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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
書籍化記念で初々しいあの頃じゃ編
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おにごっこ2

 街中をぶら下げスタイルで歩くのは流石に恥ずかしかったらしいマルスは、あちこちよそ見をしながらも私たちと一緒に牧場へと歩くことにしたようだった。人の庭先の花をつついたり雨樋の中を覗き込んだりするマルスに声を掛けて促しつつ、リリアナと手を繋ぎながら、図鑑を抱えるレオナルドが遅れないようにも気を付ける。


「フィカル、一応訊くけど、子供が嫌いではないんだよね?」


 私がこっそり尋ねると、フィカルはこっくりと頷いた。子供が暴れまわるのがイヤでああしたわけではないらしい。走り回るのを阻止するだけであれば脚だけ持って逆さまにぶら下げたりしそうだし、あの捕獲方法はあれでもフィカルの気遣いがあったのかもしれない。

 子供にケガをさせないように頑張ろうと声を掛けると、それにもまたこっくりで返された。安定の無表情。フィカルはこれでいて何か大きな失敗したりするところを見たことがないので、大丈夫だと思いたい。


 今日遊びに使わせてもらう牧場は、トッカさんという人がやっている。街の外側に面していて、行ってみると敷地が結構広かった。ここでは家畜を育てたり、商人が売りに来た生きた家畜を一時的に預かったりしているそうだ。トルテアではお肉は森で狩猟することも多いけれど、不作の年に備えてみんなでお金を出し合って育てている家畜もいるらしい。

 ここは東南の端に位置しているし普段森の恵みで生きている街なので、森で採れる植物や動物が減るとたちまち生活に困るのだそうだ。だからいくら森で採れる食料が豊富でも100%それに頼ることはしないようにしていると前に教えてもらった。


「敷地にね、人間の匂いがしていると野獣や魔獣が近寄りにくくなるんだ。柵は魔術がかかってるからあまり触らないようにしてくれたら、中で好きなように遊んでもらって構わないよ」

「わかりました」


 トッカさんもギルドに仕事を依頼してくれていた。牧場内を歩き回って匂いを付けるという仕事である。特に難しい仕事ではないので、子守りのついでにどうかと誘ってもらい、マルスのお母さんたちの許可も得て同時にこなすことにしたのだった。


「動物たちは温厚だけど、もちろん傷付けたり驚かしたりすれば怒るからね。そっとしておいてあげて。おじさんもそこで仕事してるから何かあったら言ってね」

「なーおじさんアレの背中乗っていい?!」

「マルス、話聞いてた?」


 地球で見たものとはちょっと違う家畜がのんびりと暮らしている敷地で、マルスは早くもエキサイティングしていた。どちらが怪我しても大変なので、くれぐれも近付かないように念を押すけれどあまり手応えは感じられない。

 これは暇を与えてしまうと絶対やるやつな気がする。心配そうなトッカさんに安心してもらうためにも、私がしっかりと注意を引いておかねば。


「ねえねえ、みんなで色鬼しない?」

「いろーにってなんだ?!」

「やる〜」

「……」


 この世界は、植物がカラフルである。家畜が食べるための牧草がたくさん生えているここも例に漏れず、色んな色の草が生え揃っていた。広い牧場の中で走り回りつつ、動物に意識をそらさせないために色鬼で遊べばいいのではないだろうかと考えていたのだ。


 鬼役を決め、鬼が色を指定する。鬼が数を数えている間に他の子は指定された色を探し出す。見つけて触っていればセーフ、見つけられなくて鬼がその子を捕まえれば、次はその子が鬼に交代する。

 ルールを説明すると、やったことがなかったらしい3人は興味を示してくれた。「鬼」にも興味を示してくれた。


「なースミレ! オニってどんな生き物? 魔物かっ?」

「魔物……なのかな? こう、角が生えてて、牙もあってもじゃもじゃしてて」

「かわいいの〜?」

「かわいくはないんじゃないかな」

「……大型の魔獣なの?」


 図鑑を抱きしめているレオナルドは知らない生き物が気になったらしく、初めて質問してくれた。今まで黙ってついてきていたので、興味を持ってくれて嬉しい。ただ鬼の生態については私もよくわからないけれども。ぼんやりしたイメージで説明すると、それぞれが違った想像をしているようだった。


「魔物なんだったら、おそってくる悪いやつなのか?! じゃあ他のやつは冒険者だな!」

「え〜もじゃもじゃしてて、きっとやさしいんだよ〜」

「……あそぶいきものは、かしこいんだよね」

「なーだれがオニ?! 早くやろうぜっ!!」


 脱線したものの、みんな乗り気になってくれた。一番最初なので遊び方の確認も兼ねて、私が鬼に名乗り出る。数を数えるのも最初なので20数えることにした。


「いくよ〜。じゃあ、青! 青色のものを探して掴んでね。数えたら捕まえに行くからね〜」


 子供たちは数え始めるのと同時にキャアキャアと走り出した。地面を見ながらあれこれ言い合ったり、しゃがみこんではハッと走り出したりしている。家畜には近寄らないというのもちゃんと守ってくれていて、もしゃもしゃと草を食べている家畜も子供たちを微笑ましそうに眺めている。

 そののんびりした光景を眺めながら私は数を数えた。


「はーち、なーな……」


 キャッキャと遊んでいる子供たちから一人異様に浮いているのはフィカルである。

 さっきから子供たちを見る視界の端で、無表情でずっと立っているフィカルが見えているのだ。参加する気がないのか、それとも逃げる気がないのか。既に青色を見つけてしまったのかもしれない。


「いーち! 行くよー!」

「あーっスミレ待って!!」

「マルスまだ見つけてないの〜?」


 遠くで騒いでいる子供たちの方へ歩き出す前に、一応訊いておいた。


「えーっと、フィカルも一緒に遊ばない?」


 こっくり。遊ばないと訊いて頷かれると、どっちかよくわからないなと気付いた。


「遊ぶ? じゃあルールは訊いてた? 青色のものを探して捕まるんだよ」


 フィカルはこっくりと頷き続けている。一応参加の意志はある上に、ルールもわかったらしい。

 だったら何故動かないのだろうか。すぐ捕まえられる距離にいるのだけれど。


「……わかりにくかったら最初は見ててくれてもいいよ。とりあえず私はマルスたちのところに行くね」


 カラフルな植物は、いざ特定の色を探してみると逆に難しい。どういう色が見つけやすいか、楽しみやすいか考えながら子供たちの方へと近づくと、後ろからついてくる足音があった。

 振り向くとすぐ後ろにフィカルがついてきている。


「……」


 気にしないようにしよう。


「青色あった? ちゃんと持ってる?」

「ホラあるよっ!!」

「みて〜、かわいいおはな〜」

「……ミツバミズソウの葉っぱ」

「見つけるの早いね〜。じゃあもう一回、違う色言うね。じゃあ……黄色!」


 またわっと走り出す子供たちを見送る。そして、フィカルがじっと立っているのを見る。


「フィカル、黄色のものを触ってないと、私がタッチしたら鬼になっちゃうよ」


 こっくり頷いたフィカルが、両手をこちらに差し出して開いた。

 ……何も持っていない。何をアピールしているのだろうか。じっと見られても読み取れない。


「フィカル、鬼やりたいの? 交代しようか?」


 あちこち追いかけるほうが好きなのかと思って提案すると、フィカルが私をじっと見たあとに首を傾げた。

 どっちなのか。言葉のヒントがないと、やはり意思疎通には限界がある気がする。


「一度子供の誰かに鬼やらせてあげたいから、その後でね」


 また20数えてから走り出す。


「うわ! きたぞっ!」

「わ〜スミレちゃんまって〜」


 しっかり掴んだ黄色い花を見せたレオナルド、その花びらをもらったリリアナを確認して、マルスを追いかける。黄色い花は小さいものが多く、逃げながらだと探し辛いようだった。ちょろちょろとすばしっこいマルスを追いかけ続け、逃げるか探すか迷ったところで背中から捕獲した。


「捕まえた!」

「くそーっ!! なあ、次はオレがオニ?!」

「そうだよ。何色にするか決めてね」


 ヨイショと腕で持ち上げると、脚をジタバタさせてマルスは悔しがる。しかしオニ役もやってみたかったのか、すぐに色選びで悩み始めた。リリアナとレオナルドも近寄ってきて、何色になるのか待ち構えている。


「スミレちゃん、いっしょににげようね〜」

「うん。頑張ろうね」


 きゅっと手を繋いできたリリアナと頷き合う。ふと、反対の手も握られたことに気がついた。

 振り向くと、フィカルが立っている。無表情で、私と手を繋ぎながら。


「……フィカルも、頑張って探そうね」


 こっくりと返事が返ってきた。






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