王都から6 スーの優雅な応援
スーは小さな仲間を大事に羽で覆った。フィカルと呼ばれるスーより強いスーの仲間が目で命じたとき、ようやくスーは仲間として認められたのだと自分を誇らしく思った。小さな仲間はフィカルの大事なツガイだが、スーにとっても大事な仲間である。スーのことを見つけると合図をくれるし、細かいおやつをくれるし、何よりもスーを大事にしている。立派ですごい存在であるスーを大事にするということは、スーの価値がわかる賢い人間なのだ。
本当はスーが縄張りを荒らすやつらを蹴散らしてやりたかったが、フィカルに譲ってやることにした。その代わり、スーは任された小さな仲間を守るという仕事を完璧に全うするのだ。スーのことを撫でることがすごく上手なこの仲間を、図体がでかいだけの竜を連れているような邪魔者に取られるだなんて言語道断なのだ。炎で燃やしてやってもいいけれど、フィカルが片付けたいようなのでやめておいたのだ。それに人間の多いところで暴れるとフィカルがスーにひどいのだ。
邪魔な人間の中でも一番大きいやつが、大きな金属を振り回している。フィカルはそれを目で追って避けていた。フィカルも時々小さな金属を使うので、大きいやつとの間で火花が散る。スーならもっと大きい火を出せるのに、呼ばれないのでスーは大人しくしているしかない。くるくると2人は動き、大きなやつは段々ゆっくりになっていく。スーが退屈だなあと呟くと、小さな人間が顎を撫でてくれた。温かい手で顎に触れられると気持ちいいとスーは知っている。広げてある翼を触られるのは本当は嫌なことだけれど、小さな人間は優しいし温かいし気持ちよく撫でるのが上手いので許してやることにした。スーは寛大な竜である。
撫でられて気持ちよくなっていると、フィカルは相手に何発か蹴りを繰り出した。スーは思わず唸ってしまう。フィカルという人間は牙もないし、小さいのに、あの蹴りはすごく痛いのだ。力の入れていない蹴りでも痛いのに、力を入れた蹴りといったら。思い出してスーはぶるぶると身を震わせた。大きい方は転がって、フィカルも動きを止める。フィカル達の縄張りで暮らす人間が何か鳴いて、空気が緩んだ。
近くにいた黒いやつがフィカルの方へと歩いていって、代わりに大きいやつが近くに来た。痛そうに動いている。スーもフィカルにやられたときの気持ちがわかるので少し同情したが、こいつは縄張りを荒らすやつなので威嚇をしておく。
黒いやつは木の棒を持っていて、そこから火を吐くようだった。たまに人間の中にもそういうのがいるのである。スーもひとりでいた頃、そういう人間が立ち向かってきたことが時々あった。もちろんスーは返り討ちにしてやったけれど、そのためスーはそういうやつは面倒くさいということを知っている。フィカルは知っているだろうかと思って見ていると、危うく黒いやつの吐いた風で切られそうになっている。思わず手助けしそうになって、懐で匿っている小さい仲間がスーの動きに驚いて声を上げた。いけないいけない。スーは立派なのだから、落ち着いて役目をこなさねば。
そう思ってはみるものの、大きな炎や水や雷をどんどん吐き出す黒いやつを見ているとどうにもむずむずする。スーはそういうことをするとすぐに怒られるのに。スーは火しか吐けないからダメなのだろうか。口から吐き出すからダメなのだろうか?
フィカルはちょろちょろと動き回りながら、黒いやつの持っている木の棒を見ている。火や水を吐き出している場所を見ているのかもしれなかった。
何してるんだよーっすぐに殴っちゃえばいいだろ! スーのときみたいに!
思わず口出しをしてしまうけれど、フィカルは相変わらずスーのことを無視するのだ。もっと大きな声を出してやったらこっちを見るだろうか。でもフィカルを怒らせるのは痛くて怖いので嫌だ。
もっとぱっと動いて、そこで踏み付けてしまえ。あっ、次に水を吐くぞっ。今フィカルに尻尾があったら相手を叩けたのにっ。そこだっ。
スーは強くて誇り高い竜なので、仲間にだけ戦わせて高みの見物をしているよりは、仲間を助けてやりたい優しさのほうが勝っている。きっとその方がフィカルもスーのことを見直すだろう。すごいと褒めるかもしれない。
フィカルを助けてやってもっと仲間として見て欲しい気持ちと、邪魔なやつを手っ取り早くやっつけてしまいたい気持ちと、ケンカなんて楽しそうなことをやっているのにスーはじっとしていなければいけない気持ちと、フィカルにあんなことやこんなことをされて溜めた鬱憤を思い出す気持ちと、縄張りを荒らすやつを痛めつけると楽しい気持ちと、……
いや、だめだ。スーは小さい仲間を守っているのだ。小さい仲間は賢いが、少しどんくさい。だからスーが守らねば。守ったらフィカルはスーを褒めるだろう。褒める。きっと強いと褒めてくれるぞ。スーはすごいのだ。もっとすごいということを示してやりたい。何かをやっつけるのは楽しいし、あんなに色々やっているのだから、スーが噛み付いても良いはずだ。スーも暴れたい。大人しくしてなくちゃ。人間の仲間ってちょっと窮屈だ。
フィカルがすいすい避けるので、黒いやつは次第にイライラしてきたようだった。そうそう。フィカルはすごく身軽なのだ。動き方が普通と違うのでいくら素早いスーといえども捕まえるのは難しい。フィカルを捕まえられるのは、小さい仲間だけだ。小さい仲間は動きが遅いのにフィカルを一瞬で捕まえられるから、きっと何かすごい力を持っているのだろう。
大きな雷を黒いやつがフィカルの四方に吐いたので、あっと思ってついスーもそれに向かって火を吐いてしまった。スーが助けてあげたというのに、フィカルに睨まれた。助けたのに。でも目は背けてしまう。良いことをして褒められなくってもスーは立派なのでめげない。
フィカルが飽きたのか、そのあとすぐに黒いやつを引っ掴んで投げ飛ばした。黒いやつが風を吐いて体勢を立て直したので、さらに蹴り飛ばして胸倉を掴んで地面に押さえ付ける。あれは痛いぞ。スーは我がことのように羽を縮めて震えた。
またスーたちの縄張りの人間が鳴いて、黒いやつはヨロヨロと立ち上がった。フィカルは勝っても相手を千切ったり食べたりしないのが不思議だが、負けたやつは大人しくなるから良いのだろう。上で回ってる目障りなやつらが、自分の主を心配して鳴いている。ざまあみろ、と吠えると、フィカルにまた睨まれて慌てて静かにする。
残り1匹の人間が黒いやつと代わるようにしてフィカルの方へ歩いている。背格好がフィカルと似ている。スーは頭が良くて勘が鋭いのでわかった。こいつはなかなか強い人間だ。
強いやつのほうがやっつけるのは楽しい。きっとフィカルも楽しいだろうと思うと、やっぱりスーも暴れたくなってしまう。人間は小さいけれど頭を使って戦うので、見ているだけでもなかなか面白いものだ。スーもあそこへ行けたらきっともっと楽しいのに!
スーは尻尾を揺らめかせながら、上機嫌に喉を鳴らした。
ご指摘頂き誤字を修正しました。(2017/05/15、2017/09/19)




