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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
魔王もしくは世界の危機編

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王都へ6

「うわあ、あれがラタの街?」


 最後のシャツに縫い取ったミニスーは何とか遠目に見ても竜だとわかる見た目になった。その出来にフィカル共々満足してからしばらく、スーの頭越しに大きな街が見えた。

 トルテアは勿論、タラチネよりも遥かに大きい規模の円を描くその街は、煉瓦や石で出来た建物が多いせいか、遠くから見るとセピア色の緩やかな山のように中央が少しだけ盛り上がっていた。

 街の周囲をぐるりと石壁で囲っているのは魔物対策なのだろう。タラチネから3つ小さな街を越した頃から、陸にも空にも魔獣の姿がチラホラと現れていた。さほど大きくはないそれらはほとんどがスーを見て逃げていくのだけれど、ここまでに2度、翼を持つものがスーに襲い掛かってきていた。竜であるスーにしてみればおやつが多い地域だという程度らしく、高度を上げないことに対する不満はすっかり忘れてご機嫌で翼を動かしている。


 スーが羽ばたくにつれて街もどんどん大きくなっていく。ラタの街の中央には一際大きな城ともいうべき建物があり、街の外から真っ直ぐその城まで街道が続いているのが見える。その緩やかな坂を下った中腹に円形の広場があり、見えにくいけれど四方の門から通じる街道すべてにそういった広場があるようだった。昨日よりは近くにある街道にも荷馬車が多い。


 フィカルが心配そうに伸ばしてくる手に掴まりながら身を乗り出して見ているとおもむろにスーが大きな声を出し、ラタのてっぺん辺りから影がいくつか飛び立った。その影も同じような声を発している。


「竜だ。あれ、こっちに向かってきてない?」


 フィカルが私をしっかり座席に座らせ、身軽に後ろ側に戻って手綱を握った。相手が近付くのにつれてスーは速度を緩め、威嚇するように口を開けたまま声を上げている。

 ラタから飛んだ竜の数は4匹で、傾いた太陽に反射していたその鱗が近付くと何色かわかった。


「スーと同じ竜!」


 4匹のうち1匹はトルコブルーのほっそりした竜だったけれど、残りの3匹は鮮やかな紅色を纏っていた。ティラノサウルスっぽい見た目や手足の形などがスーとそっくりなのだ。ギャアギャアと声を上げて私達を囲んだ竜のうちそのベニヒリュウの1匹が近くまで進んできた。


「アナタ達が勇者ご一行様ね?! 歓迎するわぁ〜!!」

「あれ……」


 ハートが飛んでそうなごく友好的な言葉が向こうから叫ばれる。紅い鱗の上に立ち乗りしてこちらに女らしい動作で手を振っている。しかしその声は非常に野太く、フリフリのドレスを身に纏っている体は遠目で見てもムッキムキだった。


「ちょっと下はいっぱいなのよぉ! 館にそのまま降り立って欲しいから付いて来てくれる?!」

「わ……わかりましたー!! ありがとうございますー!」

「ウフッ目一杯おもてなしするわねぇ〜!!」


 竜の鱗の鮮やかさにも負けないようなカラフルなドレスを翻したあの人が領主なのだろう。周囲を飛ぶ竜騎士団らしき人達が至って普通なのが救いだ。所属を示すチュニックが派手なのが気になるけれど。

 4匹の竜の先導でスーは街の真ん中まで飛び、ラタで最も高い場所にある建物に併設された広い芝地で着陸した。周囲の竜に気が立っているのか落ち着きのないスーを宥めて鞍から降りると、派手なドレスの人物がのしのしと大股で歩いてくる。


「改めましてぇ〜、アタシがここの領主のガリオス・ラタよ。よろしくねん」

「こんにちは……私はスミレです。こっちがフィカルです」


 近くで見ると非常に背が高い。筋肉もモリモリついていて、ドレスもとても大きかった。いかつそうな顔はお化粧をしていて迫力があり爪を染めている手も私の倍くらい大きかったけれど、握った手に込められた力は優しかった。どちらかと言うと、反対の手を握ったままのフィカルの力のほうが強かったくらいだ。


「あらん? あんまりアタシに驚いてないわねえ、アナタ。そういう趣味なの?!」

「いえ、別にそうではないですけど……人それぞれでいいのではないかと……」


 ガリオスさんは私のリアクション不足に首を傾げる。十分びっくりしているけれど、日本でそういう人を見聞きしたことがあるので仰天するほどではなかった。変態と聞いて想像していたようなレベルよりは普通よりだったからかもしれない。目に眩しいくらいで特に恐ろしいところもないし。フィカルはいつも通りの無表情である。

 人に迷惑をかけないでやるべきことをやってるなら好きに生きればいい、と教え育ててくれた両親に感謝していると、ガリオスさんが頬に指を当ててン〜と体をくねらせた。


「イイコなのねぇ〜。初対面の相手が嫌悪と恐怖に塗れた目で見てくるのが快感なんだけどォ」


 想像した以上に変態だった。中身が。

 私の顔がちょっと引きつってしまったことで満足したのか、ガリオスさんはフィカルに向き直る。


「アナタが魔王を倒したのねェ。フィカルちゃん、ラタの竜騎士を代表して敬意を表するわ!」


 バチーンとウィンクを決めながら手を差し出してきたガリオスさんに、フィカルは無表情で頷くだけで握手に応じない通常営業だった。私がルチアさんの時同様にフィカルの無口っぷりを説明すると、ガリオスさんはまたウフフと笑う。


「つれないところがまたス・テ・キ! さ、竜を繋いでゴハンにしましょ! 竜舎を空けてあるわ」


 スーを繋いでおく場所として案内されたのはお城の隣にある平屋の建物だった。天井が高く作られているのでとても大きい。建物のうち1面には壁がなく、横一列に丸太で区切られた正方形のスペースが並んでいる。藁を敷かれたその場所で竜が5匹ほど休んでいて、スーを迎えてくれた竜たちもそこへと入っていった。

 休んでいた竜のうちの3匹もスーと同じベニヒリュウで、戻ってきたベニヒリュウと鼻先をすり合わせ、カチカチと小さく歯を鳴らしている。彼らはスーのことを目で追っていて鼻先を寄せてカチカチと音を鳴らしてきているのに、スーはそれをガン無視し、時にはガッと口を開けて追い払っている。竜舎に入るのが初体験なスーは非常に不満そうにしていたけれど、フィカルの蹴りを貰って渋々1番端の場所に入った。

 他の竜の世話をしていた竜騎士の一人が、こちらへ猫車を押して来た。上には大きな肉塊が載っている。


「これ、餌な。持ち主以外は嫌がるし自分であげてくれ」

「ありがとうございます」


 重そうなそれをフィカルが引き受けると、スーが目を爛々と光らせて喉で鳴いた。甘えるように擦り寄ってきた鼻筋を叩いて食べていいよと促すと、素早く大きな肉塊にかぶりついて飲み込む。私の体くらいの大きさのそれを軽々顎で持ち上げて齧っているのを眺めていると、餌をくれた竜騎士が唖然とこちらを見ている。


「……本当に変わった竜なんだな。勇者じゃなくても触らせるなんて」

「ええまぁ……」

「ベニヒリュウは群れの本能が強い竜なのに、こいつらには見向きもしないし」

「いつもはあんまり竜のいないところで暮らしてるので、そのせいかもしれません」

「大人しい種類とはいえ、君もよく触ろうと思ったな」


 おとな……しい……?

 思わず首を傾げながらスーを見ると、肉塊を口からはみ出させたままくりっと首を傾げた。可愛いが、牙の隙間から赤身が見えていて猟奇的である。






ご指摘頂いた間違いを修正しました。(2017/12/19)

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