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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
完結後も続いていくこんな異世界じゃ編
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ニセモノ勇者捕物劇21

 同行を拒否するのであれば羽交い締めにしても行かせない、とでも言いたげなフィカルの熱意に折れ、私とフィカルとスーとアルがお屋敷の様子を見に行くチーム、ナキナさんとスイジャさんは魔力を吸い取られる魔術を防ぎつつ外部との連絡を試みるチームで、サナガスさんが万が一に備えて2人を護衛してくれることになった。


「気を付けてくださいね。魔術は集中力が必要なので何かで気を逸らすことで阻止することも出来ますが、術の発動が速い熟練だと効かないので本当に気を付けて。魔術師は大体頭がおかしいのでとにかく下手に刺激しなように」


 ナキナさんが私の手を握って注意してくれた。かなりブーメランになっている言葉もある気がするけれど、ニーサンの魔術師としての強さを知っているだけに心配なのだろう。


「ナキナさんたちも気を付けて、もし転移出来るようならメシルバから出ちゃってください」

「魔力を溜められたらすぐに隊長に連絡して、出来るだけ早く助けに行きますから!」

「竜騎士団に俺の竜が報せに行っているが、いつになるかわからん。とにかくお前らも気をつけろよ」

「はーい、行ってきます」


 3人とも顔色が悪いのに手を振って送り出してくれた。フィカルだってしっかりと歩いてはいるけれど顔色は悪いし、余裕がなさそうに見える。スーやアルも畳んだ翼が開きかけていて、尻尾をだらんと引き摺ったまま歩いていた。

 一番元気な分、私が頑張ろう。とにかく危険な目に遭わない、危なそうなところには近付かない、そしてニーサンを刺激しない。三ない運動である。


「建物は大きいのに、人はいないね……」


 地下牢のあった場所から階段を登り、屋敷の裏庭に出る。フィカルがまず外を覗き、それから私へと頷いた。庭は雑草などが生えていたけれど、もともとは手入れされていたようだ。花壇に沿って様々な植物が植えられている。

 屋敷は三階建てで、裏には大きな木戸と小さな扉がある。使用人の通路なのだろう。周囲を見回しながらそこまで歩いていくと、近くの壁から突き出した煙突から煙が上がっているのが見えた。人は少ないようだけれど、無人ではないらしい。

 静かにね、とアルに合図を出すと、小さくピーと鼻を鳴らしてから静かになる。スーはフィカルの様子からか足音まで消していた。


「誰かいる」


 フィカルに先導されながら屋敷の中に入り、近くにあった厨房らしき部屋の手前でそう告げられる。扉のない入口に近づくと、何か料理をしている音が聞こえてきた。

 ここで働いている人なのだろうか。


 こちらに背中を向けて鍋をかき回しているのは、やや恰幅のいい女性だった。フィカルが音もなく近付いて、あっさりと後ろ手に捕まえてしまう。悲鳴を上げそうになった口も塞いで「静かにしろ」と言うと、その女性は無言で何度か頷いた。

 それにしてもフィカル、特殊部隊のような身のこなしである。


「いきなりすみません、騒がれると困るんです」

「あんたたち……誰だい? 竜騎士団の人かい」


 ここで料理番をしているという女性は、フィカルたちと同じく顔色が悪かった。それでも動くのがさほど苦痛ではなさそうだったので訊いてみると、働く間はニーサンが魔力を吸い取る量を加減してくれるらしい。


「じゃあ、その隙に逃げたらいいんじゃないですか?」

「出来るならそうしてるよ。あたしには家族がいるのさ」

「え、人質ってことですか?」


 ニーサンは使用人の家族を盾にすることで、反抗したり逃げ出したりすることを封じているそうだ。なんか結構あくどいことをしている。

 料理を作って持っていかないと怒られるというので、野菜を切り分ける手伝いをしながら話を聞くことにした。


「勇者とその妻だって奴らは、最初街一番の商人のところにいたのさ。そこで威張り散らして贅沢な暮らしをして、その周囲の人間の力を奪ったんだよ。それを見かねて領主様が窘めようとしたら、あの白い魔術師がここまで乗っ取っちまったんだ」

「つまり、領主様も囚われていると」

「そうだよ。上階の左奥の部屋にいるけど、階段を登ったら白い魔術師がずっと監視してくるから食事を出すくらいしか出来ないんだ。勇者も妻もあんな状態ならしかたないけど、魔術師を説得して早く出ていっとくりゃいいのに」

「あんな状態?」


 切った野菜を鍋に追加すると、その女性は頷いた。


「勇者たちもあたしたちみたいに、あの白い魔術師に力を奪われてんのさ」

「え? えぇ〜……?」


 偽者勇者とその奥さんは、どうやらニーサンを操っている黒幕ではないらしい。

 それどころか、魔力を吸われて他の人たちのように逃げたり反抗したり出来ない状況になっている。この女性は食事を運ぶ度にその姿を少しだけ見ているらしいので、顔色が悪くぐったりした様子だというのは本当らしい。


 偽者勇者がニーサンを利用してこの街で贅沢をしてるのではなかったのだろうか。

 もしかして、ニーサンが偽者勇者を利用しているとか?

 それにしても、わざわざ偽者に仕立て上げた相手をほとんど動けない状態にしている意味がわからない。ニーサンは誰の命令でそんなことをしているんだろう。

 私とフィカルは顔を見合わせた。







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