一曲目『四季島の学生達』
初のまともな恋愛小説です。楽しんでいただけると幸いです。
*注、この小説はカクヨムに投稿していた小説の修正版に加筆したものです。
《♪》
つい昨日までは、太陽がまるで全てを溶かすかの様に、ギラギラと輝いていた。
しかし、梅雨が終わった六月の半ばだと言うのに、なんと雪が降りなんと一五センチも降ったのだ。
(夏雪か……)
異常気象の一つらしいが、ここ【四季島】では、常識的な事だ。
毎季節にある一定の期間だけ、その季節と逆の事、【四季逆】が起こる。この島の風物詩みたいなものだ。
今は【夏雪】。夏に降るひと時の幻と言われる、一番幻想的な【四季逆】だ。夏が少し涼しい雰囲気になっていて気持ち良い気がした。
クラスにいる女連中はキャッキャッと騒いでいるし、男子は男子で、子供みたいにはしゃいで、盛り上がっていた。
こういう予想外の出来事が起きた時、人は喜ぶか、面倒がるかのどちらかである。
だが俺にとっては『彼女』失ったのも、こんな風一つ無い大雪の日だったため複雑な気分だ。
そんな事を思いながら、俺(氷宮春樹)は外で振り続ける雪を、教室の窓際にある自分の席に座りヘットフォンから聞こえる音楽に身を任せながら、頬杖をつきながら見下ろす。俺は無意識にふうと、ため息を吐いていた。
すると後ろから両頬を急に抓られる。
「ほ、ほまへ、ふぁみほしゅる(お、お前、何をする)!」
俺が頬に抓った相手に文句を言うが、体制を変える気は無い。
その行動を起こした張本人は、俺の頬から手を離し、俺のヘッドフォンを取り、顔を覗き込む。
「おセンチな雰囲気出して――どうしたの? はーるるん♪」
そんな脈絡の無い事をし、俺の事を『はるるん』と呼ぶ人間は、俺の知る限りたった一人。
「俺がセンチメンタルな雰囲気を出してた? 馬鹿言うなよ。俺はいつも通り、ぼぉっと世界を見てるだけだ。後、俺を『はるるん』と呼ぶな」
俺の顔を覗きこんでいるのは幼馴染の皆瀬皆見。小さい頃に掛かった病が、原因で潰れた左目を隠す様に眼帯をしていて、さらに眼帯を隠す様に自慢の地毛の茶髪で隠している。前髪が異様に長く顎ぐらいまで伸ばしているのに関わらず、後ろ髪はショートという少々アンバラスな髪型をしている。
また服装は白のYシャツに青いネクタイをし、その制服の上に青ジャージを着ていて、スカートは丁度、膝の上くらいまでの長さで、青と黒の縞々のニーソックスを履いている。
彼女は明らかに普通では無い格好に偏った価値観ルールを持ち、いつも陽気で人に悪戯をする事を生き甲斐としている、まあ変わった奴だ。
「まあ、はるるんが、ぼぉっと見ていた事を否定はしないけどさー。世界とは大きく出たね。ま、いつもの事か……。それより! おセンチな雰囲気出してのは事実だよ――。ね――、つー君♪」
「確かに、くくっ、ハルにしては珍しくセンチメンタルオーラ、醸し出してたね。ミナの前で、そういう態度を取るのは自殺行為じゃないかな? かかっ」
皆見に話を振られた少年は、笑いを堪えている。
こいつは、那軒二津。髪は金色で長くも無く短くも無い長さで、オレンジの髪止めをしている。瞳は綺麗なクリーム色をしていて、初対面の時、皆見は食べたくなるほどおいしそうと言っていた。
服装は黄色い線の入ったYシャツにオレンジのネクタイをし、その制服を崩したくないのか、崩したいのかは、分からないような格好をしている。赤いベストを着、ズボンは黄色主体のちょっと奇抜な色で、更にそのズボンを捲くり膝下辺りまで捲くり上げている。そのふざけた格好を誤魔化す様に、高そうなオーソドックスな茶色のベルトし、白の清楚な靴下を履き、オレンジのスニーカーを履いている。ついでに左手にはスポーティなオレンジ色のバックルがついている、ソーラパネル入りのデジタル時計が輝いている。
こいつの格好はバランスが悪く見えて、バランスが崩れすぎて、丁度いい感じになっている。二津は悪い意味で、いい性格をしていて面白いことが起こる場所に居たいらしく、腹黒く奥底が見えない、まあ、こいつも変わった奴だ。
というかこいつらの恰好を見て分かる様に、この学園には全百種類以上の制服のバリエーションが存在する。制服の校則もユルユルだ。まあ、ここ【四季島】が学園島だから、別にいい気もするが。
「笑ってんじゃねえよ。二津。まあ、さっきは確かにセンチメンタルになっていたかもしれない、だが言っておくが俺だって人間だ。そりゃあ、思い出しない過去の一つや二つあるつーの」
俺がため息をつきながら、窓に立てかけているヴァイオリンに一瞬視線を移す。
「いやいや、ハルがそんなに表に出る態度をとっているのが珍しいだけだよ。フフッ。いつもは全くの無表情だからね。ククッ」
二津はいつも通り笑いを堪えながらそう話す。
「確かに」
皆見はうんうんと首を縦に振る。
「お前ら……。まあ、いいや。しかし今年はいつになくクラスが騒がしいな」
諦めてため息を吐きながら、俺はクラスの雰囲気を見て呟く。
「まあ、冬以外の【四季逆】はお祭り状態だからね。仕方ないさ。今年の【夏雪】は十日間ぐらいだって朝ニュースで言ってたし、それに【夏雪祭】が近いからね。仕方ないよ」
二津は肩を竦める。
まあ、二津がそんなリアクションを取る理由も、分からんではない。【夏雪祭】はまあ言ってしまえば、島全体でやる祭りの一つで、でっかい夏祭りみたいなものだ。俺達が通っている【咲華学園】では【夏雪祭】にあわせて文化祭をやっている。そして【夏雪祭】には恋愛事のジンクスが良い物から悪い物まで大量に存在する。
青春時代の高校生活、色恋もなければ、楽しさ半減といった所になるだろう。そんな噂がでても仕方ない。
「【夏雪祭】は確か……」
「いつも通り【夏雪】が終わる最終日の三日前からだから七日後だからね。皆ラストスパートかけてるんだよ」
皆見はガッツポーズをする。
「かく言う僕達も忙しいしね」
二津も困ったように笑う。
「ああ。確か、お前らバンドやるんだっけ?」
俺は思い出したようにそう言う。
思い出してみれば約一ヶ月前、皆見が申請用紙を【夏雪祭】実行委員に持っていった話を思い出す。
「え――。忘れてたの――?」
皆見は不貞腐れながら、俺の頬をまた掴み引っ張る。
こいつら曰く、一応、俺らは音楽科の生徒なんだし、高校生っぽい思い出を作るためにバンドやる事にしたらしい。俺はバンドには入ってないが。
「だはら、いはいっへ(だから、痛いって)」
「ほら、ミナ。そんな事したってハルには仕方ないよ」
「そうだね――」
二津に言われて皆見は、俺の頬から手を離す。
「いて――な。ったく」
俺がそう言って頬を擦っていると、二津が俺に言う。
「ね――。やっぱり、僕達のバンドに入りなよ。エイコさんも、ユウタさんも歓迎してくれるよ?」
それを聞き、思う。確かにいい話だ。二津達のバンドメンバーは皆、実力が高い。成績もトップクラスだ。それに全員、顔なじみというか腐れ縁みたいなもので、居心地も悪いとはとてもじゃないが、思えない。だが……。
「悪い。やっぱり、まだ……な」
俺はそう言って、荷物いっしきを持って立ち上がる。
「ん? どうしたの?」
皆見が聞く。
「今日ちょっと調子悪いし、早退するわ」
俺の顔を見て二津は何かを察したのか、頷く。
「ああ。分かった。先生には僕から伝えとくよ」
その言葉を聞き、俺は苦笑いをし、謝る。
「悪いな」
「いや、こちらこそね。まあ、気が乗ったら言ってよ。一応、ハルの席は空けとくから」
「うん。考えとく。まあ期待しないでくれ」
そう言うと、二津はいつもの様に笑う。
「フフッ。期待して待ってるよ。【氷奏王子様】」
「その呼び名だけは勘弁してくれ」
俺は自分の昔の呼び名を聞き、憂鬱な気分で教室を出た。
《♪》