二曲目『孤独な演奏会』
《♪》
俺は自分の住んでるマンションに帰ると鞄を玄関に投げ捨て、ヴァイオリンだけを肩から下げて再び、マンションを出た。
マンションを出る頃にはちょうど良いことに雪は止んでいた。
しばらく歩くと、学園のそばに大きな山、【弧織山】がある。
その山の麓に【展角公園】と呼ばれる公園がある。そこの公園には林があり、林の中にちょっとした池がある。俺がヴァイオリンを弾く時は、いつも決まってその池の側で弾いていた。
俺は池に着くと近くのベンチにヴァイオリンケースを置き、そこからヴァイオリンと弓を取り出す。そしてヴァイオリンを肩に乗せ、その上に顎を置き、弓を弾く。
奏でる曲は【二十四の奇想曲 第二十四曲】。作曲者はニコロ・パガニーニ。彼は生前、その類まれなる演奏技術から『パガニーニの演奏技術は、悪魔に魂を売り渡して手に入れたものだ』と言われていた。そんな彼が作った曲を演奏するには高い技術が求められる。しかし俺はそれをいとも簡単に弾く。自らの気分で弾く曲が変わるが、今日はこのモヤモヤした感情を全てヴァイオリンに乗せて奏でる。
いくつも変わるコード、激奏と言えるほど激しいリズム、今だけは全てが心地良い。
俺は自ら感情を今だけはと、ヴァイオリンに流し込んだ。
《♪》
一頻りヴァイオリンを弾き終えると、気がつけば雪がまた降り始めていた。俺は急いでヴァイオリンをケースに直すと帰路につくため立ち上がる。
黒いパーカーについているフードを深く被り、ヴァイオリンケースとを背負い、降る雪を避けながら帰路につく。そして公園を出る時、俺は目を疑った。
「ありえない。何故君がここに」
俺の口から毀れた。
俺の目の前には長い銀髪に雪を積もらせた少女がそこにいた。
少女はかつて俺が愛していた『彼女』と売り二つの容姿をしていた。
「それは、簡単。あなたを迎えに来た」
「なにを言ってる。馬鹿にすんな。俺は二度と人前で演奏する事は無い」
俺はそう言って、ヘッドフォンを付け歩き出す。
「別にそういうつもりで来た訳じゃない。でも、それは、あの『事故』でアリア姉が死んだから?」
その少女とすれ違う時にそう言われ、俺は立ち止まる。
それを聞き、俺はつい尋ねてしまう。
「シャリア。……お前は俺を恨んで無いのか?」
少女、シャリアは答える。
「恨んでない。あれはアリア姉が悪かった。あなたが責任を感じる必要なんて無い。それに……」
俺は黙って話を聞く。
「とにかく、しばらく私は【四季島】にいる。今日は挨拶。それだけ」
そう言うとシャリアは立ち去った。
俺は歩き出し、通学路の途中にあるトンネルの壁に背を預け、涙を流し嗚咽を漏らした。
《♪》