八曲目『夏雪祭最終日・《夏色の雪》』
《♪》
【夏雪祭】最終日
「ヒドい、二人とも本当にヒドいです」
俺は涙目だった。
二日連続でメイドになったのだ。精神的苦痛図りしなかっただろう。英子さんと雄太さんは平謝りする。
「いや――。本当に悪かったよ。ゴメン」
「ゴメンね。でも可愛すぎたハルキくんが悪いんだよ」
二人の言葉に涙腺が崩壊するハルキ。
「うわぁぁぁぁぁん!」
「よしよし」
シャリアは俺を慰めるように頭を撫でていた。
「まあ、ホントに可愛かったしね! はるるん!」
「まあ、あれは反則だから。仕方ないよ。ハル」
ここに味方はシャリアしかいなかった。
「でもハルキ可愛かった」
シャリアが裏切った!
今度は灰になった。
演奏開始、一時間前だったが、緊張は誰もしていなかった。
そして本番。
《♪》
俺達はオオトリだった。流石に全部門のトップばかりで、結成されているだけあって期待度も高い。衣装に袖を通すと意識がバリバリと皮膚にくるのが伝わる。
でも俺達は皆、笑顔だった。
すると雄太が言った。
「ここはハルキに音頭を取って貰おうかな」
「え!」
英子さんも雄太さんの言葉に続く。
「そうだね。それがいいよ。なんたって【氷奏王子様】復活だもんね」
「英子さん!?」
それに皆見も続く。
「いいね。いっちょデカいの頼むよ。はるるん!」
「皆見まで!」
二津はいつも通り楽しそうに言う。
「ほらほら、頑張れ王子様」
「マジかよ。二津」
最後はシャリアだ。
「お願い、ハルキ」
「シャリア……分かった」
俺達は円陣を組む。
「雄太さん。そういえばバンド名は何ですか?」
「ハルキが決めて」
「分かった。この人、全部俺に丸投げしたいだけだ!」
「いいから早くぅ」
英子さんに急かされる。
「じゃあ。【リバースシーズン】で」
俺は俺が四季逆を英語にして言った。
「いいんじゃない?」
皆見が言う。
「よし! じゃあ【リバースシーズン】に決定! さあ、ハルキ!」
二津がボルテージを上げる。俺はコクンと頷く。
「皆、短い間だったけど、俺とシャリアを入れてくれてありがとう。これからも活動するかは分からないけど、全力で行こう!」
「「「「「おう!」」」」」
俺達の心が一つになった。俺達のステージが始まる。
《♪》
もう次で最後の曲だ。俺はギターからヴァイオリンに持ち変える。
そして最後の曲紹介が終わる。
「では、お聴きください。【リバースシーズン】、オリジナル曲です。【夏色の雪】」
《♪》
夏に降る雪は陽炎のように儚く、
幻みたいな奇跡の空。
太陽みたいに笑った君の笑顔は、
もう二度とみれない筈だった。
夏の色は雪の色とは真逆で、
雪は夏色にはなれない。
人の心はそうは変われない、
でも変える勇気は夏色の雪。
きっとこれはありえない現象、
そこにあるのに届かない白昼夢。
今はあってもいつかは消える、
雪のように儚い蜃気楼。
夏の色は雪の色とは真逆で
雪は夏色にはなれない。
恋はそう実らない、
でも実らせる努力は夏色の雪。
影を追うのはもうやめよう、
彼女は彼女で君は君だ。
夏の色は雪の色とは真逆で、
雪は夏色にはなれない。
人の心はそうは変われない、
でも変える勇気は夏色の雪。
夏の色は雪の色とは真逆で
雪は夏色にはなれない。
恋はそう実らない、
でも実らせる努力は夏色の雪。
《♪》
曲は俺のヴァイオリンの前奏から始まる。テンポの速い曲だが問題ない。パガニーニの曲と比べたら簡単である。
そしてシャリアが歌い始める。 いつ聞いても素晴らしい美声である。いつものほほん、とした印象を受けるシャリアだが、歌っている時の印象はガラリと変わる。表情は真剣そのもの歌の中にも力強さがある。
俺は見惚れないように演奏に意識を向けた。歌詞はほとんど頭に入ってこなかった。というか入れたくなかった。だってこれは俺の、シャリアに対する想いなのだから。恥ずかしすぎて聞けたものでは無かった。心の中でまた黒歴史を作ってしまったとなげいた。
《♪》