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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
とくにポイズンしない日常編
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風邪にはマシュマロ4

 ふわふわと温かい中で、一際温度の高いものに抱き着く。狭い空間というのはすごく落ち着くものだ。ふー、と息を吐くと、とんとんと背中をあやすように叩かれた。その振動で意識が少し覚醒して、ぼんやりと目を開ける。白いシャツに柔らかな匂い。ぎゅっと背中に回っている腕。

 そろそろと頭を上げると、紺色の瞳と目が合う。


「お、おはようございます……」


 ものすごく快眠出来たと思ったら、フィカルに抱きついていたかららしかった。

 今更いたたまれなくなってゆっくりと離れると、フィカルの無表情が残念そうな顔になる。そして背中がぽよんと何かにぶつかった。


 振り向くと、白くて腕で抱えるくらいの大きさをした丸っぽい何かが転がっている。さわると、ぽよんぽよんと柔らかな弾力を感じる。

 見回すと、その白いものは私のベッドの上を埋め尽くしていた。私の体の下には敷き詰められ、寝転がっていた私を覆うように白いぽよんぽよんが乗っている。


「これ、なに?」


 ぽよんぽよんはサラサラした表面をしている。けれど、ぽよんぽよん同士はくっつけるとぺっとりとくっつきやすく、間に手を入れるとすっと離れる。温かくも冷たくもないそれは、埋もれて寝ると体温を逃さずに快適な環境を保っていたようだ。

 こんな巨大なマシュマロもどきは、今まで私の寝具にはなかったのだけれども。


「貰った」

「……誰に?」


 くり、と首を傾げたフィカルは、ベッドから落ちたぽよんぽよんを拾って私の足元のぽよんぽよんにくっつけた。非常に軽いので、沢山くっつけていくとちょっとしたドームを作ることも出来そうだ。

 ぎゅーっと押さえて見てもすぐに形は戻るし、千切れもしない。手もベタベタにならないので、マシュマロのオバケ群ではないようだった。

 よくわからないけど非常に優秀な寝具なので、「知らない人から得体の知れないものを貰わないこと」と注意するだけにとどめておいた。


 一晩で熱はすっかり下がったらしい私は、ブランケットを肩に掛けたままメシルさんのあっさりスープを朝食に食べた。果物は昨夜フィカルがハチミツ漬けにしたものを食べる。

 ヨウセイハナハッカのハチミツは、私が寝ている間にフィカルが採ってきたらしい。去年の秋に貰い物で貰ったのを私がよく飲んでいたのを思い出して、採ってきたそうだ。非常に稀少で採取が難しいと言われている種類なのに、あっさりと採ってきているフィカルはすごい。


 食後はまだ心配しているフィカルにベッドへと戻されて、ベッドサイドでアネモネちゃんに戯れられているフィカルとゆっくり話をした。


 フィカルは、病気になったことがないらしい。そして病人を看病したこともなかった。だから慌てていたし、丈夫になるようにスタミナ料理を作ろうと思ったのだろう。フィカルは失敗したと落ち込んでいるようだけれど、私は心配しているのが伝わってきていたので、初めての看病にしては上出来なのではないかと思う。

 ちなみにジャマキノコも栄養があると聞いてスープに入れようか迷ったそうだ。うん、入れていたらちょっと許せなかったかもしれないな。



 ちなみに後日、あのぽよんぽよんを誰から貰ったのかと街の人達に聞いて回ったけれど、誰にも心当たりはなかった。というか、誰も何なのか知らなかった。未確認物体を布団代わりにしていたことにおののいたけれども、保温性と通気性に優れたぽよんぽよんは一度使うと離れがたく、そのまま私のベッドの上で転がっている。

 何かの卵とかでないのであれば、もうなんでも良いや。

 異世界に来てから私のキャパシティは広がりっぱなしである。


「うん、もう寂しくないから。一人で寝ますんで大丈夫」


 毎晩私の枕元で心配そうにするフィカルを断るのに一苦労するようになったのは、風邪の副作用と言っても良いかもしれない。






ご指摘頂いた箇所を修正しました(2017/03/18)

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