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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
完結後も続いていくこんな異世界じゃ編
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ニセモノ勇者捕物劇12

 サナガスさんによると、ここメシルバも貴族のタントネア家が管理している街なのだそうだ。

 ただタントネア家は領主の資格を持つ者が領地にある街をそれぞれの専門に担当して守っているらしく、お互いに干渉することはほどんどない。今回の偽者勇者の件で街への通行を制限したりし始めたため、流石に様子がおかしいのではとタントネアの街にいる領主がメシルバを担当している領主に連絡をしたそうだ。けれどもメシルバ側から「問題ない」と回答されていたため手を出しにくい状況だったらしい。


「死人が出たり王都からお達しがあれば手は入ることになるだろうが、基本的にはそれぞれの街に関しては領主の権限が大きいからな」


 この世界には、魔獣がいる。襲ってくる魔獣から身を守るというのがまず暮らしの中に根付いているせいか、人同士が大きな争いをすることはあまりないようだ。そういうこともあって、こんな事態に対する素早い対処法がないのかもしれない。


「ま、何にしろ申請は通った。今日は休んで明日の朝イチでメシルバに行こう」

「はい」


 タントネアの役所に売上票を持って申請しに行き、無事に通行許可が取れた。申請をすると役人同士であれこれと話し合いをしていたようだけれど、サナガスさんがそこへ混じり、それからあっさりと許可証を発行してくれた。何かをこっそり渡すような仕草をしていたので、いわゆる袖の下を渡したのかもしれない。


「あの、サナガスさん、お金かかったんだったら私も払います」

「そんなに払っちゃいねえよ。ああいうのは渡すだけで態度が変わるもんだからな」


 チップを少し弾んだくらいだろうか。それでも負担してくれたことに代わりはないので、その日の夕食は私が奢らせてほしいとお願いした。お店が繁盛したせいで、持ってきたお金も全然使っていない上にお財布が重くなったくらいである。ちょっとお高いお店へ入って、あれこれと沢山食べてもらってもまったく痛手にはならなかった。


 サナガスさんがモリモリ食べる様は見ていて気持ちいいほどだったけれど、せっかく頑張ってお店をやり終えたのだから、フィカルともお祝いしたかった。

 フィカルもアルも今頃何をしているのだろう。フィカルの話によると昔はあちこち旅をして暮らしていたと言うし、その中に過酷な環境もあったようなのでちょっとやそっとのことでは倒れたりしないとは思うけれど。きちんとごはんを食べているのか、無理はしていないか少し心配になる。

 アルと一緒にいて、せめてごはんは食べていますように。


「ほら、サクラももっと食べろ。明日は移動だからな」

「はい」


 小芋が添えられたステーキは熱々でとても美味しかった。しっかり食べて明日に備えよう。フィカルと合流できたら、またここに食べに来れたらいい。


 食事を終えてから、同じ宿へと移ってくれたサナガスさんと別れて自室へと戻る。扉の鍵をかけてから窓を開けると、屋根の上からじーっと顔を出していたスーが満足気に喉を鳴らした。ジロジロと室内の安全を確かめてから、ようやく満足したように顔を引っ込める。心配性のスーが窓のところに尻尾を垂らしながら寝てくれるおかげで、私も安心して眠れるのだった。


 翌朝、早めに起きた私は荷物を纏めてスーの鞍へと括り付ける。もともとスーとアルで分割して運んでいた荷物だったのでちょっと多かったけれど、宿屋のおじいさんの好意でしばらく預かってもらえることになったので最低限だけを持っていくことにした。

 一日分の着替えは私とフィカルのものをそれぞれ。それから水の小樽と食べ物を多めに。果物や柔らかいパンなどそのまますぐ食べられるものに、干し肉やドライフルーツなどの保存食。根菜を粉状にしたものはお湯でふやかして煮れば胃に優しい食事になる。あとは万が一を考えて買った薬や救急セットもしっかりと荷物に入れた。


「サナガスさん、おはようございます」

「おう、もう準備出来たか」


 一階の食堂でサナガスさんと合流して、持ち運べる朝ごはんを買った。小玉スイカくらいある大きなパンに、上からくり抜いて中にシチューを入れたもの。周りのパンをちぎってシチューを掬いながら食べる美味しいかつゴミのないすぐれものごはんである。蓋の部分が外れないように布できちんと包んでから、私とサナガスさんは出発した。


「サナガスさんも竜で行くんですよね?」

「ああ。街の外で呼ぶ。普段も竜舎で寝るより外のほうが好きなやつなんだ」

「ヒリュウですか? そういうタイプの子多いですよね」


 まだ薄暗い街はフィカルがいなくなったときを思い起こさせるけれど、スーが私にぴったりとくっついて歩いているし、サナガスさんもいるので怖くはなかった。


「待ってー!! スミレさぁーん!!」


 街の出口が近付いてきた頃、後ろから大声で走ってくる人がいた。

 人通りのない朝とはいえ、本名をそんなに大きな声で呼ばないで欲しい。

 振り向くと、ローブを着た背の高い女性がこちらに手を振りながら走ってくる。


「ナキナさん?」

「はいぃ、ナキナですー! キルリス隊長の指示で様子を見に来ました!」


 ピンクの長髪を揺らしながら駆け寄ってきたナキナさんは、ぜえはあと息を切らしながらペコリと頭を下げ、ついでに地面に生えていたジャマキノコを収穫してそのまま齧り始めた。






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