四曲目『四季島の先輩達と同居人からの脅し』
《♪》
次の日、クラスのホームルームで転校生の紹介があった。
その転校生は案の定シャリアだった。
「シャリア・ボウーエンです。よろしくお願いします」
シャリアは白いYシャツにクリーム色のベスト、黒のラインが入った白いブレザーに、白のラインが入った黒いネクタイをつけていた。下は黒を基調としたミニスカートに、黒のニーソックスに革靴を履いている。小さな頭の上にはちょっと大きめな黒い淵のベレー帽が乗っかっており、銀色の長い髪が映えている。
身長は小さく百三十センチ未満だろう。
無い胸を張りながら一生懸命挨拶をしていた。学科は声楽科にしたらしい。姉譲り美声を持っているそうだ。
確かに透き通った声であるが、それが歌で発揮されるかは別問題である。
そんな事をぼぉっと考えながら、中庭のベンチに座って牛乳を飲んでいると、頭から声が降ってくる。
「おや――。おやおや――――」
そんな声が聞こえるとズシッと頭の上に重くて柔らかい何かが圧し掛かる。
この声にこの重み……。
「おや――――。ハルキくんじゃない。何してんの?」
こんな事をしてくるの人物を俺は一人しか知らない。
「何って見ての通り牛乳を飲んでますが? 英子さん」
今俺の頭の上に胸を乗せているのは秋月英子さんだ。
学年は俺たちの一個上の三年生だ。
緑のラインの入った白のYシャツに、深緑のブレザーを着、薄緑のネクタイがぶら下がっている。スカートも緑主体のチェックのミニスカートにストッキングと相変わらず、刺激的な服装着ている。髪は適度に長い綺麗な地毛の茶髪を、風に任せて靡かせている。
「ふ――ん? それだけ?」
「はい。それだけです」
「ところでさ? 君のクラスに可愛い転校生が入ってきたよね?」
「そうですね。入ってきましたね」
俺がそっけなくそう答えると意外そうな顔をする。その後、英子さんは急にニヤニヤと顔を緩ませる。
「おや? おやおや――? いつもなら〝そういう〟所はキチンと否定する君が、珍しく否定しない? ん? どういう事かな――? ちょっとお姉さんに詳しく話してご覧? ん? ん?」
そう言って更に密着度を上げる英子さん。
「ちょっ! 英子さん!?」
俺が狼狽すると頭の上の上でスパーンッといい音が聞こえる。
「英子。ハルキが迷惑してるよ。降りなさい」
「あ、雄太さん」
そう言って英子さんの頭を丸めた新聞で叩いたのは、俺の先輩で、英子さんの同級生にして幼馴染の早峰雄太さんだった。
赤いYシャツの上に黒の学ランを来ており、手には高そうな銀の腕時計をしている。黒いズボンに赤いスニーカーを履いている。
髪は珍しい赤毛で、とても日本人に見えないが、遠縁の祖先に外人いただけで、立派な日本人らしい。
身長は少し小さめで百五十センチ程らしい。身長の話をすると、すごく怒るからしない事が得策である。
「おい、ハルキ今、余計な事を考えなかったかい?」
「イエ、ソンナコトハ、ナニモカンガエテ、イマセン」
「何で片言なんだい……?」
そう言って雄太さんはこちらをジト目で見ていたが、俺はシラを決め込む。
「うう、痛いよ。暴行だよ。DVだよ――。酷いよ――。ユウタ!」
そう言って嘘泣きする英子さん。
「はいはい。分かったから、まずはハルキから降りなよ」
「え――。嫌だ――――」
そう言って英子さんは俺の首に手を回して来る。
すると英子さんの細い腕がちょうど締り、首がキリキリと音を鳴らす。
「ちょっ! 英子さん! 首! 首! 締まってる! 締まってるから!」
俺がそう言うと英子さんは慌てて手を離す。
「ご、ごめんね! ハルキくん」
「な、なんとか大丈夫です」
「英子……」
「っちょ! ユウタ! そんな冷ややかな目でこっちを見ないで! 反省! 反省してるから!」
そんな風に馬鹿をやっていると、中庭に通じる扉からシャリアが出てくる。そして俺を見つけた瞬間トテトテとこっちに向かって走ってくる。
「ハルキ。何してる?」
「牛乳飲んでる」
「やっぱり牛乳飲むと大きくなれる?」
「いや、その辺は知らない」
「そう」
何故か、そう言いしょぼくれるシャリア。何、お前大きくなりたいの? そのままでいいのに……。は! 今、俺は何を!
そんな事を考えていると、後ろから英子さんの声が聞こえてくる。振り返ると、雄太さんにチョークスリパーされていた。シャリアと俺が話している間に、どうせ背の話でもしていたのだろう。
相変わらず成長しない人である。
「お……や……。ひょ……っと……して。ギブギブ……! ユウタ! ……これは流石にまずい!」
英子さんがそう掠れる声で訴えると、雄太さんは渋々チョークスリーパーを解いた。
「さてと、ひょっとして君が噂の転校生ちゃんかな?」
英子さんが飛び起きて聞く。
「はい。そうですが?」
「なるほど……。君がメアの妹か」
雄太さんは、シャリアを見て懐かしそうに呟く。
「うんうん。いい子、いい子」
「? ? ?」
訳も分からず、英子さんに頭を撫でられるシャリア。
「初めまして。私の名前は秋月英子。私はね。メア……、君のお姉さんの親友だったんだ」
「!」
そうなのだ。どうやら、アリアと英子さん、そして雄太さんは小学校が一緒で幼馴染だったらしい。俺がそれを知ったのは法事の日だった、かつては二人から罵倒を食らい、責められた。そして俺が、進学した【咲華学園】の中等部で再開した。それから紆余曲折あり、まあ、なんとか仲が良くなった。
「それでね。君を私達のバンドに誘いたいんだけど…………」
そう言いながら英子さんが俺を見る。どうやら、皆見と二津のバンドにシャリアを誘いたいらしい。
「なんですか?」
「いや、誘っていいかなって?」
「なんで俺に聞くんですか?」
「転校生ちゃんの名簿の保護者欄に君の名前が入ってたから」
「なんでだよ!」
俺は焦ってツッコム。
「あははは。冗談冗談。でも本当に誘っても大丈夫?」
「いいですけど?」
それを聞くと、何故か不機嫌になるシャリア。
「えっと秋月さん。私を誘うのはいい、それは【夏雪祭】でやるの?」
「英子でいいよ。そうだね。出来れば【夏雪祭】の後も活動したいと思ってるけど」
「なら、ハルキの事も誘ってる?」
「当然だよ! ハルキは弦楽の成績トップだし、仲もいいからね。でもハルキには断られてて」
それを聞くと、シャリアの目がギラッと輝く
「英子さん。その話受ける」
「ホント!」
英子さんは飛んで喜ぶ。だがシャリアはまるで狩人のように俺を見ていう。
「それで、ハルキに頼みがある」
「な、なんだ?」
俺はシャリアの出すオーラに凄みを感じ身を捩る。
「私と一緒にバンドして」
「こ、断ったら」
ここまで強く言うからには、何か切り札があるのだろう。大体予想はついているが、聞きたくない気持ちが溢れてくる。
するとシャリアは胸ポケットに手を突っ込みそこから【黒歴史】と書かれたUSBメモリを取り出す。
「これが何か、ハルキなら分かる筈。勿論バックアップはいたる所にある」
「そ、それをどうしようってんだ!」
「この学園の全校生にメール配信する」
それを聞いて俺は力無く崩れる
そしてそのままの状態で、「やります」と細々と呟いた。
《♪》