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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
完結後も続いていくこんな異世界じゃ編
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ニセモノ勇者捕物劇24

 日本の伝統文化、土下座スタイルは私の説得を援護射撃し、ニーサンは苦悶の表情をして食事をないがしろにしたこと、あと魔力を吸い取る魔術を強めすぎたこととかを謝罪した。

 アルが正座するニーサンとその前で仁王立ちする私を見て、オロオロしながら交互に鼻先を向けてはピーピー鳴らし、最終的にニーサンの横に座り込んでピェピェと泣き始めたというのも話を終わらせた一因だった。まるで家庭内の喧嘩を必死に仲裁する犬のように私へと擦り寄ってはニーサンをべろべろ舐めている。ニーサンの顔面はもうべっとべとである。ジャマキノコはニーサンが反抗するたびに頭上に生え、今はみっしりと天井を覆っていた。ちょっと気持ち悪い。


「ハイ、じゃあ魔力吸い取るのやめて。スーにごはん温めてもらうから」

「やだ……ごめんなさいごめんなさい」


 痺れているニーサンの足を私が親切心からマッサージしてあげると、ニーサンは反抗的態度を改め、アルがピェ〜と涙目になる。

 ニーサンを相手にしていると、なんかあれである。日本にいる弟の反抗期を思い出すのだった。あのときもせっかくお弁当作ったのに「いらん」とか言い出した弟に説教しまくったっけ。もしかしたら私、昔から食事関係でちょっと厳しかったのかもしれない。


「スミレ!!」

「フィカルー。もう具合大丈夫?」


 ニーサンが魔術を解いた瞬間、フィカルがすごい速さでやって来た。抜剣しているフィカルは片腕で私を引き寄せながらニーサンや偽者勇者を睨む。スーもその後ろでグルグルと牙を剥いていた。


「スー」

「グルッ!!」


 私がスーの翼の内に覆われるや否や、フィカルは身軽にベッドへと飛び乗ってあっという間にその刃を偽者勇者夫妻の首へと押し当ててしまった。


「リネリオ!!」

「動くと殺す。魔術も使うな」

「フィカルー! ちょっと待って!」


 せっかく説得して魔術をやめさせたばかりだというのに、唐突に物騒な展開はやめてほしい。

 動きを奪われた恨みは深いようで、フィカルとスーはかなりニーサンを敵視しているようだ。ニーサンは立ち上がったものの近寄れずフィカルを睨み、偽者勇者夫妻は息を呑んで固まり、アルはオロオロしている。

 一触即発の雰囲気を出すフィカルとニーサンの間に入り、私はまた説得を続けることになった。平和的解決を望むのはここでは私とアルしかいないようだ。


「みんな落ち着いて。とりあえずごはんでも食べて落ち着いて」


 偽者勇者夫妻は足を縛り武器を遠ざけ、美女の隣にニーサンを座らせる。さらにその隣に私が座り、丸腰になったフィカルが座って5人で食事を囲むことにした。

 ニーサンが魔術を行使するともれなく私が怒り、おそらく天蓋に生えたジャマキノコが落下する。フィカルが偽者勇者に手を出そうとすれば、ニーサンは私を人質に取ることが出来る。


「グル」

「いい匂いしてきたね〜? スーありがとね」

「グォウ」


 蓋をした鍋を咥えて弱火で温め、漏れ出る炎でお肉を炙り直した。お肉の宝石や金貨が乗った部分は削いでアルが片付け、沸かしたお湯で私の荷物に入っていた団茶を淹れる。なんとか食卓は整い、美味しそうな匂いでアルがピーピーと鼻を鳴らすまでになった。


「はい、召し上がれ」


 その合図でまず手を伸ばしたのは偽者勇者だ。ガタイの良い彼は動けない食事で不便していたのだろう、豪快に鶏肉を掴んで平らげていく。

 私もシチューの入った器に口を付けた。シチューは減ってしまったけれど、なんとか5人分は確保できた。とろける野菜とお肉がとても美味しい。体が温まり、余計な力が抜ける美味しさだった。


 その様子を見た他の面々も、それぞれに食べ物を口に運ぶ。最初は無言で始まった食事も、時間が経つにつれて「おかわりいる?」「そっちの肉取ってくれや」などとぽつぽつ会話が挟まるようになった。仲間メニューに入れてほしそうなジャマキノコが周囲にドスドスと落ちてきたけれど、それらはスーが食べ尽くす。

 野菜たっぷりのシチューや香ばしいお肉がなくなり、フルーツも切り分けて食べ終えた頃には、大体みんなお腹いっぱいになった。

 ナキブドウを齧りながらニーサンが質問する。


「どうしてスミレはこんな状態なのに食事なんかさせようとしたの?」

「お腹がいっぱいだと、消化に血液を使うでしょ。すると頭に回る血液量が少なくなるので物騒なことは考えにくいの」

「そんなこと考えてたの?」


 それらしいことを言ってみたら、ニーサンが感心した目で私を見てくる。

 実際には美味しそうだったので私が食べたかったのと、お腹いっぱいで怒る人を見たことないから食べさせとけば解決するくらいの適当な考えだけれど。素直に信じてしまうあたりも、ニーサンは昔の弟を彷彿とさせる。

 なんだか危なっかしくて放っておけないのだ。ニーサンが見た目よりも言動が幼いからかもしれない。


「で、えーっと、なんだっけ」

「ニーサンは何故魔術を使って人を苦しめた?」

「あ、そうそう。そういうことも訊いておかないと。あと、あなたたちがどうして勇者を騙ったのかも」


 前の食事からそう時間が経っていないせいもあってか、私もお腹いっぱいで頭が回っていないようだ。フィカルがそれをサポートしてくれるが、その表情は先程よりも柔らかなものになっている。

 やはりおいしい食事は平和を作るのは間違いないようだ。






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