六曲目『夏雪祭一日目・約束』
《♪》
【夏雪祭】初日
俺は寝不足だった。合宿以降、シャリアを凄く意識してしまったからだ。それにシャリアには悪い癖がある。俺が寝ていると、その布団の中に、いつの間にか侵入していることがあるのだ。
そして起きたら起きたで、顔を真っ赤にして怒るのだ。困ったものである。
俺がそう思っていると、皆見に背中を叩かれる。
「こらこら。そんなので大丈夫か! 元気出せ! もっともっと熱くなれよ!」
「〇造かよ。ったく、皆見は元気なのな」
それを聞くと、皆見はフンと胸を張る。
「あたぼうよ! こちとら生まれながらの江戸っ子だぜ?」
「誰だよ。ってか、お前の認識の江戸っこズレてない?」
「そお? なら、絶対ズレてない奴で行くよ。俺のこの手が真っ赤に燃えるぅぅぅ!! シャ〇ニングゥゥゥゥゥ!」
「やめい。それガン〇ムファ〇トがレ〇ィゴーしちゃうでしょうが」
俺が暴走しようとする皆見の頭を小突く。
「やっぱ、ダメか……」
「駄目に決まってんだろうが」
「でも、私達、最終日まで暇だよ? 私達のクラス展示だし」
「学祭回れよ」
「ええ。つまんない!」
駄々をこねる皆見。仕方ない。
「お――い。二津! 皆見が暇らしいから学祭一緒に回ってやれよ」
「ちょっ! はるるん!?」
慌てて狼狽する二津。実は皆見は二津の事が好きなのだ。少々の付き合いだが、分からん方が可笑しいレベルだった。
「俺が気づかないと思ったか?」
「! な、何故!?」
「ほら、俺の傍には今まで英子さんと雄太さんがいたからな」
「っく! なんと言う説得力!」
ちなみに英子さんと雄太さんは元から付き合っている。
それを俺は、ずっと見てきた。まあ、分からん訳がないよね。
「という訳で頑張れ! 二津パス!」
俺はそう言って皆見を押し、二津に皆見をパスする。二津はそれをそっと受け止める。
「きゅうっ」
その瞬間、皆見の顔はトマトみたいに赤くなる。
「おっと、何これ? どういう事?」
「じゃな!」
俺はそう言って立ち去る。
「おい! ちょっと! ハル!?」
後ろから二津の慌てた声が聞こえたが、俺は気にせず、走りつづけた。
《♪》
俺は欠伸をしながら【夏雪祭】を回っていた。
「やっぱ眠い。どっかで寝たいけど……。あ、あそこなら寝れるな」
俺はそう思い屋上へ足を伸ばす。屋上には厳重に鍵がかかっていた。しかし俺には関係ない。
「確か、先生から借りてた鍵が……。っとと、あった、あった」
俺は鍵で屋上のドアを開ける。
下では祭りらしく、みんな騒いでいた。
俺は軽くため息をつき、首にかけているヘッドフォンを頭につけ、音楽をかけ、寝転がる。
そして俺は意識を少しの間手放す事にした。
《♪》
柔らかい。頭の後ろに何か柔らかいものが当たっている。何かわからないが、ひんやりして、すごく気持ちよかった。
「ん、できれば動いて欲しくない。くすぐったい」
ん? 上からそんな声が聞こえる。
俺が恐る恐る目を開けると、そこにはシャリアの顔があった。
「うぉっと、なにしてんだよ! シャリア」
俺は飛び起き、ヘッドフォン外して怒鳴る。
「ハルキが屋上に行くのが見えたから追ってきた。そしたら寝てたから膝枕した。それだけ」
シャリアはいつも通り無表情でそう言う。
俺は呆れて物も言えなかった。
「後、言っときたい事があったから来た」
「なんだ?」
「合宿の時、私に質問した? 覚えてる?」
覚えてるに決まっている。むしろそのせいで、眠れなくなっていた。しかしそう言う訳にもいかず、普通に返事する。
「まあな」
「【夏雪祭】最終日の【後夜祭】の時、またここに来て。そしたらあの時の質問に答える」
シャリアは何故か自分も持っているのをアピールするかのように鍵をクルクルと回して言った。
《♪》