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四季逆の唄~Reverse Season~  作者: 臣将汰
夏の季節『夏色の雪』
5/9

五曲目『合宿開始。料理と作詞と……線香花火』

《♪》



 結局バンドに入ってしまった。集合場所のカフェに行くと、ニコニコ顔で皆見と二津が座っていた。そして俺達は曲を決めた。

 一日だけ近くの防音機能付きの海辺のペンションで音合わせのため、という名目で今週の休みに【合宿】をする事になった。

 そして俺は更に新たな試練を言い渡される。


「一曲でいいから歌詞作って」


「はぁ!?」


「曲はこっちであるのと合わせるから。合宿終わるまでにお願い。しくよろ――」


 皆がニコニコ笑う。

 拒否したら分かってるよね? と言いたげにシャリアがUSBめもりを見せつけてくる。

 嵌められた! 俺は力無く、その話を受けた。



《♪》



 合宿当日。

 俺たちは各自ペンションに集合し、音合わせを始める。


 それぞれの担当は。

 シャリアがボーカル。

 二津がエレキギターとギター。

 皆見がドラム。

 英子さんがキーボード。

 雄太さんがベース。


 そして俺はギターとヴァイオリンという事になった。


 ちなみに俺がギターを弾いている時、二津はエレキギターで、二津がギターの時、俺がヴァイオリンと決まった。


 俺達は各自で楽器の調整をし、演奏を始める。

 シャリアは美声で歌い、二津はバランスを取りながら演奏する。皆見は荒々しくドラムを叩き、英子さんは静かにピアノの上を滑る様に弾く、雄太さんは完璧にリズムを全員に合わせて、ベースを弾く。

 初めてシャリアの歌を聴いたが、プロ並みの完成度だった。ここにいるメンバーの技量に劣らない、素晴らしいものだった。


 俺はギターの時もヴァイオリンの時も、製錬に研ぎ澄ました間隔で奏でた。

 しばらくしてお昼を食べる事になるが、そこで一波乱起きた。


「さて、そろそろご飯にしようか」


 雄太さんが呟く。


「そうね」


 英子さんもそれに同意する。


「一応食材は僕が担当だったんで、結構持って来ましたけど、誰が作ります?」


 二津が冷蔵庫を漁りながら聞く。


「というか、この中で料理できる人って、誰?」


 そう皆見が聞くと、意外な事になる。

 なんと手を挙げたのは俺と二津と雄太さんだけだった。

 つまり男子は料理はできるが、女子が料理できないという、異質な空間になってしまった。

 そういえば最初のほうで、シャリアがご飯を用意したと言っていたが、ただ冷凍食品を温めただけだった。


「え、えっと……どうしましょうか」


 俺がビクビクしながら呟く。なぜなら女性陣から、なんかドス黒いオーラみたいなものが出ていたからだ。


 怖ぇぇ――――。女子のオーラ、超怖ぇぇ――――。


「と、とりあえず男組集合」


 珍しく雄太さんの声が上ずっていた。

 相談中……。



《♪》



 結果的当番制になった。昼は俺、夜は二津、朝は雄太さんという順番で。というか実際、ジャンケンしただけだった。

 勝ったのは、二津だった。

 夜はバーベキュウをするので、手間が掛からず、楽というのが、二津談である。

 とりあえず厨房に行く。


 ご飯が炊けていたし、魚介がちょっと多めにあったので、ピラフを作る事にした。


 まず、フライパンに固形バターを滑らせ、バターが解けた所で、塩と胡椒で下味をつけたホタテとエビをソテーする。焦げ目が少しついたら、皿に移す。

 次にニンニクを細かく切り、オリーブオイルで黄金色になるまで炒める。そこにシラスを投入し、隠し味に日本酒を少し加えて、火が通りすぎないように手早く炒めて皿に移す。

 そしてフライパンの熱が冷めない内に、火に戻しそこにご飯を投入する。そこへ最初にソテーしたホタテおエビを溶けたバター事入れる。しっかり炒める。

 炒めたらそこに塩コショウとマヨネーズと加える。そして火を止め、そこに解き卵を全体に満遍なくかけ、ご飯と具に絡ませる。ご飯に絡まった所で火を入れ、よく炒める。

 それをご飯に盛り付ける。これでピラフその物は完成。その後シラスとニンニクとオリーブオイルに火を入れる。三十秒で火を止める。

 その後、それをピラフの上からかける。それで完成。

 簡単海鮮ピラフの出来上がりである。


 それを振る舞った所、女子は愕然とした。


「ぐっ! おいしい」


「うまっ! ってか、何これ、お洒落!」


「ハルキくん。中々やるわね。ニンニクが入ってるのは頂けないけど!」


 あんまりオーバーなリアクションだった。俺も食べ始める。


「うん。まあまあかな」


 それに二津も続く。


「そうだね。後はレタス入れてもいいかもね」


「あ、レタスな」


 俺は思い出したように頷く。


(注、これは料理系の作品ではありません)


「それにオイスターソース入れてもよかった気がするよ」


「ああ。なるほど」


 雄太も会話に入る。

 その姿を見て、女子たちはこう思う。


(((ここいる男子の主夫スキル。マジヤバイ!!)))


 危機感を覚えた女子達だった。



《♪》



 そんなこんな飯を食べ終えた後、血まみれのスイカ割りに、地獄のバレーボールを雪が降っているのにやった。雪が血で染まった。バカである。

 その後、ボロボロになりながら、勿論ちゃんと練習もした。


 そんなこんなで夜は静かな雪の中、ベランダでバーベキュウをした。そしてみんな風呂に入り、上がると、海に出て花火をした。


 ロケット花火や、ネズミ花火など、その他諸々のせいで、また血を見る事になりそうになったが、最後は線香花火のおかげで静かなものだった。



《♪》



 端の方で、俺は線香花火を持ちながら、歌詞を考えていた。


「ん――――?」


 するとシャリアが隣に座る。


「どうした?」


「いや、歌詞がな。困ったことに思い浮かばなくて、困ってんだ」


 俺がそう言うとシャリアは素っ気なく言う。


「そう」


「そうだ」


 ………………。


 しばらく沈黙が続き、口を開いたのはシャリアだった。


「ねえ」


「ん?」


「ハルキはアリア姉の事、好きだった?」


 ………………。


 沈黙の後、俺は考えを巡らせた結果を伝える。


「好きだったよ、多分。あんなに泣いたの、初めてだったし」


「そう」


「そうなんだろうな」


 ………………。


 また沈黙が続く。今度は俺から声をかけた。


「んじゃ、次は俺からも聞こう」


「線香花火が消えるまでならいいよ」


「なんだそりゃ」


「なんだろう?」


「しらねぇよ」


「……質問いいの?」


「あ、いや、今聞く。えっと、シャリアは前、俺の事を恨んでないって言ったよな」


「言った」


「じゃあ、なんで俺を探してたんだ?」


 ………………。


 再びの沈黙。その時、シャリアの横顔が赤く染まっているように見えた。そしてシャリアの口から声が開かれる。


「落ちた」


「は?」


「線香花火」


「あ……」


 気が付いたら線香花火は落ちていた。


「終わちゃった」


 そう言い、シャリアは立ち上がる。


「おい、質問の答え……」


 俺は追いかける様に手を伸ばした。しかしシャリアにするっと躱される。そしてクルッと回り、右手の一指し指を口の前で立てて言った。


「線香花火が落ちたから秘密」


 その時、いつも感情に乏しいシャリアが笑った気がした。


「なんだよ、それ」


 俺は顔が熱くなり、頭をポリポリかいた。

 シャリアの笑顔が幻想的で、思わず見入ってしまったなど、口が裂けても言えなかった。

 結局俺が歌詞を書いたのは、その後で、書くたびにシャリアのあの笑顔が浮かび、完成した後も、モンモンと眠れなかった。



《♪》


簡単海鮮ピラフは実際に作れます。よければ作って見てください。

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