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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
章タイトルも決められないこんな番外編じゃ編
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仔竜、都会へ行く1

 ジャマキノコはガーデニング用のイスにピッタリである。

 もったりと肉厚な傘の部分は前のめりに作業しやすい傾斜付き、太い柄の部分は安定感がありあちこちに体を動かしても安全で、何より移動してもすかさず生えてしゃがもうとした場所ピッタリに待ち構えているという楽ちん仕様。これに慣れてしまえば普通のイスに座る時に不自由に感じそうだ。


「アネモネちゃん、次何植える? これ?」


 どんどん建てられていく家を囲うように作る予定の花壇も少しずつ伸びていき、土を耕した場所にすっかり通常営業に戻ったアネモネちゃんプロデュースで種を植え始めている。


 私は植える植物についてはあんまり希望がなく、危険だったりうるさいものでなければ良いくらいに考えていた。花はただ植えればいいと思っていたけれど、種屋さんによると大振りな花を付ける観賞用は肥料の世話なども考えなければならず、そうでないものでも土の性質や植え合わせなどを見ながら選ぶ必要があるということだった。

 この時点でもう雑草でも生やしておけばいいかくらいに思っていた私だけれど、アネモネちゃんがジェスチャーでアピールするので種選びに連れて行ったところ、様々な観点から数種類の種を選んでくれた。選んだ種類でも実際に種を見て買う品物を吟味していたのは魔草ならではの何かがあったのだろうか。


「あー! アル、またお城つぶしたー!」

「ピギャゥ……」

「鼻近付けすぎちゃだめだろー?」

「ギュル」


 栄養を含みしっかり耕されたふかふかの土に種まきをしている近くでは、そのふかふかの土を作ってくれたアルが子供達と何やら砂遊びをしていた。私と手綱で繋がっているアルが、何かを作る子供を手伝おうと大きな鼻先で砂を集めている。


 まだ本人もコドモなのだから、力加減などを誤って怪我させてしまうのではないかと心配しまくっていたアルだけれど、赤ちゃん竜などをあやしていた経験があるからか意外にも子供と遊ぶのはとても上手だった。

 最初の頃に何度か子供に尻餅をつかせたり怒らせたりして力加減をしっかり把握したアルは子供達を押し潰すこともなく、ぶつかりそうな場所や足元に子供が飛び込んできても素早い竜ならではの動きで躱したり翼で飛んで避けたりする上に、明らかな身体能力差を見せないような動きで子供達と対等においかけっこをしていたりするのだ。


 アルが子供と遊んでいる様子ははたから見ると完全にティラノサウルスの捕食シーンのようで最初はいい顔をしなかった親御さん達も、近頃ではお守りをしてくれたお礼を差し入れしてくれる程である。顔は凶暴な造りをしていても小さな子供が泣き出すとオロオロあちこち見回ししながらピーピー鼻を鳴らしているのを見ると、親御さん達も捕食される可能性がないとわかるようだった。


「ねースミレちゃん! ぼくアルにのって飛んでみたい!」

「それはダメだよ。アルは飛ぶ訓練を受けてないから」

「えーじゃあくんれん受けてよー!」

「おいネフィルス文句言うなよなー。それより冒険者ごっこしようぜ!」


 トルテアでは街の子供達が年齢関係なく集まって遊ぶことも多いので、小さな子の面倒は大きな子が見るという構図もしっかり出来上がっていて心配が少ない。特に冒険者ギルドに加入すると遊び回ることも減るようだけれど、ギルドに入った子供は決まりや仕事を学んでうんとしっかりするので街のお母さん達が子守りの仕事を依頼することも多いのだった。


 その辺の木の棒を持ってはしゃぐ子供達相手にアバレオオウシ役を務めていたアルが、家の近くでフィカルの手伝いをしていたスーの鋭く大きい一声で素早く顔を上げ街の上空を見上げると、背伸びをするようにキュッと身を細めた。スーもアルと同じ方向を見て僅かに翼を広げている。

 私の目には普通の青空しかないそこをフィカルも見上げていたかと思うと、建築作業中だった職人さん達に声を掛け、それから私の傍に走ってくる。


「知らない竜が来る。様子を見に行きたい」

「うん。ついて行こうか?」


 フィカルがこっくりと頷いたのを見て、私は子供達を街の中の方へと帰らせる。

 四六時中私にくっついて周囲に気を張り巡らせていた時期からすると最近はフィカルも警戒を解いていることが多いけれど、それでも完全によそから来た人に対しては油断することはなかった。


 竜の少ない東南地方の端にあるトルテアへわざわざ竜で乗り付けてくる人はほとんどいない。トルテアは領主の住む街ではないので巡回の騎士がたまーに立ち寄ることがあるけれど、馬などの地上を走る生き物に乗っているのだ。この辺りでは竜騎士団はあっても竜の数が少なく、急を要する事態でもなければそう出動しないのである。

 そんな中でやってくる竜というのは、何があっても対処出来るようにフィカルが私を手の届く範囲に置いておきたいレベルの警戒のようだ。


 うずうずしているアルの手綱を折ってまとめて、モスグリーンの鱗が光る首元に結んでおく。


「アル、待てだよ。待、て」

「ピグルォオウ、ギャオゥーッ」


 少しずつ簡単な合図を覚えている最中のアルが最もよく言われる指示である。

 言葉だけでもわかったアルが文句を言うように鳴いているけれど、あの頭薪割り事件から私の指示する言葉には絶対に従うようになったアルは無理に付いてこようとはしなかった。


「危ない人かもしれないからね、ここで待ってるんだよ。見てていいから」


 まっすぐ肘を伸ばして指を揃えた掌を見せるのは、「空中で待て」の合図である。「飛ばずに待て」の場合は肘を曲げることで区別しているのだ。私がフィカルから簡単に教わった合図のうち最も練習を重ねたものなので、アルはグゥと喉を鳴らしながらも素直に飛び立ったところでホバリングをした。


 それからスーの傍へ近寄ると、鞍に結んでいた剣を佩いたフィカルが私をスーの背へ持ち上げる。私が座席に収まってきちんと取っ手に掴まる間も街の向こうの空を見上げていたスーが、フィカルの指示を貰ってまっすぐに飛行を開始した。






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