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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
完結後も続いていくこんな異世界じゃ編
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ニセモノ勇者捕物劇20

 このメシルバにおいては、魔力のない私が一番動きやすくダメージも少ない。他の人は、スーやアルも含めているだけで具合が悪そうなのである。だから私がメインになって動くことには異論はないのだけれども。


「断る」


 案の定フィカルがバッサリと言い切って、私をぎゅっと懐に引き寄せた。


「でもフィカル、顔色悪いし」

「顔色が悪くてもスミレより強い」

「それはまぁそうでしょうけども」


 確かに、寝起きだろうが風邪を引こうがいついかなる状態のフィカルに対しても私が勝つことはなさそうである。とはいえそれはフィカルの強さが桁外れなだけであって、これまで冒険者のはしくれとしてやって来た私だってそんなに弱いわけではない。多分。

 シシルさん主催で行われている護身術講座は一通り習っているし、竜の研究をする上で体力作りなども行ってきたのだ。


「フィカルは確かに強いけど、ニーサンに襲いかかったらもっと魔力が吸い取られるかもしれない。ナキナさん、魔力って吸い取られすぎると危ないんですよね?」

「はい。回復量より放出量が上回り続けると死にます」


 アッサリ死にますって言われた。怖い。そんな危険があるのにフィカルに頑張ってほしくない。

 つまり、ニーサンの魔術は大勢の人の生死を握るようなものなのだ。今はどうこうしようという気はないようだけれど、本気になって大勢を人質に取られたら私も身動きが出来なくなってしまう。


「誰もそんな危ない目に遭ってほしくないよ。私なら、少なくともそうやって死ぬ心配はないわけだし」

「スミレだけがニーサンと対峙するのは危険だ」

「いえフィカルさん、もしかしたら、そうでもないかもしれません」


 ちょっと失礼しますと私の手を取ったナキナさんが、触診でもするかのように指で腕をなぞりながらブツブツとしばらく何か呟く。そしてその手を、スイジャさんのいる牢へと近付けた。


「魔術師スイジャ、ちょっと見て下さい。この転移術の陣痕なんですけど……」

「うむ……」


 二人で何やら「リョクソウが」「マジヌドスウでいうと」など言い合っているが、魔術師用語はさっぱりわからない。背中にフィカルをくっつけ、空いた手に寄ってきたスーを撫でつつそのまま待っていると、二人が頷きあった。


「スミレさんは、ニーサンの魔術の影響を弾く体質である可能性があります」

「えっ……でも、さっき転移しましたよ? ニーサンの術で」

「先程の転移術は、この世界の魔術論を使用したものです」


 転移は魔術師の魔力も沢山使用するものだけれど、自然界にある魔力の力も大いに使うらしい。なので、この世界の魔術陣でなければ安定して発動しないのだろうとスイジャさんは推測した。


「スミレさんの体にはニーサン独自の魔力の痕が残ってないんです。だから、ニーサンの魔力については、もしかしたら魔力のない人間に対しては効かないのかも」


 もしかして、私、対ニーサンにおいて無敵なのか。

 そう思っていると、フィカルが強く首を振った。


「それでも危険だ。転移して遠方に連れて行かれたらどうする。吸い取った魔力で使える魔術があればスミレは危ない」

「まあ、それはそうですね」


 あっさりと無敵説は翻されてしまう。それでもナキナさんは、攻撃力は私が一番高いだろうと言った。


「防衛のための魔術は、自分自身の魔力を使うんです。そうでないと、魔術攻撃を弾きにくくなりますから。スーの攻撃をあれほど受け付けないということはおそらくニーサン自身の魔力のみで構成されているでしょう。スミレさんの攻撃が当たったのも説明が付きます」

「なるほど……いや、そもそもニーサンを倒す方向性でいくんですか? 話し合いしてもいいのでは?」


 物騒な方向性に行く前に、もう少し何かある気がする。そう言うと、私以外の人々は「何言ってんだコイツ」みたいな顔になった。


「スミレさん……攻撃されたら攻撃し返すのが基本ですよ?」

「いや、基本とか言われても」

「命の危険がある奴がいるんだから、まず相手を無力化させないといけないだろ」

「そうかもしれませんけど」


 ナキナさんが子供に言い聞かせるような調子で言い、サナガスさんも呆れた目で諭してくる。日頃から戦いの場に身をおいている人達からすると、砂糖菓子よりも甘い考えだったようだ。


「まあ、話し合うことで解決できるのであればそれが一番だが、もしもの場合を考えていて損はない」


 スイジャさんがそう言ってくれたけれど、結局はまず戦うことになった場合ありきで考えるべきらしかった。

 ニーサン、ヤバイ行動は多いけれど会話は成立していたし、穏便に済むのであればその方がいい気がするけれども。ナキナさんは「スミレさんはトルテア暮らしですからね……」と納得していた。


「とにかく、偽勇者の正体もまだわかっていないわけですから、一番危険な状態を想定していくべきです。そのほうがフィカルさんも納得するでしょう」

「スミレに付いていければ何でもいい」


 私がなるほどと頷いている横で、フィカルは一貫して変わらなかった。

 ちなみにフィカルが一緒に来るならスーも意地でも付いてくるだろうし、そうなればアルを置いていくとやかましく鳴きそうだ。フィカルやスーは私の心配はするくせに、自分の心配については無頓着である。そう主張してみると、フィカルは「スミレの方が心配だ」と譲らなかった。

 この不動の意志こそがフィカルの強さの源なのかもしれない。ある意味そんな気がする。






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