど、中央にある広場で市場が開かれます。外の者がまとめて購入して送ってくるので」

「へえー」


 スーが屋根に乗る。


 会話がぽつぽつと途切れてしまうのは、うちのビッグサイズコンビが家屋を破壊しないか心配だからではない。

 私とメルソスさん、の、間でフィカルが存在感を放っているからである。ちょっと会話しにくい。でも、ヌーンとした雰囲気を出しているとはいえ会話を妨害しようとはしていないので、フィカルなりの譲歩なのだろう。


「道がわかりにくいね。フィカル、覚えられる?」

「何度か整備する話も出たのですが、必ずどこかの家が立ち退きを拒否しまして。わかりにくくてすみません……あの、すみませんほんとに」


 私の方を向いてこっくりと頷いたフィカルは、メルソスさんに対してはじっと凝視をするだけだった。見られすぎたメルソスさん側がなぜか謝っている。

 フィカルは顔が良いぶん目力が強いので、ほどほどにしてあげてほしい。

 私が繋いだ手をぎゅっと握ると、フィカルは凝視をやめてこっちを向いた。

 今度はこっちを凝視し始めた。


 若干の気まずさを感じて視線を他に向けると、近くの窓がちょうど開く。

 中にいる女性と目が合った。


「あ」


 ガタピシャと一瞬で閉められた。

 鍵をかけている音もする。


「すみません、里の者が失礼なことを!」

「あの……ものすごく今更なんですけど、私たちやっぱ来ない方がよかった……的な?」

「いえ、隊長の計画のためにも里のためにも、お二方には来ていただいて助かっています。歓迎しない者が多く本当に申し訳ありません」

「いえ、いていいなら気にせずにいるので大丈夫です。アル、覗いちゃダメ」


 ガタガタと慌てて閉まった窓の鎧戸をアルが鼻で押しながらフガフガしている。撫で要員を増やしたいのだろうけれど、唸りながら窓を開けようとしている姿は完全に捕食者である。スーを見上げると、仕方なさそうな顔をしてスーが屋根から降り、アルの鼻を尻尾の先でピシピシやって歩かせた。


「……実際のところ、キルリス隊長に賛同している里の者は多いんです。けれどそれを表明するのは、里や魔術師会の本家や長老派に反対するということでもあります」

「ああ、立場上難しいとかありそうですね」

「魔術師の家系というのは、呪いのようなものです。縛られ過ぎて自由に動けるのだと忘れてしまったものも多い」


 魔術師は里に服従するものだと、前にも聞いたことがある。そうやって暮らしてきた人たちが、新しい暮らしに慣れるには時間がいるのだろう。


「でも、キルリスさんもいるし、メルソスさんやナキナさんたちも頑張ってるんですから、きっと少しずつでも良い方向に向かいますよ」

「……そうですね。そうなるよう、努力したいと思います」


 少しでも励ませたら、と思って声を掛けると、しっかりとした返事が返ってきた。

 フィカル越しに。


「ありがとうございます、スミレさん。やはり外の方に来ていただいてよかった」

「いえいえ」

「今回だけでなく、ぜひ何度でも里に来てくださっ」


 フィカルがグッとメルソスさんに近付いた。耳元へ顔を近付けている。

 5秒ぐらいしてから離れ、何事もなかったように私の手を握って歩き始めた。

 メルソスさんの動きが心なしかカチコチになっている。


「……フィカル、何したの?」

「何もしていない」

「何言ったの?」

「何も言っていない」

「ウソでしょ」

「……事実しか言っていない」


 だからなにを言ったというのか。

 フィカルの気配に敏いスーが音もなく屋根に飛び上がって姿を消してしまった。


「メルソスさんと仲良くしてね」


 私が言うと、フィカルは非常に難しい表情をしてから頷いた。


 微妙な空気を意図せず堪能しつつ、私たちは里の外れまでやってきた。

 不規則に並ぶ家は、ある場所から明らかに人が住んでいないものに変わる。


「廃墟……というより遺跡?」

「この周辺の家は、人が住まなくなって数百年ほど経ちます」

「遺跡ですね」


 家自体はほとんど残っておらず土台と魔術陣が剥き出しになっていたり、なぜか木製の骨組みだけがしっかりと残っていたり、綺麗な魔草に埋め尽くされていたりと、不思議な住居跡が広がっている。ところどころ、朽ちずに残っている棚やドアがあるのは魔術のせいだろうか。


「代々受け継ぐ土地には、入念に魔術がかけられています。なので他家の者が住もうとしても住みにくいものが多くて。家が断絶するとその土地も捨てられるんです」

「えええ……じゃあ、この辺一帯はみんなお家断絶したんですか?」

「昔色々あったようで……」


 今は草が茂り鳥が飛んでいるこの場所で何があったというのか。魔術師の里の歴史、知りたいような知りたくないような。

 見ている分には綺麗な遺跡群を眺めながら、私たちはようやく里の境界まで辿り着いた。






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