王都へ7
「ベニヒリュウは複数で捕まえれば騎乗に向いた竜なのよぉ〜。仲間意識が強いから、お互いの連携も上手くいくしね。その半面、単独で操るには向いてないんだけど」
リュウ属の中では小さい方で世話も簡単だし、とガリオスさんは夕食の席で教えてくれた。竜の中にも人間が操るのに向いている種類とそうでない種類などがあるらしく、竜騎士団などは異種同士が顔を合わせても喧嘩しない、竜同士の連携の取りやすい種類などを選んで捕まえるらしかった。
「ま、おたくの竜は習性から外れてるみたいだから。本当に変わってるわねぇ」
「私はスーくらいしか身近に竜がいないので、あんまり意識したことないんですけど」
「アタシだって竜で知らないことなんか沢山あるわよ。竜騎士団同士貴族同士で色んな竜を見る機会は多いけどね、竜は捕まえると繁殖しないし子育て中は厳戒態勢だし、生態もほとんど分かってないのよね」
東南地方はほとんど竜がいないために馴染みがないけれど、冒険者として旅をする人の中にはそういった竜の生態を研究している人もいるらしかった。植物や魔獣の研究者という人はトルテアでも見かけたことがあるけれど、色んな人がいるものだ。
ガリオスさんの話題は竜だけに留まらず、様々なことについて面白おかしく教えてくれた。竜の飼料から鱗の加工品、ラタで作られる工芸が国一番と言われていること、細工師の登用制度、4つの市場の違いなど。沢山喋っているけれどもガリオスさんはその合間に上品に食事をしていて、内容も面白いのでついつい聞き入ってしまいそうになるけれど、夕食もまた美味しくてごはんも進む。
「うちは文化の街だから、美食にも相当力を入れてるわけよ。北西地方の珍味なんかも仕入れたり劇場にレストランを併設したりしてね。ほらアタシって根が文官だからァ芸術がないと生きてけないのよねぇ〜」
「えーっと……」
そんなにムッキムキの体を持っておきながら、文字通り体を張ったギャグなのだろうか。細長いテーブルにはラタの竜騎士団らしき人達も沢山席についていたけれど、誰もがスルーしている。そのスルーさえもガリオスさんは喜んでいるので、私はどういった反応をすべきなのか非常に戸惑った。
「美しいものが好きなのよ」という理由でドレスを纏っているガリオスさんだけれど、博識で政治についてもとても詳しく、街の隅々のことまで気にかけている領主だということが伝わってくる。ただ時折、部下の人からの冷たい目線に頬を染めているところを除けば理想的な領主なのではないだろうか。
「そういえばルチアさんが誘拐事件が多いって言ってたんですが、ここでもそんなことが起こったりしてますか?」
「あぁあのナマイキ小娘ちゃんね。確かに言われてみればそういった届け出は増えているかもしれないわね。でも失踪した人間も場所もまったく関連がないから、治安が悪くなったのかと思ってたんだけど」
ルチアさんから貰った手紙を渡した時のガリオスさんは、しばらく読みふけったかと思うとキィ〜と手紙をビリビリ引き裂いていた。何を書かれていたのかわからないけれど、お互いによく知っている仲らしい。
「アタシはそれよりも街への魔術介入が増えてるのが気になるわぁ」
「魔術介入?」
「そ。トルテアから来たならあんまりピンとこないでしょうけど、この辺になるとそこそこ魔獣も出るから街全体に探知や防御の結界を張ってるのよ。市民の被害が出る前に対応できるようにね。街の魔術師会がやってるんだけど、それに何かがよく引っかかってるって報告が上がってるわけ」
「何かって何ですかね」
「それがわっかんないって言うのよぉ〜ちゃんとお仕事しなさいって言ってるんだけど、街に攻撃されてるわけでもないし、魔術陣も痕跡を辿れないみたいで」
カトラリーを置いたガリオスさんは上品に口を拭い、グラスに口を付けた。優雅な仕草ではあるけれど、食べた量はここにいる誰よりも多かった。お肉は大きな塊を給仕の美青年が運んできて切り分ける方式だったのだけれど、ガリオスさんのお皿に載せられたのは私の十倍くらいの多さはあったのではないだろうか。基礎代謝量が違うということを実感した光景だ。フィカルや竜騎士団の人も沢山食べていたので、私のお皿だけがなんだかお子様ランチの量のように見えてしまっていた。
「そういう、痕跡を残さない魔術ってどれくらい難しいんですか?」
「アタシも魔術は嗜む程度だからなんとも言えないけど、相当難しいと思うわ。魔術はそもそも痕跡が残ってしまうものだから、それを消すために更に魔術を使い、その魔術を誤魔化すための魔術を、って感じで入れ子構造にしてるんじゃないかと思うんだけど、魔力が多くないとそんなこと出来ないし」
「じゃあ、魔力が沢山ある人が何かしてるってことなんでしょうか」
「魔力が沢山あって、魔術師会に所属していなくて、痕跡を消したい理由のある人ね」
魔術を少しでも使える人間は、魔術師会に登録をする義務がある。それを怠ると処罰の対象になり、魔術の封印などの刑罰が下ることもあるらしい。普通に暮らしている人でも魔力はあるけれど魔術は使えないという人は多いため、子供の頃に魔力を測り、一定以上の魔力を持つのであれば魔術の素養があるか調べられる。そこで魔術を少しでも使える人は登録を済ませて、更に才能がある人は魔術師になるために弟子入り先を教えられる。
魔術師会はともすれば危険な力となり得る魔術の操り手を管理するのと同時に、魔術陣などの情報の共有や各種の優遇制度などもある。普通に生活する分には所属して得はあれど損はない団体だ。
「魔術師はプライド高い人間が多いから、体面を汚す外法者は積極的に探して罰してるんだけど、実力が上の魔術師を見つけるというのは難しいみたいよ」
「あの、そういう人から身を守るのは、どうしたらいいんでしょうか」
ガリオスさんは球体に固められたホワイトチョコっぽいものの中に詰められたフルーツのデザートを口に入れて、ゆったりとそれを味わってから答えた。
「逃げて、とにかく魔術師会に連絡する。一対一での魔力が負けていても、複数で対応することで相手の力を抑えることが出来るしね。魔術を使えない人間ならそもそも標的にされないようにするしかないわ」
ある程度の魔術であれば、物理的な攻撃で対応することも出来るらしい。しかし禁術なども用いるような犯罪者を相手にするのは危険過ぎるため、そもそも魔術を使われないようにするくらいしか対処方法はないらしい。
確かに、と納得した。アヤシイ魔術師団体である竜の牙が私を攫う時に使ったような魔術を使われたら、竜に上から引っ張って貰って逃げるくらいしか思いつかない。あのアジトには魔術師も沢山いたし、他の人がわからないような場所だったし、キルリスさんと巨大竜がいなければ私も無事ではすまなかっただろう。
改めて考えると物騒だった状況に今更ながらぞっとしていると、横からフォークが伸びてきた。顔を上げるとフィカルがライチに似たフルーツを差し出している。私のデザートを食べる手が止まっていたのが気になったのだろう。断ろうと口を開いた隙に素早く突っ込まれて、どうすることもできずに咀嚼しているとフィカルは次のフルーツを刺している。いや、やめて。人前だから。フィカルには力で敵うわけがないので、私は必死に口を閉じた。
「あらヤダわぁ〜もう〜勇者ってお熱いのねッ!!」
ほら、ガリオスさんがクネクネしだした上に、部下の人達がこっちにも冷たい目線を流し始めたではないか。ラタ竜騎士団の紋章である花の付いたリースの刺繍を付けた制服を着ている人達はブリザード、私の隣に座るフィカルも安定の無表情で、この場でガリオスさんと私しか表情筋を使っていない。ガリオスさんは何故か喜んでいるし、羞恥心を感じているのは私だけとはアウェイすぎる。
ぐりぐりと唇にフルーツを押し付けられながらラタの夜は更けていった。
ご指摘頂いた間違いを修正しました。(2017/12/19)




